宵闇の恋わずらい ―冷徹医師は、解けない「愛」を処方する―

「解明できない、愛がある。――白衣を濡らすは、桔梗の残り香」

 舞台は、近代化の熱狂に沸く大正十年の帝都。代々エリートを輩出する家系に生まれ、ドイツの最新医学こそが世界の真理だと信じて疑わない青年医師・藤木健吾は、ある「不治の病」を抱えた名家・久遠寺家の令嬢の主治医となる。

 患者である久遠寺綾子は、雪のように白い肌と儚げな瞳を持つ、古風で可憐な少女。しかし、彼女の背後には、家の負の遺産として代々引き継がれる異形の思念体「宵闇」が取り憑いていた。

 健吾は当初、彼女を蝕む現象を「神経症」や「未知のウイルス」として冷徹に数値化し、科学の光で暴こうと試みる。しかし、診察を重ねるたび、彼は自らの理性を根底から覆す光景を目の当たりにする。それは、日光を浴びれば命が溶け、死に近づくほどに増していく、綾子の圧倒的な「美しき不合理」だった。

 さらに、綾子の体を乗っ取り現れる人格「宵闇」は、健吾の傲慢な知性を嘲笑い、彼の白衣の下に隠された醜い所有欲と狂信的な愛を暴き出していく。

 「彼女を救い、健康な日常へ戻したい」という医者としての使命。 「彼女をこのまま闇に閉じ込め、崩れゆく美しさを観察し続けたい」という男としての渇望。

 昼は清純な令嬢と献身的な医師として、夜は妖艶な魔性と毒に当てられた男として。一通の手紙から始まった二人の関係は、次第に医学と怪異の境界を越え、背徳的な「共依存」へと堕ちていく。

 「先生、私を救って……。でも、今の私を見て、心臓が高鳴っているのも知っていますよ」

 ロゴスの鎧を纏った男が、一輪の桔梗の香りに狂わされていく、耽美的怪異ラブロマンス。

 ゆく先々で出会う怪異に翻弄されながら……

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
※作中の人物、建物、地名等全てフィクションとなります。
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