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四日目
4-2
しおりを挟む放課後。
アプリを起動すると、ぶすくれたアオが出てきた。
「なんだよ。その顔」
『いーえ。ある種予想通りすぎて、つまらないと言いますか』
部活が終わり、部員も掃けた部室。ロッカーや用具が立ち並ぶその中心。据えつけの長椅子に腰かけた陸人は、完全に一人きりの空間を手に入れてからスマホを手に取った。
『お言葉ですがリクト様。もうすこし冒険心を抱いてみてはいかがでしょう? 人生にはそうした思いきりも時に必要かと』
「そうだとしても今じゃないだろ」
ここなら、多少変な物音がしたってすぐに人が飛んでくるようなこともない、が、
「……おまえ。ほどほどにしろよ」
『ホドホド』
「はじめて聞いたみたいな顔すんな。わかってるだろうけどここおれの部屋じゃないからな。いつもみたいに、好き勝手されたら、さすがに」
──昨日。
しばし立ち上がれなくなるほど責められた記憶がよみがえり、胸の突起がずくりとうずいた。とにかく場所をわきまえろと繰り返すと、
『あー……はい♡』
アオは一瞬あさっての方をみてから、曇りない笑みを見せた。その態度に懸念をおぼえるも、躊躇していたって終わらない。陸人は覚悟の呼吸をおとし、画面端のスイッチに触れた。
「ひっ……!」
途端、右の乳首にビリリッと流れた刺激に肩がはね上がる。
「……っ、っ、……!」
びたりと貼りついた器具からそそがれる低周波の緩い電流は、皮膚を通しその奥にまで達する。敏感な神経を無数のやわらかい針で刺されるような未知の刺激を、昨日さんざん開発された突起はたしかな快感として享受した。
「ぁ、ッ……、っ、っ」
今日一日。
うごかなくとも、自分をたやすく絶頂に導ける玩具を身につけているという事実は常に陸人の意識にあり、水面下でじわじわとその身を蝕んでいた。授業中、歓談中、部活中。どんなに考えまいと努めても。勝手に焦らされた気になった体は、抗うこころとは裏腹に与えられる快楽に傾いていく。乳首が熱い。熱くてきもちいい。ビンッと簡単に勃起した突起を集中的に低周波に叩かれて、ゾクゾクと快感の波がせり上がってくる。
「……っは、ぁ、やば、あっ……だ、だめっ、だめだっ、もう、あッ……♡」
イく、とからだを強ばらせた瞬間、
「あ、……へ?」
刺激がぴたりと止まった。
「なんで……ッ、っ!?」
次の瞬間、稼働箇所が乳首から亀頭に替わる。
「ひぅっ……!」
『なんでって、なんですか?』
「……ッ……くぅ、ん……!」
手の甲に噛みつき、首を横にふる。ただでさえ過敏な先端への刺激に耐えられるはずもなく、すぐ頂きまで追い立てられるが、
「っ、……ふっ、っ……?」
また直前で動きが止まる。
「おい、これっ……ッあ!」
今度は、裏筋に宛てがわれた低周波装置が。じわじわと高まる性感に感度の上がったからだはすぐにでも達そうとするが、また、その一歩手前で快感を取りあげられる。
「ぁっ……ぅ゛、ッ~~~!」
『どうしました? そんな物欲しげな顔をされて。お望みの「ほどほど」ではありませんか』
「……っ、っ……!!」
イきそうになったら刺激が止まり、またべつの場所を犯される。稼働位置が矢継ぎ早に変わり、身構えるすべもなくその度にビクビクとからだが踊るように跳ねた。それを何度も繰り返されて、高ぶった身体は少しの刺激ですぐに達しかけるほどに追い込まれる。しかし的確なタイミングで刺激を奪われて、その度溢れる切なさに全身がわなないた。それでもすき勝手イかされるよりはましのはずだ。そう自分に言い聞かせて、陸人は真っ赤になった顔を俯け拳を握り沈黙を貫こうとしたが、焦らしの回数が二十を越えたところでスマホを掴んだ。
「はっ……ぅあ、あ゛、まて、待っ、て……!」
『なんです? リクト様。乳首きもちいいですか?』
「き、もちっ……アッちが、あっ、あんっ、あッもう、い、」
いく、と身構えた瞬間に稼働が止まる。乳首がじいんと強く疼く。尾を引く切なさに腰を揺らしながら、
「い、いきたい……っ」
陸人は折れた。
『はい?』
「イキたい、からっ……も、焦らすのやめろよ」
『おやおや。ここがどこだかわかった上での懇願ですか? あなたの部屋ではないんですよ? 部室です、部活動に励む生徒のための学校の施設です。そんな場所で、なんですか? なんとおっしゃいました?』
「うっ……」
『ほどほどに、場所をわきまえて。そう望まれたのはリクト様でしょう?』
あ、揚げ足取りのクソAI……!
「こっ、こんなの、だれがっ……あぅ゛!?」
冷ややかな笑みに抗議の声をあげようとも、性感帯を襲う痺れに言葉を奪われる。
「あぁっ、あっ、ぁ、もぅやだッ……!」
会陰がビリビリと震わされる。その奥にある前立腺がどくどくと脈打ち快感に打ち震えて、そうして限界に触れかけたところで、また、また。
「あう゛っ……ッ、っ~~~~~!」
取りあげられた快楽に追いすがるように腰がかくかくと振れる。
『リクト様。ほら、喘いでないで。してほしいことがあるのなら今朝みたくちゃんと言葉にしてください。どうなんですか? どうなりたいんですか? みんなが使ってる部室で、場所もわきまえずに電流アクメきめたいんですか? それともずっ~~~とこうしてほどほどの刺激で戯れていたいですか?』
弾む声が心底憎たらしいが、体内を巡る疼きは限界だった。
「っ、ぁっ……、」
陸人が意を決して口を開いたと同時、部室棟の外から人の声が聞こえた。
「っ…………!!?」
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