気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します

風見ゆうみ

文字の大きさ
17 / 52

第16話 心配される

しおりを挟む
 ゴミを片付け終えてから手を洗いに行き、教室に戻ってきてすぐにチャイムが鳴ったので、ノアは急いで自分の席に戻っていった。
 
 授業が始まっても、クラスメイトの私への好奇と疑心の目を常に感じて、さすがに気分が悪かった。
 
 言いたいことがあるんなら言いなさいよ。

 と言ってやりたいとこだけど、誰かれかまわずに喧嘩を売るのは違うし、授業に集中することにした……んだけど、やっぱり無理だった。
 なぜなら教科書に色々と落書きされているせいで、気が散ってしまう。

 全てのページにではないけれど、ブスだの痩せすぎだの色々と悪口が書かれていて、見ているだけで腹が立ってくる。

 教科書を買ってもらわないと駄目ね。
 そういえば、哲平は教科書はどうしてるのかしら。
 今日の時間割もわからなかったはずだけど。

 落書きされた教科書、使うかしら?

 結局、午前の授業が全て終わるまで、ノアと学級委員長だという男子生徒のシエル・グローゼルが話しかけてきたくらいで、他の人間は終始、私が暴れ出さないか見守っているような感じだった。 

 そして、昼休み。
 昼食は教室では食べてはいけなくて、全員、食堂で食べる事になっているらしい。
 ただ、全学年が一度に行くと一杯になってしまうから、学年ごとに時間が決められていて、授業の時間も少しずつズラしてあるらしい。
 いつも食堂のビュッフェを食べているというノアに合わせて、私もそうしようと思ったんだけど、来客が来てしまった。
 開いていた教室の扉の向こうから、教室にちらほら残っている人間に聞こえるようにか、哲平が大きな声で私を呼んだ。

「俺の可愛い可愛い婚約者さん! あまりにも可愛すぎるからツラかしてくれねぇかなぁ」
「あら、ダーリン! 私も会いたかったわ! なんのお話かしら!」

 イヤミったらしく言ってくる時は、大体機嫌が悪いときだ。
 だけど、なんで機嫌が悪いのかはわからないから、こっちはふざけて言葉を返した。

「あ、ノア。悪いけど、キースと一緒に先に行って俺らの席もとっといてくれね?」
「え! あ! はい!」
「敬語じゃなくていいって」
「あ、うん! 了解!」

 哲平も私の扱いには慣れたものなので、近寄っていく私には目もくれず、私の後ろからついてきたノアと会話すると、何も言わずに私の手首をつかんで歩き出す。

「いだだだ、痛い、痛い」
「お前、何やらかした」
「何が」
「俺のクラスにまでお前がおかしくなったって話がまわってきてるぞ」
「おかしくなったっていうのは失礼なんじゃない?」

 私は言いたい事を言っただけなんだけど…?
 
 そう思って文句を言うと、哲平は私を横目で見たあと頷く。

「そうだな。お前はおかしいのがつうじょ」

 何と言おうとしているかわかったので、私の手首をつかんでいる哲平の手の甲をつねる。

「いってーな、地味に痛いからやめろ!」
「もしかして、さっき婚約者って口に出したの、わざと?」
「ただ売られた喧嘩を買うだけじゃ駄目だろ。俺とお前が婚約者同士だっていうのを学園全員に知らせねぇと」
「私のバックに公爵家がいるというのを知らしめるって事ね? でも、どうやって?」
「教師を使う」

 哲平は私の質問にきっぱりと答えた。
 
「じゃあ、今から職員室に行くの?」
「そういう事だ」

 広い校舎なのに職員室の場所をもう知っているのか、哲平は早足で迷う素振りもなく進んでいくから、こっちは小走りでついていくしかない。

 哲平が私の腕をつかんでいるからか、制服のリボンタイの色が違う生徒から、すれちがいざま好奇の目で見られた。
 この学園は男子はネクタイ、女子はリボンタイの色で学年がわかるようにしているらしくて、私達の学年は赤色だ。

