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《31》恋文
しおりを挟む学園の様子や生徒会でのこと、学業や剣術の進捗状況など、気づけば、話し始めてから優に2時間が過ぎている。
両親は、まだ話し足りないというようにニコニコとノワを見つめていた。
「·····そういえば、アレクは?」
話に一段落がついた頃、ノワは彼がいないことに気付く。
「あら、どうしたのかしら」
母が首を傾げる。
「久しぶりに兄が帰ってきたというのに」
アントニーもアレクシスの行方は知らないようだった。
「僕、部屋見てくるね」
「アレクシスもノワの帰りを心待ちにしてたのよ」
「ああ、ずっとそわそわしていたな」
両親が顔を見合わせて笑う。
ノワは胸騒ぎがした。
(何かあったのかも·····)
部屋に向かう途中にもアレクシスはいなかった。
知らず知らずのうちに駆け足になる。
ノワはノックも忘れ扉を開け放った。
「アレク!」
叫び声は静かな空気に溶けた。
夕焼けに染った室内に、更に背が伸びたアレクシスがいた。
鋭さのある横顔が振り返る。
「·····ノックをしてから入るのがマナーです」
声が硬い。
久しぶりの再会を喜ぶような雰囲気ではなかった。
「ごめん、勝手に開けて」
でも、アレクが会いに来てくれないから、と、はにかんでみせる。
返答は無かった。
「アレク?」
彼がゆっくりと近づいてくる。
真剣な眼差しだ。
ノワはギクリとした。
「兄さん宛に手紙です」
アレクシスはノワの前に何かを差し出した。
「あ、ありがとう」
慌てて礼を言い、手紙を受け取る。
封を開けた痕跡があった。
「不注意で濡らしてしまい、乾かす為に封を切る必要がありました。申し訳ありません」
彼が視線を伏せて謝罪する。
大丈夫だよと両手を振るが、アレクシスの顔には翳りを感じた。
手紙に対する罪悪感のせいだろうか。
「アレク、僕、怒ってないよ?」
「はい」
短い返答では心情を読み取りにくい。
ノワはアレクシスに笑いかけつつ、手紙に目を通した。
内容は、休暇は満喫出来ているかという差し障りない話題から始まった。
"───聞くまでもなく
ノワくんは僕が恋しいだろうが、
それは僕も同じようだ。
何せ、休暇が始まってから今日まで
君のことを思い出さない日はない。
休暇明けにはレディーのことを
「ノワくん」と
呼び間違えてしまったエピソードを
聞かせてあげよう。"
ノワはため息をもらし、手紙を胸ポケットに仕舞う。
キースは冗談を口にしないと生きられない病でも患っているのだろうか。だとすればとても気の毒だ。
未だ目の前に立っているアレクシスに気づく。
そういえば、ここは彼の部屋だった。
「アレクも、居間に行こう」
ノブに手をかける。
扉は、後ろに立った人物に押さえられた。
「·····?」
軽く振り返ると、視界の端で銀髪が揺れた。
「アレク?」
「"彼"とは、随分親しい様子ですね」
「·····?」
キースの事だろうか。
アレクシスの声には心做しか棘があった。
「えっと·····うん、ルームメイトだから、それなりには仲良いよ」
扉とアレクシスに挟まれ、身動きが取れない。
ノワはそのままの体制で言った。
尚更体格差を痛感させられる。今後ろに立っている彼に、年下らしい可愛らしさは無いかった。
「·····ルームメイト·····?」
むしろ威圧的な雰囲気さえ感じる。
「ぼ、僕、久しぶりに、アレクとゆっくり話したいな~!そうだ、お菓子でも食べながらさ·····」
ノワはカラ元気な笑い声を上げ、再びドアノブを捻ろうと試みた。
開きかけた扉は、大きな音を立てて閉じる。
アレクシスが手の平を叩きつけたのだ。
それはあまりにも強い力だった。
ノワは思わず飛び上がる。
「なら、今ここで話しましょう」
彼は、ノワの逃げ場を塞ぐように、扉へ鍵をかけた。
「二人きりで」
すぐ後ろから、ひりつくような視線を感じる。
こんなアレクシスは初めてだ。
ノワは脳みそをフル回転する。
彼になにかしてしまっただろうか。
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