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第7話  悪い男になったら捨てるわよ!

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 終礼が終わってすぐだった為、教室内には多くの人がいた。

 それに、ローリーの声はとても大きかったので教室内に響き渡っていたから、今にも教室を出ようとしていた人間でさえ立ち止まって、ローリー達に視線を向けている。

 ローリーは一体、何を考えてるの?
 戦えってどういう事なのよ?

「どうしたんだ、ジェイン。怖気づいたのか?」

 黙っているジェインにローリーが尋ねると、ジェインは大きく息を吐いた。

「呆れ返ってものが言えなかっただけだ。ローリー、お前は一体何がしたいんだよ」
「何がしたいか? 簡単じゃないか! どちらがリリアーナにふさわしいか決める為に決闘をしたいと言ってるんだ!」

 決闘をしたいなんて言っているけれど、勉強は科目によっては勝てるかもしれないけれど、剣術や体術に関しては、ローリーが確実に負けると思う。
 それなのに、どうして決闘なんか…。

「……あのな、ローリー。リリアーナの婚約者はお前だろ? その時点でリリアーナにふさわしいのはお前で、勝負なんてしなくても、お前の勝ちは決まってるんだよ」
「そ、そんな、逃げるのか?」
「逃げるも何も、お前の勝ちだと言っているんだから、それでいいだろ。リリアーナはお前が好きなんだから、どうして俺と決闘だなんてする必要があるんだ?」
「そうだよ! リリアーナと僕は愛し合っているんだ! だけど、周りは認めていないんだ!」
「愛し合っているんなら他人は関係ないだろ。自分はリリアーナの婚約者なんだって自信持ってればいいだけだ」

 ジェインは冷静に言うと立ち上がり、鞄を持って歩き出す。

 そんなジェインの背中に向かって、ローリーが叫ぶ。

「どうして、いつもそんなにクールなんだよ! 少しは動揺したっていいじゃないか!」
「動揺してるよ。顔に出ないだけだ。じゃあまた明日な」

 ローリーとの会話を無理矢理打ち切る様に、ジェインはローリーに手を振り、彼を待っていた友人達と歩き出す。

「ちょっと、リリアーナを二人で取り合っているみたいね」

 事情を知らない他のグループの女子が話しかけてきたけれど、愛想笑いを返す事もできなかった。

 ローリーはどうして、こんな事をするのよ!
 馬鹿なの!?
 せめて、人がいないところでしてほしかったわ!
 ジェインが好戦的な人だったら、もっとこじれていたかもしれない。

「リリアーナ、大丈夫?」

 ロミ達が心配そうに聞いてくるので答えようとした時だった。

「あ、ごめんね、僕の可愛いリリアーナ。待たせてしまったね」

 ローリーが爽やかな笑顔でわたしに向かって手を振った。
 教室に残っていた人達の視線が一斉にわたしに集まった。

 この視線にいつまでも耐えていられるほど、図太い神経は持っていないわ。
 
「そんな事はどうでもいいわ! ローリー、ちょっと話をしましょう!」
「いいよ。僕も今の件で話をしたかったから」
 
 ロミ達にさよならの挨拶をしてから、ローリーと一緒に教室を出る。
 わたし達の少し前をジェインが友人達にからかわれながら歩いているのが見えた。

 ジェインには改めて謝らないといけないけれど、今はさすがに駄目だわ。
 
「リリアーナ、どこへ行くつもりなんだい?」
「人のいない所で話をしましょう」

 ローリーにそう答えてから、学園の中庭に移動した。

「リリアーナ、もしかして怒ってる?」

 中庭には人がちらほらいたけれど、自分達のお喋りに必死で、わたし達の事は気にしていない様子だった。
 けれど、あまり聞かれたくない話なので、近くに人がいないベンチを探し、並んで座って会話を始めた。

「怒っているに決まってるでしょう? ジェインにどうしてあんな事を…!」
「リリアーナ!」

 突然、ローリーが大きな声を上げたので、驚いて体をびくりと震わせたけれど、ローリーはわたしのそんな様子など気にせずに、わたしの両肩をつかんで叫ぶ。

「やっぱりジェインが好きなのかい!?」
「何を言ってるのよ!?」
「嫌だよ、リリアーナ! 僕には君しかいないんだ、どうしたら君は離れていかないんだ!? 頼むよリリアーナ! 僕を捨てないでくれ!」

 ローリーはわたしを抱きしめて、大声で叫び始めた。

「ローリーやめて! いいかげんにして! お願いだから!」
「嫌だよ、リリアーナぁ! 僕はもっと悪い男になるから、捨てないでぇ!」
「悪い男になったら捨てるわよ!」
「嫌だよ、リリアーナぁ!!」

 ローリーが力任せに抱きしめて泣きわめく。

「ちょっと、お願い! ローリー、とにかく一度離れて!」
「嫌だ、嫌だよぉぉ!!」

 勘弁してよ!
 こんな人だったなんて知らなかったわ…!!
 まさか、わたし達の年齢では飲んではいけないのに、お酒でも飲んで酔っ払ってるの!?

 その時だった。

「何をやってるんだよ!」

 声が聞こえた方に顔だけ向けると、こちらに向かって走ってきているジェインの姿が視界に入った。

 
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