気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します

風見ゆうみ

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第17話 職員室で叫ばれる

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 私達の教室は二階だったけど、職員室は渡り廊下を渡った隣の校舎の一階にあった。
 扉を開けてみると、雰囲気や机の配置などは日本の学校と変わらないけど、広さと机の多さがすごかった。
 在学生が多いから、先生の数が多いのも当たり前の話なんだろうけど。
 先生も交代で昼休みをとっているようで、机の多さに比べて、人は少ない。

 担任の先生でも探すのかな、と思っていたら、哲平は私を連れて中に入ってから職員室の扉をしめると、私の手首をつかんでいた手をはなし、今度はその手で私の肩を抱き寄せると叫んだ。

「せんせー、昼休み中にすいません! この度、イグス・イッシュバルドとアリス・キュレルは婚約いたしました!」

 え?
 何を言ってんの。
 そんなの知ってるんじゃないの?
 イッシュバルド家ってかなり有名なはずよね?
 
 何にしても先に何をするつもりなのかを哲平から聞いておけば良かった。
 どうしたらいいかわからないわ。
 笑ってたらいいの?

 全くわからないから、とりあえず笑っておく。

 人が少ないのもあり、静かだった職員室に哲平の声が響き渡ったので、中にいる先生達の視線がこちらに集まったのを確認して、哲平は続ける。

「なので、俺の可愛い婚約者に手をだすような輩がいたら、イッシュバルド家が相手になるって、皆に伝えておいていただけますか」

 抱き寄せられたままの状態なので、私も作り笑顔のまま、頭を哲平の胸に寄せてみる。
 
 ああ、ちゃんと笑えてるかしら。
 引きつった笑いになってたらどうしよう。

 最初は先生達も呆気にとられていたけれど、一番近くにいた先生が、無言でこくこくと首を縦にふると、波紋が広がるように、周りの先生も首を縦に振っていく。

 なんか、恥ずかしくなってきたわ。
 そう思うのが遅いかもしれないけど!

「では、失礼します」

 ぐい、と哲平に頭をおされる形で、彼と一緒に頭を下げてから職員室を出る。
 扉をしめてすぐに、職員室の中がざわめいているのがわかったので、先生達にとっても、かなり衝撃の出来事だったみたい。

「はー、疲れた」

 哲平が隣で大きく息を吐いた。
 
 やっぱり緊張はしてたのね。
 事前に説明は欲しかったけど、ここはちゃんと礼を言わないといけないところなのだろうし言っておく。

「ありがとう」
「どういたしまして。少しは牽制にはなるだろ。だけど、ラス兄さんが言ってたとおり、あんま無茶すんなよ」

 後頭部をぽんぽんと撫でられた。
 普段は子供っぽいのに、こういう時は哲平が余裕ぶるから、なんだか癪に障る。

 と思ったけど、せっかくの厚意なんだから、そういう気持ちは駄目よね。

 それにこれでだいぶ動きやすくなったわ。
 私が公爵家の次男と婚約している事を先生達がホームルームで話をしてくれるだろうから。

「さて、次は誰をやっつけよっかな!」
「なんでそんなに好戦的なんだよ…。とりあえず、まずは昼飯だ。腹減った」
「腹が減っては戦はできぬ、よね」
「なんでもかんでも戦いに繋げるな」

 食堂の場所は哲平がキースから聞いているらしく、そちらに向かって歩きながら、どうして私が好戦的になっているかという話をすると、哲平が訝しげな顔をして聞いてくる。

「なんで、アリスはそんな目に合ってるんだ。なんか、ターゲットにされる理由でもあるのか?」
「わからない。わからないけど、チラッと見たのよね。机の中に入っていたゴミの中に気になるものを」
「なんだよ」
「キースに近づくなって書かれた紙があった」

 その言葉を聞いて、哲平が真剣な表情で私を見た。

 正確には、キースくんに近づくな。
 だったけど、意味は同じでしょ。

 ノアと仲が良いせいで、キースとの距離がアリスは他の女性より飛び抜けて近かったのだと考えられる。
 それに、思ったよりもキースはイケメンだった。
 しかも、辺境伯の息子。
 体型もモデル体型だし、性格もそんなに悪くなさそうだった。

 となるとモテるわよね。

「……やっかみかよ」
「はっきりそうだとはわからないけど」
「くだらね。そういうのキースは嫌いそうだけどな」
「そういうのを好きっていう男だったら腹パン食らわせたい」
「やめろ」

 話しているうちに食堂に着いたので、人でごった返す食堂の中でキースとノアの姿を探す事にした。
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