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第12話 姉弟喧嘩をする
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日本にいた時は、哲平は学生だったし、私も会社はそう遠くなかったから実家で暮らしていて、大人になってもお互いの部屋を行き来していたから、身体が違えど中身は同じだから、部屋に入るからといって特に緊張はしない。
アズール男爵令嬢の話をすると、哲平は眉を寄せて少し考えてから口を開く。
「それだけじゃ何とも言えないな」
「まあ、そうなのよね…」
情報が少なすぎるのは確かだ。
本当のアリスから解けているはずの謎が私達では難しく感じてしまう。
「それについては改めて考える事にして、ありす…。なんだよ、この呪いのノート」
「呪いのノートって何よ、失礼ね」
「なんか走り書きの文字も恐ろしいし、なんだよ、この悪口の羅列」
「外見とか、人として言っちゃいけない事とか、どうしようもできない悪口は書いてないはずだけど」
「そりゃ当たり前だろ」
哲平は特に着替えをしたりしたわけではなく正装のまま、書物机の椅子に座って、私が書いたノートを読んでいたらしく、机に片肘を置いて続ける。
「それにしても、このアリスって子は、変な奴らにばかり目をつけられたんだな」
「そうなのよね。まあ、いじめだから誰かターゲットが一人いれば、それで良いという考えなのかもしれないけど」
「新たなターゲットが出来るまで攻撃するやつかよ。そのわりには色んな奴にターゲットにされすぎだろ。あと、気になるのは、なぜ、ノアって子が殺されそうになってたかって事だ」
「もう休みはあけるし、学園に行けばノアって子に会えるだろうから、どんな子かを調べてみるわ。ついでに、といっちゃなんだけど、小瓶を用意した黒幕も探してみる」
そう言って勝手にベッドの上に座ると、なぜか哲平は眉間にシワを寄せた。
「男の部屋なんだから、ちょっとは警戒しろよ」
「何をいまさら。それにあんたは無害じゃないの」
「そうだな。無害だと思ってりゃいいよ」
なんか、言い方に棘がある気がするんだけど?
哲平は椅子から立ち上がると、ノートをたたきながら、こちらに近づいてくる。
「これ、借りといていいか? お前の字が汚すぎて解読するのに時間がかかるし、綺麗に書き直したい」
「それはすみませんね」
軽く睨みながら言うと、哲平は私の頭にノートを当てると言った。
「とりあえず出てけ」
「そんな言い方しなくてもいいでしょ」
哲平はこれみよがしにため息をついてから、私の顔に自分の顔を近付けてきた。
「もう俺達は家族じゃないんだぞ」
「どうしてそんな事を言うのよ…」
「お前が今まで通りだと思ってるからだよ」
「家族だと思ってたのに、もう違うって言うの?」
睨むと、哲平はなぜか悲しそうな顔をした。
腹が立つ事に顔は全然違うのに、私の知ってる哲平の悲しそうな顔が頭に浮かんで余計に罪悪感を覚えた。
「部屋に戻るわ」
吐き捨てるように言って、ベッドから立ち上がると、哲平の部屋を出た。
止められる事もなかった。
姉弟での喧嘩はいつもの事だった。
なのに、今日の喧嘩はいつもと違う気がした。
だけど、夕食の時にはいつもの哲平に戻っていて、私達は何事もなかったかの様に会話をしたのだった。
この国には四季はないけど、季節の移り変わりはあるようで、春が長く続き残りは冬になるけれど期間としては短い、といった感じなんだそうだ。
ただ、天気予報がないから、なんの前触れもなく、日本でいう台風のようなものがきたり、冬に吹雪いたりする事をのぞいては、年中過ごしやすい土地らしい。
だから、制服のバリエーションも一つしかないらしく、冬服だ、夏服だ、と途中で変える事もないそうなので、制服のスカート丈は替えも含めて、短めに裾直しをしてもらった。
私だけスカート丈が短かったらどうしようか。
スカート丈は自由らしいから、中身が見える様な短さじゃなければいいわよね。
休みがあけて、私にとっては初めての登園日になった。
食事を終えた後、制服に着替えて鏡で自分の様子をチェックしていると、廊下から哲平の声が聞こえた。
「おい、ありす行くぞ」
身だしなみのチェックをサッと済ましてしまうと、鞄を持って部屋の扉を開ける。
「おはよう」
「はよ」
廊下に出て、哲平の制服姿をまじまじと見つめる。
あの微妙な喧嘩からは、外見は全然違うはずなのに、哲平本来の姿に似てきているような感じがしてしまう。
髪型とかのせいかしら?
