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第2話 部屋から出る
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3つの窓のカーテンを全部開け、外の光を部屋いっぱいに取り入れる。
アリスには申し訳ないけど、今日はさわやかな天気で新生活を始めるにはもってこいな感じだわ。
窓のすぐ近くにある木の枝で鳥が毛づくろいをしているのが見えて、何だかほっこりした。
さて、色々と考えている間に時間も経ったし、私も身だしなみを整えないとね。
日記に書いてあったけど、昨日から学園は長期休みに入ったらしく、今日は問題の婚約者という奴がアリスに会いに来るらしい。
婚約を解消する話だと思うんだけど、今までのアリスは婚約解消を拒んでいたのよね。慰謝料を請求されているから、それが嫌だったみたい。
当たり前の話よね。どうして浮気されたほうが慰謝料を払わないといけないのよ。婚約を解消して、相手に慰謝料を請求すればいいだけの話なんだけど、それが言えなかったみたい。
……というかこの話、両親は知らないみたいだから困ったものだ。
これについては私から話をすることにして、さて、アリスの婚約者はどんな男なのかしら。普通の人間の思考の持ち主でないという事は確かだろうから、せめて言葉が通じる人間だといいわね。
言葉が通じなくて、ジェスチャーだけで会話するのはさすがに辛いわ。
トイレと洗面所はリゾートホテルと同じような感じで部屋に備え付けられてあったので、洗面所に置いてあった石鹸で顔を洗う。顔についていた血を落として、見た目のおどろおどろしさをなくすと、少し顔色が良くなったように思えた。
化粧水や乳液らしきものもあったので、それも遠慮なく使わせてもらった。
日記のこともそうだけど、確実に日本の文字ではないのに普通に文字が読めてしまうのは神様からのサービスといったところかしら。
もう一度、鏡で顔を確認してから、ぼさぼさの髪を化粧台の上においてあったブラシでとかす。すぐに髪がブラシにひっかかって痛くてイライラしてしまって叫びたくなった。
これは、髪の毛を洗ってトリートメントしないと! トリートメントがこの世界にあるのかはわからないけど、どうにかしなくちゃいけないわ。鬱陶しくてしょうがない!
アリスは外見のことをあまり気にしないタイプだったのか、もしくはメイドが手入れしないといけないところを、ちゃんとしてくれていなかったのかはわからないけど、ここまで放置するのはどうかと思うわ。
というか、親は身だしなみについては何も言わなかったの? 清潔にしなさいとか言うべきだったんじゃない?
でも、海外では毎日、体を洗っているわけではないみたいだし、これが普通なの?
鏡の中のアリスを見て考える。
髪の長さは腰くらいまであるけど、毛先がたいぶ傷んでるから、一度バッサリ切った方が良さそうね。
この国に美容院はあるのかしら? なかったとしても髪を整えてくれる人はいるわよね?
ネグリジェから服に着替えるために部屋を見回すとチェストはなかったが、クローゼットがあった。中を確認してみると、ドレスが何着かかかっていた。
その中から今日着る服を探してみることにした………んだけど、アリスには申し訳ないが、服の好みが私と違いすぎて、どれも着る気になれなかった。
なんというか、若い女性が着る色合いではなかった。
赤のネグリジェを着てるから赤のドレスが多いのかと思ったけど、その色のドレスはなくて、茶色で奇抜なデザインのドレスばっかりだった。
この世界にも流行りがあって、今年は茶色のドレスが流行りだったりするってこと?
茶色のドレスが並ぶ中に、一着だけ違うものがあったので確認してみる。
紺色のブレザーにプリーツスカートと白いシャツ。
シャツの襟に紋章みたいなものが刺繍されているから、学園の制服っぽいわね。
アリスの好みをとやかく言うつもりはないけど、一番、私が着ても良いと思える服装が制服だけってどうなの?