 それにしても、掴まれている腕が痛い。

「ちょっと、なんで怒ってるのよ」
「……お前が勝手ばかりするからだろ」
「だって机の中にあんな事されてたら、腹が立ってもしょうがないと思うわ」 
「お前が俺の婚約者だっていう事が知れ渡ってからなら好き勝手してもいい! だけど、公爵家の後ろ楯がなけりゃ、お前はただの子爵令嬢だぞ! どんな奴に目をつけられるかわかんねぇだろうが!」

 私の手首を握る力が強くなった。
 そっか。
 哲平は心配してくれてるのね。

「ごめん。先走りすぎたわ」
「……いつもの事だけどな」
「お礼にちゅーしたげようか」
「いらねー」

 機嫌を直してくれたのか、哲平は私の目を見て笑ってくれた。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢まさかの『家出』

にとこん。
恋愛
王国の侯爵令嬢ルゥナ=フェリシェは、些細なすれ違いから突発的に家出をする。本人にとっては軽いお散歩のつもりだったが、方向音痴の彼女はそのまま隣国の帝国に迷い込み、なぜか牢獄に収監される羽目に。しかし無自覚な怪力と天然ぶりで脱獄してしまい、道に迷うたびに騒動を巻き起こす。 一方、婚約破棄を告げようとした王子レオニスは、当日にルゥナが失踪したことで騒然。王宮も侯爵家も大混乱となり、レオニス自身が捜索に出るが、恐らく最後まで彼女とは一度も出会えない。 ルゥナは道に迷っただけなのに、なぜか人助けを繰り返し、帝国の各地で英雄視されていく。そして気づけば彼女を慕う男たちが集まり始め、逆ハーレムの中心に。だが本人は一切自覚がなく、むしろ全員の好意に対して煙たがっている。 帰るつもりもなく、目的もなく、ただ好奇心のままに彷徨う“無害で最強な天然令嬢”による、帝国大騒動ギャグ恋愛コメディ、ここに開幕!

婚約者の命令で外れない仮面を着けた私は婚約破棄を受けたから、仮面を外すことにしました

天宮有
恋愛
婚約者バルターに魔法が上達すると言われて、伯爵令嬢の私シエルは顔の半分が隠れる仮面を着けることとなっていた。 魔法は上達するけど仮面は外れず、私達は魔法学園に入学する。 仮面のせいで周囲から恐れられていた私は、バルターから婚約破棄を受けてしまう。 その後、私を恐れていなかった伯爵令息のロランが、仮面の外し方を教えてくれる。 仮面を外しても魔法の実力はそのままで、私の評判が大きく変わることとなっていた。

婚約破棄された私。大嫌いなアイツと婚約することに。大嫌い!だったはずなのに……。

さくしゃ
恋愛
「婚約破棄だ!」 素直であるが故に嘘と見栄で塗り固められた貴族社会で嫌われ孤立していた"主人公「セシル」"は、そんな自分を初めて受け入れてくれた婚約者から捨てられた。 唯一自分を照らしてくれた光を失い絶望感に苛まれるセシルだったが、家の繁栄のためには次の婚約相手を見つけなければならず……しかし断られ続ける日々。 そんなある日、ようやく縁談が決まり乗り気ではなかったが指定されたレストランへ行くとそこには、、、 「れ、レント!」 「せ、セシル!」 大嫌いなアイツがいた。抵抗するが半ば強制的に婚約することになってしまい不服だった。不服だったのに……この気持ちはなんなの? 大嫌いから始まるかなり笑いが入っている不器用なヒロインと王子による恋物語。 15歳という子供から大人へ変わり始める時期は素直になりたいけど大人に見られたいが故に背伸びをして強がったりして素直になれないものーーそんな感じの物語です^_^

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。

五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」 オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。 シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。 ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。 彼女には前世の記憶があった。 (どうなってるのよ?!)   ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。 (貧乏女王に転生するなんて、、、。) 婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。 (ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。) 幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。 最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。 (もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)

処理中です...