「何見てんだ」
「いや、なんかイグスさんの身体なのに、一瞬、哲平に見える時があるのよね」
「こえぇ事言うなよ。と言いたいとこだけど、俺もお前の本来の姿で見えたりする事がある」
「そういえば、この身体で初めて会った時も、あんたはそんな感じだったわね」
二人で並んで話しながら階段を降りて、エントランスホールへ向かう。
執事さんが扉を開けてくれると、綺麗な宝飾がされた馬車が一台止まっているのが見えた。
「何、あの無駄なキラキラ。馬車に必要ある?」
「知らねぇよ。貴族社会ではああいう見栄も必要なんじゃねぇの? 公爵家の令息の俺が乗るんだからしょうがないだろ」
アリスの家から学園までは徒歩で行くには30分以上かかるのと、哲平は公爵家の次男だから、通学途中に何かあってもいけない、という事で、公爵家から馬車と御者さんも派遣されている。
一方、キュレル家は子爵家だから、馬車はあるけれど、派手な装飾はされていない。
だけど、私はシンプルなキュレル家の馬車が好きだ。
「じゃあ、また後でね」
「乗ってかねぇのか?」
「そっちに乗っていったら、うちの御者さんの仕事がなくなっちゃうでしょ」
「ふーん」
キュレル家の馬車に向かおうと思ったけど、哲平が何か面白くなさそうな顔をしているので立ち止まって聞く。
「何よ」
「お前、スカート短くないか?」
「え?! うそ?! 高校の時ってこんなんじゃなかった?!」
「いや、そうだけど。まぁいいわ。また後でな」
哲平はそう言うと背を向け、こちらを見ずに手を振ると、馬車に乗り込んでいってしまった。
気になるけど、遅刻するわけにはいかないので、私も慌てて、キュレル家の馬車に乗り込んだ。
学園へは馬車で15分程度で着いた。
貴族も多くいるからか、学園の中に馬車の乗降場所があり、そこで馬車から降りると、迎えの時間の話をしてから、御者さんと別れた。
「遅かったな」
先に着いていた哲平が、私に向かって歩いてきた時だった。
「アリス!」
名を呼ばれて振り返ると、大人しそうだけれど可愛らしい顔立ちの女の子が背中くらいまである艶のある黒くて長い髪を揺らせて、私の所へ駆け寄ってきたのだった。
もしかして、この子がノア?
アズール男爵令嬢の話をすると、哲平は眉を寄せて少し考えてから口を開く。
「それだけじゃ何とも言えないな」
「まあ、そうなのよね…」
情報が少なすぎるのは確かだ。
本当のアリスから解けているはずの謎が私達では難しく感じてしまう。
「それについては改めて考える事にして、ありす…。なんだよ、この呪いのノート」
「呪いのノートって何よ、失礼ね」
「なんか走り書きの文字も恐ろしいし、なんだよ、この悪口の羅列」
「外見とか、人として言っちゃいけない事とか、どうしようもできない悪口は書いてないはずだけど」
「そりゃ当たり前だろ」
哲平は特に着替えをしたりしたわけではなく正装のまま、書物机の椅子に座って、私が書いたノートを読んでいたらしく、机に片肘を置いて続ける。
「それにしても、このアリスって子は、変な奴らにばかり目をつけられたんだな」
「そうなのよね。まあ、いじめだから誰かターゲットが一人いれば、それで良いという考えなのかもしれないけど」
「新たなターゲットが出来るまで攻撃するやつかよ。そのわりには色んな奴にターゲットにされすぎだろ。あと、気になるのは、なぜ、ノアって子が殺されそうになってたかって事だ」
「もう休みはあけるし、学園に行けばノアって子に会えるだろうから、どんな子かを調べてみるわ。ついでに、といっちゃなんだけど、小瓶を用意した黒幕も探してみる」
そう言って勝手にベッドの上に座ると、なぜか哲平は眉間にシワを寄せた。
「男の部屋なんだから、ちょっとは警戒しろよ」
「何をいまさら。それにあんたは無害じゃないの」
「そうだな。無害だと思ってりゃいいよ」
なんか、言い方に棘がある気がするんだけど?