子爵家がどれくらい裕福かはわからないけれど、安物でもいいから新しいドレスを買ってもらえないかしら。
あとで、このこともアリスの両親に相談してみよう。
制服に着替え終わり、ローファーがあったので履き替えてから、鏡で自分の姿を確認する。
スカートが長すぎる気がする。
ふくらはぎまで隠れていて、昔のヤンキーみたいな感じになってる。
私の高校時代のような短い丈にしたいとは思わないけれど、色が白くて綺麗な足を出すのは悪くない気がする。丈は休みの間に直してもらうことにして、今は応急処置的に腰の部分を折り曲げて短くしておく。
あとは、このシーツをどうするかだわ。枕にも血がついてるし、これは換えてもらわないといけない。
日記は鍵付きの引き出しに入れておいたし、その鍵は彼女がいつも身につけていたブレスレットにチャームとしてついているから、私も同じようにつけておく。
この国について詳しいことはさっぱりわからないわけだし、その知識がないことを怪しまれないように、血を吐いてぶっ倒れて記憶をなくした、とかいう設定にでもしておこう。
「準備も出来たし、行くとしますか」
軽くメイクをし、気合を入れてから扉を開けると、ちょうど目の前を通りかかったメイド姿の若い女性と目が合った。
そのメイドは私を見るなり足を止めて、一瞬、驚きの表情をしたけど、すぐに口元に嫌な笑みを浮かべて言った。
「あら、お嬢様。今日は学園はお休みですよ? 寝ぼけていらっしゃるんですか?」
人を小馬鹿にしたような口調だった。
アリスをいじめていたメイドの名前は日記に書いてあったけど、目の前にいる彼女の名前がわからないから、該当するのかがわからない! この態度から考えると、このメイドもアリスをいじめていた1人だと思うし、私はこの家のお嬢様なんだから、遠慮せずに聞いてみる。
「私、血を吐いてしまったショックで記憶がないの。私を小馬鹿にしてくれてるみたいだけど、あなたの名前は?」
「はあ?! まだ夢の中にでもいるの?!」
メイドのくせに、どうして自分が働いている屋敷の当主の娘に対して、そんな口がきけるのか知りたい。
こういうのマンガでしか読んだことないけど、性格悪い奴はどこにだっているし、こういう奴がこの世界にいたっておかしくはない。かといって、今の態度は仕事中の人間の態度ではないでしょ。
「その台詞はこっちよ。お嬢様、ってことは私はあんたの雇い主の娘なのよね? その娘にそんな口をきいていいと思ってるわけ?」
「えっ? えっ? な、なんなのいきなり」
「何なのか聞きたいのはこっちよ。もしかして、今まで私に対してずっとそんな態度を取ってきてたわけ?」
「そ、それは、その」
少女みたいなメイドはおどおどした様子で誰かに助けを求めようとしているのか、左右を見回すけれど、残念ながら廊下を歩いている人はいなかった。
「まあいいわ。これから言葉遣いには気を付けて。忠告してあげたにも関わらず改善が見られなかったら、お父様に連絡させてもらうから」
「そ、それはやめてください!」
「なら、仕事をしてくれる? 私が吐いた血のせいでベッドが汚れてしまったから綺麗なものと取り換えてくれる? それから、お父様とお母様は今どこにいるの?」
「ダ、ダイニングルームにいらっしゃるかと思いますが」
私の脅しが効いたのか、メイドの言葉遣いが少しマシになった。
「ちなみにそれはどこにあるの?」
「あちらの階段を降りて、向かって右に曲がった所にございます」
「そう。ありがとう」
お礼を言うことは大事よね。ムカつく相手でも、言わなきゃいけないことは言わなきゃいけない。それをしなければ、相手と同類になってしまうもの。
まあ、やり返そうと思った時点で同類に近いのかもしれないけど、なめられたままでいられない性格なので、そこは気にしない。
