海の見えるこの町で一杯の幸せを
主人公、春日井日向は大学を卒業した二十二歳の春、トランクひとつだけを持って、地元を飛び出した。
「そうだ、海の見える町に行こう」
漠然と海の見える、落ち着いた町での生活を求めて、その場所にたどり着いた。
日向は、他の人とは違う眼を持っていた。
日向の眼には、人の『感情』が『色』として視えた。
そして、その眼が原因で、日向は幼い頃から、人との関係に悩み、心を擦り減らしてきていた。
そんな彼女が、海の見える町で仕事を探していると、この町でまことしやかに噂される、神様の話を聞く。
曰く、この町には猫神様がいて、町の人達に幸せをくれる。
曰く、その猫神様が運営する、喫茶店がある。
曰く、その喫茶店は、猫神様に認められた人間しか、店主になれない。
日向はその話を、おとぎ話のようだと思いながら、聞いていると、その喫茶店は実在して、現在は店主『マスター』が不在だという。
「仕事がないなら、猫神様を探しても良いかもね」
冗談半分で言われたその言葉を、頭の片隅に置いて、町を散策していると、一匹の黒猫に出会う。
その黒猫は自らを猫神だと名乗り、猫神達の主を助けて欲しいと持ちかける。
日向の眼の力が役にたつから。と言われた日向は、初めてこの眼が役に立つのなら。とその話を受け入れて、『マスター』になった。
『マスター』は心が弱っている人の、幸せだった頃の記憶を汲み取り、その記憶から、一杯のお茶を淹れる。
そのお茶を飲んだ人は、幸せだった頃の気持ちを取り戻し、辛い現実を乗り切る元気を貰う。
「幸せの一杯、お届けします」
この物語で、一人でも暖かい心になってくださる方が居ることを願って。
「そうだ、海の見える町に行こう」
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