哲平は椅子から立ち上がると、ノートをたたきながら、こちらに近づいてくる。
「これ、借りといていいか? お前の字が汚すぎて解読するのに時間がかかるし、綺麗に書き直したい」
「それはすみませんね」
軽く睨みながら言うと、哲平は私の頭にノートを当てると言った。
「とりあえず出てけ」
「そんな言い方しなくてもいいでしょ」
哲平はこれみよがしにため息をついてから、私の顔に自分の顔を近付けてきた。
「もう俺達は家族じゃないんだぞ」
「どうしてそんな事を言うのよ…」
「お前が今まで通りだと思ってるからだよ」
「家族だと思ってたのに、もう違うって言うの?」
睨むと、哲平はなぜか悲しそうな顔をした。
腹が立つ事に顔は全然違うのに、私の知ってる哲平の悲しそうな顔が頭に浮かんで余計に罪悪感を覚えた。
「部屋に戻るわ」
吐き捨てるように言って、ベッドから立ち上がると、哲平の部屋を出た。
止められる事もなかった。
姉弟での喧嘩はいつもの事だった。
なのに、今日の喧嘩はいつもと違う気がした。
だけど、夕食の時にはいつもの哲平に戻っていて、私達は何事もなかったかの様に会話をしたのだった。
この国には四季はないけど、季節の移り変わりはあるようで、春が長く続き残りは冬になるけれど期間としては短い、といった感じなんだそうだ。
ただ、天気予報がないから、なんの前触れもなく、日本でいう台風のようなものがきたり、冬に吹雪いたりする事をのぞいては、年中過ごしやすい土地らしい。
だから、制服のバリエーションも一つしかないらしく、冬服だ、夏服だ、と途中で変える事もないそうなので、制服のスカート丈は替えも含めて、短めに裾直しをしてもらった。
私だけスカート丈が短かったらどうしようか。
スカート丈は自由らしいから、中身が見える様な短さじゃなければいいわよね。
休みがあけて、私にとっては初めての登園日になった。
食事を終えた後、制服に着替えて鏡で自分の様子をチェックしていると、廊下から哲平の声が聞こえた。
「おい、ありす行くぞ」
身だしなみのチェックをサッと済ましてしまうと、鞄を持って部屋の扉を開ける。
「おはよう」
「はよ」
廊下に出て、哲平の制服姿をまじまじと見つめる。
あの微妙な喧嘩からは、外見は全然違うはずなのに、哲平本来の姿に似てきているような感じがしてしまう。
髪型とかのせいかしら?
「何見てんだ」
「いや、なんかイグスさんの身体なのに、一瞬、哲平に見える時があるのよね」
「こえぇ事言うなよ。と言いたいとこだけど、俺もお前の本来の姿で見えたりする事がある」
「そういえば、この身体で初めて会った時も、あんたはそんな感じだったわね」
二人で並んで話しながら階段を降りて、エントランスホールへ向かう。
執事さんが扉を開けてくれると、綺麗な宝飾がされた馬車が一台止まっているのが見えた。
「何、あの無駄なキラキラ。馬車に必要ある?」
「知らねぇよ。貴族社会ではああいう見栄も必要なんじゃねぇの? 公爵家の令息の俺が乗るんだからしょうがないだろ」
アリスの家から学園までは徒歩で行くには30分以上かかるのと、哲平は公爵家の次男だから、通学途中に何かあってもいけない、という事で、公爵家から馬車と御者さんも派遣されている。
一方、キュレル家は子爵家だから、馬車はあるけれど、派手な装飾はされていない。
だけど、私はシンプルなキュレル家の馬車が好きだ。
「じゃあ、また後でね」
「乗ってかねぇのか?」
「そっちに乗っていったら、うちの御者さんの仕事がなくなっちゃうでしょ」
「ふーん」
キュレル家の馬車に向かおうと思ったけど、哲平が何か面白くなさそうな顔をしているので立ち止まって聞く。
「何よ」
「お前、スカート短くないか?」
「え?! うそ?! 高校の時ってこんなんじゃなかった?!」
「いや、そうだけど。まぁいいわ。また後でな」
哲平はそう言うと背を向け、こちらを見ずに手を振ると、馬車に乗り込んでいってしまった。
気になるけど、遅刻するわけにはいかないので、私も慌てて、キュレル家の馬車に乗り込んだ。
学園へは馬車で15分程度で着いた。
貴族も多くいるからか、学園の中に馬車の乗降場所があり、そこで馬車から降りると、迎えの時間の話をしてから、御者さんと別れた。
「遅かったな」
先に着いていた哲平が、私に向かって歩いてきた時だった。
「アリス!」
名を呼ばれて振り返ると、大人しそうだけれど可愛らしい顔立ちの女の子が背中くらいまである艶のある黒くて長い髪を揺らせて、私の所へ駆け寄ってきたのだった。
もしかして、この子がノア?
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