さて、お父様とお母様はどんな人なのかしら。
今日、家にやって来る予定の婚約者と婚約を解消したいなんて言ったら怒られるかしら。
アリスには申し訳ないけど、今日はさわやかな天気で新生活を始めるにはもってこいな感じだわ。
窓のすぐ近くにある木の枝で鳥が毛づくろいをしているのが見えて、何だかほっこりした。
さて、色々と考えている間に時間も経ったし、私も身だしなみを整えないとね。
日記に書いてあったけど、昨日から学園は長期休みに入ったらしく、今日は問題の婚約者という奴がアリスに会いに来るらしい。
婚約を解消する話だと思うんだけど、今までのアリスは婚約解消を拒んでいたのよね。慰謝料を請求されているから、それが嫌だったみたい。
当たり前の話よね。どうして浮気されたほうが慰謝料を払わないといけないのよ。婚約を解消して、相手に慰謝料を請求すればいいだけの話なんだけど、それが言えなかったみたい。
……というかこの話、両親は知らないみたいだから困ったものだ。
これについては私から話をすることにして、さて、アリスの婚約者はどんな男なのかしら。普通の人間の思考の持ち主でないという事は確かだろうから、せめて言葉が通じる人間だといいわね。
言葉が通じなくて、ジェスチャーだけで会話するのはさすがに辛いわ。
トイレと洗面所はリゾートホテルと同じような感じで部屋に備え付けられてあったので、洗面所に置いてあった石鹸で顔を洗う。顔についていた血を落として、見た目のおどろおどろしさをなくすと、少し顔色が良くなったように思えた。
化粧水や乳液らしきものもあったので、それも遠慮なく使わせてもらった。
日記のこともそうだけど、確実に日本の文字ではないのに普通に文字が読めてしまうのは神様からのサービスといったところかしら。
もう一度、鏡で顔を確認してから、ぼさぼさの髪を化粧台の上においてあったブラシでとかす。すぐに髪がブラシにひっかかって痛くてイライラしてしまって叫びたくなった。
これは、髪の毛を洗ってトリートメントしないと! トリートメントがこの世界にあるのかはわからないけど、どうにかしなくちゃいけないわ。鬱陶しくてしょうがない!
アリスは外見のことをあまり気にしないタイプだったのか、もしくはメイドが手入れしないといけないところを、ちゃんとしてくれていなかったのかはわからないけど、ここまで放置するのはどうかと思うわ。
というか、親は身だしなみについては何も言わなかったの? 清潔にしなさいとか言うべきだったんじゃない?
でも、海外では毎日、体を洗っているわけではないみたいだし、これが普通なの?
鏡の中のアリスを見て考える。
髪の長さは腰くらいまであるけど、毛先がたいぶ傷んでるから、一度バッサリ切った方が良さそうね。
この国に美容院はあるのかしら? なかったとしても髪を整えてくれる人はいるわよね?
ネグリジェから服に着替えるために部屋を見回すとチェストはなかったが、クローゼットがあった。中を確認してみると、ドレスが何着かかかっていた。
その中から今日着る服を探してみることにした………んだけど、アリスには申し訳ないが、服の好みが私と違いすぎて、どれも着る気になれなかった。
なんというか、若い女性が着る色合いではなかった。
赤のネグリジェを着てるから赤のドレスが多いのかと思ったけど、その色のドレスはなくて、茶色で奇抜なデザインのドレスばっかりだった。
この世界にも流行りがあって、今年は茶色のドレスが流行りだったりするってこと?
茶色のドレスが並ぶ中に、一着だけ違うものがあったので確認してみる。
紺色のブレザーにプリーツスカートと白いシャツ。
シャツの襟に紋章みたいなものが刺繍されているから、学園の制服っぽいわね。
アリスの好みをとやかく言うつもりはないけど、一番、私が着ても良いと思える服装が制服だけってどうなの?
