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  公爵家のバラ園は、素晴らしかった。

  これが、公爵家の財力か……

  たくさんのバラの花に見とれていた私に、クラウス様が話し掛けてきた。 

「母は、バラが大好きでね。母が公爵家に来るまでは、ここまでバラの花は、多くなかったらしい」

「では、クラウス様のお母様が?」

「そうなんだ。向こうには、バラのトンネルがあってね、そこをくぐると、バラのアーチの中でお茶を楽しめるようになっているんだ」

「バラの中でお茶を?」

「そうだよ。見てみるかい?」

「いいのですか?」

「もちろんだよ」

  クラウス様は、人懐っこい笑顔を見せた。

  もったいない……綺麗なお顔をしているのに前髪で隠れてしまっているわ。

  私は出かかった言葉を飲み込み、クラウス様に着いて行く。

「わあー。すごいわ。前も後ろも上も全部バラなのね」

  私の声が、大きくなる。

「だろう。母上だけでなく、皆この場所が大好きなんだ」

  急に男の子ぽく話してきたクラウス様に驚き固まる私。

「ごめん。素は、こういう話し方なんだ。いつもは、うまく隠せているんだけど」

「いえ、少し驚いてしまっただけです。その話し方の方が私は、好きです」

  顔を赤くするクラウス様。

「ち、違います。今の好きは、そういう意味ではなく……」

「わ、分かっているよ。俺……こんな体型だろう。結婚だって本当は、諦めているんだ」

「どうして、どうして諦めてしまうんです?」

「どうしてって、リリアーナ嬢だって嫌だろう?  こんな太った男」

「私は、嫌ではありません。でも、何もせずに諦めてしまう方は、嫌いです。私は婚約を解消されてから、ずっと部屋に引きこもっていました。けれど、兄が励ましてくれて、私も前に進まなくちゃって、思ったんです。だから……だから、クラウス様も私と一緒に前に進みませんか?」

  クラウス様は、驚いて固まったまま。そして、しばらくしてからこう言った。

「それって、俺と婚約してくれるってこと?」

「はい!  けれど条件が一つだけあります」

「条件?」

  クラウス様の顔が少し歪む。

「私と一緒にダイエットをして下さい。必ず痩せさせてみせます」

「本当に……。本当に?  そんな条件で俺と婚約してくれるの?」

「はい!  クラウス様は、まだ十四歳。絶対に痩せられます。痩せて格好良くなったクラウス様と妹の前で仲良しアピールをして……妹を一緒に見返してくれませんか」

「妹……?」

「はい。私の元婚約者は、今は妹の婚約者です」

「それって、妹さんに婚約者を取られたってこと?」

  
  私は簡単に婚約から婚約解消までの経緯を話した。

  クラウス様も一緒に怒ってくれた。リリアーナは、悪くない。と言ってくれたクラウス様に、私の心が満たされていく。

「分かった。俺、絶対痩せるよ。俺にも見返したい人達がいるんだ。だから、俺のダイエットに付き合ってくれるか?」

「はい!  これから、よろしくお願いいたします。クラウス様」

  私は、とびっきりの笑顔で返事をした。
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