気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します

風見ゆうみ

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第6話  再会する

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 結局、次の日に改めてホットラード家から連絡があり、お互いに慰謝料を請求しないという事で合意し、無事に私には変な婚約者がいなくなった。

 けれど、新たな問題は出来た。
 この国ではアリスの年齢の貴族だと婚約者がいて当たり前らしい。
 その為、今回の事で、アリスには婚約者がいなくなったから、新たな相手を探さないといけなくなった。

 アリスのお父様もその事についてはわかっていたので、見合い相手に目星をつけてくれてはいて、それから3日後、こちらから早速、お相手に会いに行く事になった。

 なぜこちら側から会いに行くのかというと、相手が公爵家という格上なので、こちらから会いに行った方が良いと、お父様が判断したのだ。

 できれば、権力がほしいと思っていた。
 学園に行ってみなければわからないけど、敵の父親の爵位が私より上の可能性もあるから。

 よっぽど変な奴じゃない限りお見合いを成功させて、公爵家の婚約者という肩書を手にいれてやるんだから!
 
 



 新しい婚約者候補の元へ向かう馬車の中で、アリスの日記を読んだり、出かける前にアリスの両親から聞いた話を忘れないように、持ってきたノートに走り書きしていた。
 なぜ、走り書きなのかというと、馬車が揺れるので、どうせ文字が踊るからだ。

 誰かに見られてもいいように、全て日本語で書くようにした。
 逆に日本語が読める相手がいるなら、それはそれでぜひ話をしてみたいと思ったから。

 馬車に揺られて5時間程が経過した。
 途中で休憩をはさんだけれど、お尻が痛くてイライラし始めた頃、やっと目的地にたどり着いた。

 イッシュバルド公爵家。

 それが今日の目的地だ。
 アダルシュという国の中で特に権力があると言われている五大公爵家の一つで、王族とのつながりが一番深いと言われているのが、このイッシュバルド公爵家だ。

 今回、顔合わせする相手は、イッシュバルド公爵家の次男である。
 後妻の連れ子で噂では遊び人の上に、常識のない頭の悪い男らしく、どれだけ家柄が良くとも、貴族の間では嫁に来たがる人がいなかったそう。

 だから、アリスのように婚約破棄され、貰い手のなくなった令嬢と顔合わせをさせているらしく、私にお鉢がまわってきたってところだ。

 家柄は申し分ないけど味方にしようと思えないほど、バカだったらどうしよう。
 権力はほしいけれど、常識のない馬鹿は相手にしたくない。
 ま、その時にまた考えたらいいか。

 服の趣味が変わった事を両親に伝えたら、「アリスにはどんな服でも似合うから、好きな服を買いなさい」と言ってくれたので、既製品の動きやすいワンピースドレスを何着かと、今日のために水色のシュミーズドレスも買ってもらった。
 
 見た目としてはかなり気合を入れてるから失礼はないはず。

 イッシュバルド家の敷地内に入ったので、窓から外を覗くと、色とりどりの花が咲き誇る、広くて綺麗な庭園が見えた。
 
 庭の広さのレベルが半端ないわね。
 言葉で言い表すなら、海外の大豪邸といったところかしら?
 王都の真ん中にこれだけ広大な敷地を持っているという事は、かなりの権利者だという事がうかがえた。
 
 そんな事を考えながらぼんやり眺めていると、馬車が停まり扉が開かれた。
 馭者の手を借りてポーチに立つと、複数人のメイドに出迎えられた。

 その内のメイドの一人に案内され、通されたのは庭園がよく見渡せる二階のバルコニーだった。
 日よけのためかパラソルがあり、庭園はよく見えるけど、日の当たりにくい席に案内してくれた。

 こういう時の作法が全くわからなかったんだけど、とりあえず偉い人に会った時の挨拶の言葉とカーテシーは覚えてきた。
 練習もしてきたし、緊張しなければうまくいくはず。

 少し時間が経ってから現れたのは、長身痩躯の紺色の短髪の男性だった。
 イケメンの部類に入る方で、吊り目気味の目が威圧感を与えるけれど髪と同じ、紺色の瞳がとても綺麗。
 服装は白いシャツに黒色のズボンという落ち着いたものだった。
 
 彼の顔を見た時、哲平の顔が彼に重なった気がした。
 顔立ちは似ても似つかないのに、どうしてかしら?