子爵家がどれくらい裕福かはわからないけれど、安物でもいいから新しいドレスを買ってもらえないかしら。
あとで、このこともアリスの両親に相談してみよう。
制服に着替え終わり、ローファーがあったので履き替えてから、鏡で自分の姿を確認する。
スカートが長すぎる気がする。
ふくらはぎまで隠れていて、昔のヤンキーみたいな感じになってる。
私の高校時代のような短い丈にしたいとは思わないけれど、色が白くて綺麗な足を出すのは悪くない気がする。丈は休みの間に直してもらうことにして、今は応急処置的に腰の部分を折り曲げて短くしておく。
あとは、このシーツをどうするかだわ。枕にも血がついてるし、これは換えてもらわないといけない。
日記は鍵付きの引き出しに入れておいたし、その鍵は彼女がいつも身につけていたブレスレットにチャームとしてついているから、私も同じようにつけておく。
この国について詳しいことはさっぱりわからないわけだし、その知識がないことを怪しまれないように、血を吐いてぶっ倒れて記憶をなくした、とかいう設定にでもしておこう。
「準備も出来たし、行くとしますか」
軽くメイクをし、気合を入れてから扉を開けると、ちょうど目の前を通りかかったメイド姿の若い女性と目が合った。
そのメイドは私を見るなり足を止めて、一瞬、驚きの表情をしたけど、すぐに口元に嫌な笑みを浮かべて言った。
「あら、お嬢様。今日は学園はお休みですよ? 寝ぼけていらっしゃるんですか?」
人を小馬鹿にしたような口調だった。
アリスをいじめていたメイドの名前は日記に書いてあったけど、目の前にいる彼女の名前がわからないから、該当するのかがわからない! この態度から考えると、このメイドもアリスをいじめていた1人だと思うし、私はこの家のお嬢様なんだから、遠慮せずに聞いてみる。
「私、血を吐いてしまったショックで記憶がないの。私を小馬鹿にしてくれてるみたいだけど、あなたの名前は?」
「はあ?! まだ夢の中にでもいるの?!」
メイドのくせに、どうして自分が働いている屋敷の当主の娘に対して、そんな口がきけるのか知りたい。
こういうのマンガでしか読んだことないけど、性格悪い奴はどこにだっているし、こういう奴がこの世界にいたっておかしくはない。かといって、今の態度は仕事中の人間の態度ではないでしょ。
「その台詞はこっちよ。お嬢様、ってことは私はあんたの雇い主の娘なのよね? その娘にそんな口をきいていいと思ってるわけ?」
「えっ? えっ? な、なんなのいきなり」
「何なのか聞きたいのはこっちよ。もしかして、今まで私に対してずっとそんな態度を取ってきてたわけ?」
「そ、それは、その」
少女みたいなメイドはおどおどした様子で誰かに助けを求めようとしているのか、左右を見回すけれど、残念ながら廊下を歩いている人はいなかった。
「まあいいわ。これから言葉遣いには気を付けて。忠告してあげたにも関わらず改善が見られなかったら、お父様に連絡させてもらうから」
「そ、それはやめてください!」
「なら、仕事をしてくれる? 私が吐いた血のせいでベッドが汚れてしまったから綺麗なものと取り換えてくれる? それから、お父様とお母様は今どこにいるの?」
「ダ、ダイニングルームにいらっしゃるかと思いますが」
私の脅しが効いたのか、メイドの言葉遣いが少しマシになった。
「ちなみにそれはどこにあるの?」
「あちらの階段を降りて、向かって右に曲がった所にございます」
「そう。ありがとう」
お礼を言うことは大事よね。ムカつく相手でも、言わなきゃいけないことは言わなきゃいけない。それをしなければ、相手と同類になってしまうもの。
まあ、やり返そうと思った時点で同類に近いのかもしれないけど、なめられたままでいられない性格なので、そこは気にしない。
さて、お父様とお母様はどんな人なのかしら。
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