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第6話 『楽しい事』
しおりを挟む先回決めた4種のマシン。腕、肩、胸の筋肉を中心に鍛える方針だ。4種目が終わり、ようやく筋トレはおしまい。舞原さんから食事のとり方等レクチャー受けてると……。
「舞原さん、もう終わった? 真砂、もらっていい?」
舞原さん越しに九条さんの声が! 真砂って、僕のことだよね? なんか感動しちゃうよっ。
「あ、はい。九条さん……大丈夫です。もう終わりました」
舞原さん、口元が引きつっている。えへへ、悪いね。
「じゃあ、一緒にバイク漕ごう。メニューに入ってるんだろ?」
さりげなく僕の前に手を差し出す。これ、握っていいのか?
「はい。お願いしますっ」
マシンのベンチに座ってた僕は、九条さんの手を取った。ぐいっと引き起こされる瞬間、脳内で鐘が鳴ったよ。
けど、同時に周りにいた人の視線が一斉に降り注いだ。ほんの5、6人だと思うけど、さすがに恥ずかしくてすぐに手を放してしまった。ホントはそのまま歩きたかったのになあ、残念。
ペダルを漕いでる間、九条さんは余裕で話をするんだけど、僕はとても無理。一番負荷を低くしても、まだまだ大変だ。
それでも、九条さんが僕より四つ年上で、建設関係の仕事をしてることはわかった。『あんた』呼ばわりするのはそのせいかな。車が好きで、今はマセラティに乗ってるんだって。今度、ドライブしようと誘われた!
「僕は……仕事は出版関係です」
「そうなんだ。今、大変なんじゃないのか?」
「はい。色々大変です」
僕程度の中小企業並み作家は今も昔も大変だ。電子書籍も僕にとっては手に取ってもらう機会が増えてむしろ有難いし。
「さて、そろそろ上がるか。もう十分だ。シャワー浴びたらメシ行こうぜ」
「わあ、是非」
やったあ。昼から打ち合わせとか入れなくて良かった。九条さんとランチなんて、なんと贅沢な。
「その前に……楽しいことしような」
「え?」
エアロバイクから降り、九条さんに続こうとした僕の耳元に彼が囁いた。
――――楽しいこと? なんだろう。車にでも乗せてくれるのかな。
何のことかわかんなかったけど、それでも九条さんが『楽しいこと』って言うんだから、僕も楽しくないはずがない。体はへたってたけど、心はウキウキ。脳内スキップ踏みながらシャワールームに入った。
「あれ、なにしてる。こっちだ」
九条さんの隣の個室に入ろうとしたら、呼び止められた。こっち? ええっ! こっち!?
差し伸べられた大きな手は僕の腕をぎゅっと掴み、そのまま引き寄せられた。同じ個室に連れ込まれてる!
――――まさか、楽しい事ってこれ?
「あれ、予想してなかった? 先週の続きだよ」
先週の続き……まさに僕は先週と同じように壁に押し付けられ、至近距離に九条さんが。
「今日は時間あるからな」
顎をクイっと上げられ、九条さんの熱いキスが……。
「んんっ……」
そのキスは先週のフレンチとは違い、身も心も蕩けてしまいそうなディープキスだった。
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