「お待たせしました」

 ぺこりと頭を下げてバルコニーに入ってきたので、私も慌てて立ち上がって挨拶する。

「本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。アリス・キュレルと申します」
「……ありす?」

 疑問形で名を呼ばれた気がして頭を上げると、今日の見合い相手である彼とばっちり目が合った。

 なんでかしら。
 やっぱり懐かしく感じてしまうのよね。
 向こうもそんな感じだし、もしかするともしかするかもしれないし、哲平かどうか、一か八か確かめてみようか……。

 哲平は女性が苦手だったから、たとえ体が違っていても、彼が中に入っているなら、何らかの反応を示すはずだわ。

「あの、失礼しますね」
「ん?」

 彼が返事を返す前に、私は不躾な事とわかっていながらも、彼の手をつかんだ。

「やめろ!」

 イッシュバルド卿は嫌悪感をあらわにして私の手を振り払い、後退してから睨んできた。

「無礼な事をしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」

 やっぱり哲平じゃなかったのかしら?
 さすがに、私の首が危ない?
 権力を狙いに来たけれど、命が危ない状況になってしまった。

 自業自得だけど。

 触れられた箇所をおさえて、苦痛の表情を浮かべていたイッシュバルド卿だったけど、すぐに困惑の表情に変わった。

「な、なんで、赤くならねぇんだ?」

 その言葉を聞いた瞬間、一気に気持ちが明るくなった。

「哲平」

 名を呼ぶと、すぐに彼が反応して私を見た。

「も、もしかして…、お前、あのありすなのか?」

 哲平らしきイッシュバルド卿は、驚きの表情を浮かべて私を見つめた。

「残念ながら、中身はそうよ」
「いや、本当にそうなら、俺としては助かるけど」
「まだ疑う? なんなら、日本語であんたの個人情報を書いてもいいけど?」

 哲平は大きなため息を吐いた後、椅子に座り、テーブルに両肘をつけて頭を抱えた。

「やっぱりお前も助からなかったんだな」
「というか、私のせいでごめん。私なんて見捨てて良かったのに」
「そういう訳にもいかねぇだろ」
「それはどうかはわからないけど、助けようとしてくれてありがとう」

 私が礼を言うと、哲平は「間違いなさそうだな」と、安堵なのか、ため息なのかわからない、大きな息を吐いた。

 それにしても、この状況は私にとっては、かなり良いものよね?

「あんたが相手なら本当に助かるわ」
「何が?」
「私を婚約者にしてちょうだい」
「は?! 何言ってんだよ、別にお前、俺の事好きじゃないだろ」

 哲平は驚きの表情を浮かべた後、私から視線をそらした。

 何で照れてるのよ。
 意味がわからない。
 まぁ、哲平も色々と動揺しているのかもしれないわね。
 そういう事にしておきましょ。

「イッシュバルド公爵家という肩書が必要なの」
「……そっちかよ」
「なんなのよ、さっきから。というか、哲平だって婚約者を探してるなら、私にしておいた方が楽でしょう?」
「まぁな」

 哲平は頷き、私に向かい側に座るように促してから苦笑する。

「で、肩書つかって、何を企んでるんだ?」
「協力してくれるの?」
「内容による」
「じゃあ話すわ」
「ちょっと待て」

 話し始めようとした私を止めて、哲平は一度奥に引っ込むと、少ししてから「お前が好きそうなやつ入れてもらった」と言って、ティーポットとカップを持ってきてくれた。

「ありがと」
「で?」

 話を促され、私はアリス・キュレルについて話を始めた。


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