上 下
6 / 86

第5話 凄いの?

しおりを挟む

 火曜日の朝、前回と同じくらいの時間にジムに到着。受付でロッカーのカギを貰う。
 今はスマホやカード等で受付が無人で出来るところが多いと聞く。けど、ここは高級を謳ってるので、逆にホテルのフロントと同じようにしてるんだよね。それがステイタスってことかな。
 1階にはカフェもあるので、九条さんとお茶なんかしたいな。と、横目で見てると……。

「よお、おはよう。これから?」
「あ、はい。九条さん、おはようございます」

 うわあ、無事九条さんと会えた。都合悪くなって来なかったらどうしようとか、しょうもないことを心配してたんだ。自然に頬が緩む。

「あんたのこと、なんて呼んだらいい? 鮎川さんとかは呼びたくないんだけど」

 え? それはもしかしたら、もっと親しみのある呼び方がいいってことかな。

「なら、真砂で。僕の名前です。真の砂って書いてマサゴ」
「へえ。良い名だな。俺はソウとでも呼んでくれ。フルネームは宗太郎だけど」
「あ、それは……僕は九条さんで大丈夫です」

 どう見ても彼の方が年上だ。僕は25歳、昨年、留年中の大学をなんとか卒業したばかり。
 デビューしたのは学生時代だから卒業はどっちでも良かったんだけど、小泉さんがラノベ作家なら中退より卒業の方がいいとか言うから……。

「そうか? ま、なんでもいいか。じゃ、また後でな」

 九条さんは既に着替えてて、先週と同じ黒の半袖Tシャツと伸縮性のいいロンパン。トレッドミルの方へ向かっていく。
 後ろ姿を見るにつけ、肩幅や姿勢のいい背中、それにお尻がキュっとしててマジで理想的な体格だ。

「鮎川さん、おはようございます。なにしてるんですか? 早速始めますよ!」

 うっとりしてるところに舞原さん登場。僕は慌てて更衣室へと急いだ。



「さっき、九条さんと話されてましたね。いつの間にお友達になったんですか?」

 今日も必死の形相で重りを引き上げる僕に、さりげなーく舞原さんが聞いてきた。思わず力が緩んで、盛大な金属音が。

「ゆっくり下ろすのが肝心ですよ」

 なんて言われた。意外に意地悪なとこあるな。

「それは、いきなりそんなこと聞くから……。九条さんとはシャワールームでお話ししたんだよ。初めてですかって言われて」
「へえっ。九条さんから? それは凄いじゃないですか」
「え? 凄いの?」

 ようやく1セット上げて、30秒の休憩。僕は舞原さんの言葉に食いついた。

「九条さん、見た通りカッコいいでしょ?」
「うんうんっ」

 千切れんばかりに首を振る。

「女性客はもちろん、男性にも人気あって……。でも話すと意外に気さくだから……ウチのジムでは神崎さんと双璧を張る注目度の高い人なんですよ」

 神崎さん? 誰だろ。まあいいか、それは。

「そうなんだ。それは光栄だね」
「ふふーん」

 30秒の休憩が無情にも終わり、僕はまたガシャンコと音をさせながら重りを引っ張り上げる。舞原さんは、なにか言いたげな顔で頑張ってる僕を見下ろした。

「な、なに」
「いえ。鮎川さん、可愛いですからねえ……そのちょっとタレた目がいい。うふふ」
「なんだよ、変なこと言わないでよっ」

 なに言い出すんだ。学生のくせして、僕のこと馬鹿にしてんのか?

「あ、いえ。失礼しました。さあ、頑張ってください。いい筋肉を作りましょう」

 なんだよもう。別に年功序列を盾にするわけじゃないけど、君は僕より年下だろ? そりゃ、今の僕は教えてもらう身だけど。

 九条さんが人目を引く特別な人なんて、言われなくてもわかってる。
 でも、改めてそんな人から声をかけられて『タイプ』なんて言われて、おまけにキスされたんだから、やっぱり嬉しい。誰にも言わないけど。

 舞原さんに揶揄われてムッとしたのも一瞬のこと。僕はまた機嫌を直してトレーニングに勤しんだ。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ジェントルマンズショコラ〜大人だって突然恋をする〜

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

No morals

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:149

フィメールの日

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:0

解放された男は救いを欲して右手を伸ばす

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:3

[完結]病弱を言い訳に使う妹

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:5,187

真実は仮面の下に~精霊姫の加護を捨てた愚かな人々~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,236pt お気に入り:7,186

1泊2日のバスツアーで出会った魔性の女と筋肉男

恋愛 / 完結 24h.ポイント:873pt お気に入り:100

処理中です...