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第壱章 色は匂へど
14話 水揚げと企み
新しい井草の香りが漂う椿の寝間には新調された赤くやわらかな三枚重ねの布団が敷かれていた。
暗いだろうと思っていた夜の帳を遮る様に行灯が二つ煌々と寝間を照らす。
夜を遮る障子からは明るい満月が反射して更に部屋を明るく照らし出していた。
客を釣る方法など全く判らない椿は、震えたまま布団の真ん中に座り込んでいる。
「そう固くなんなって、ほら飲め」
惣一郎が差し出す盃を受け取って椿は言われるがままに干す。
酒の美味しさは判る。
惣一郎が椿の頬を掌で優しく包み込むと顎を持ち上げて己の唇を椿のそれに重ねようとする。
瞬間、弾かれたように椿は惣一郎にぴしゃりと平手を打ってしまう。
しまった、と思って惣一郎の顔を見るが惣一郎は打たれた頬に手を当てて軽く笑っている。
「花魁は簡単に口吸いを赦しちゃなんねぇってのは叩き込まれてるか。まぁ、いい」
そうなのか、と初めて聞くそのしきたりに、椿は蓮太郎と重ねた唇の甘さをじわりと思い出した。そんなことを考える暇はない筈なのに、しきたりを利用して唇だけは蓮太郎に捧げられると考えてしまう。
他所事を考えていた椿は、しゅるりと帯を解かれて着物が肩から滑り落ちハッとする。
「や……」
と惣一郎の手を払い除けようとするが、さすがに惣一郎もそれを甘んじて受け入れる程間抜けではない。
手を止めはしなかった。
「襦袢までは脱がさねぇが、着物は脱がにゃあ色気もへったくれもねぇだろうが」
と剝ぎ取るように着物と帯を布団の向こうへ投げ飛ばすと椿を布団に押し倒す。
想像していたよりも強い力に椿はびくりとする。
蓮太郎はそんな乱暴を椿に働くことなどなかったし、そもそもが優しかったから力ずくで椿に触れるなどしなかった。けれど、水あめの蓋が開かずに困っていた時、いともたやすく開けてしまったのだから、やはり蓮太郎も男性として相応に力は強い筈なのだ。
惣一郎は蓮太郎よりもかなり身体が大きく、肩が広くて腕が太い。掌などは椿の顔を片手ですっぽりと包んでしまえる程には大きいから、きっと先程感じた力強さなどほんの触り程度なのだろう。
「待って、待って下さい、私は」
「廓言葉、抜けてんぜ?」
襦袢の衿元に手を掛けた惣一郎の手を押し戻すと、身を捩って逃げる。惣一郎から顔を背けて衿元をぎゅっと掴むとうずくまったまま椿は震えていた。
やけに明るい夜に浮かぶ椿の顔は青褪めているがやはり美しい。
目頭にじわりと浮かぶ涙がきらと光る。
「お前ぇさん、覚悟したんじゃねぇのかい。この先女郎として生きて行くのに閨の相手ができないなどとふざけたことは言わねぇだろうな?」
低く恫喝を込めた声で問われて更に椿はびくりと体を震わせる。
「はぁ……、面倒臭ぇな全く。突き出しの生娘ってなこんな大儀なもんなのかよ」
大きく溜息を吐く惣一郎は眉根に苛々とした神経質な皺を刻む。
幾らで競り落とされたかは椿も聞き及んでいる。それがどれ程の大金なのかも勿論判る。
これでは見世にも牡丹姐さんにも、客の惣一郎にも面目が立たない。
「ごめんなさい、すみません……」
「謝って解決にゃならねぇだろ」
「判っています。だから……、もう少し、優しく、して、下さい」
涙を滲ませながら椿は惣一郎の方に向き直る。
その鈴を転がしたかのような涼やかな声は、震えながらも何と耳触りの良いことか。長い睫毛がふるふると揺れ、ぽろりと涙が一筋こめかみに落ちる。柄にもなく惣一郎はその硝子細工のような繊細な美しい少女を見て胸が早鐘を打つのを感じた。
布団に転がった時に兵庫が崩れて髪が着物に絡み付き、幼い顔立ちだというのに妖しい色香を撒き散らす。
この声が、この顔が、情欲に塗れて恍惚に染まる様はどれだけ美しかろう。
「大丈夫だ、ひとまず力を抜け」
すぅっと息を吸って長く吐き出し落ち着こうと必死なのだろう。今年十六とか言っ
ていたか、体付きはかなり幼い。ほっそりとした小枝のように長い手足。
衿は乱したくないのか力を抜いても袷はぎゅっと手で握りしめいている。
襦袢の上から手を這わせて胸を揉むと身を捩る。
「胸は……、嫌です。その、薄いってよくからかわれて」
確かに牡丹の様な豊満で色気の漂う花魁の妹としてはかなり薄いが感触は悪くない。
とはいえこれ以上無理強いをしてまた先程のように頑なな態度に出られては先が思いやられる。
惣一郎は仕方なく襦袢の裾を割って腿の間に手を差し込むとと悲鳴のような声が上がる。
ぎゅっと膝を固く閉じてしまうものだから二進も三進も行かない。
「全部全部いうこと聞いてたらお前ぇさん、俺ぁなんも出来ねぇしよ」
そう言って惣一郎は力付くで椿の膝を開く。
「やっ」
と小さな悲鳴が聞こえるが、それでも諦めたのか、再度膝を閉じてしまったりはしない。
触れていればいずれ準備もできようと其処に指を這わせてみるが、椿は唇を噛みしめたまま何の声もあげない。
緊張しているだけなのか不感症なのか。
しばらく愛撫を続けてみようにも一向に椿は乱れた声を挙げなければ、弄んだ其処も全く反応しない。
惣一郎は半ば諦めて溜息を吐く。
仕方なく手元にあった麩海苔の蓋を開けると椿の其処にたらりと流す。冷たい感触に椿が
「ひっ」
と悲鳴を挙げる。
「まぁ、生娘ってのは俺も初めてだしこういうこともあるわな」
そう言いながら麩海苔を馴染ませると、椿の両足を開いて抱え己の魔羅をあてがう。
「ほら、躰の力を抜いて、そう、ゆっくり息をして」
そう言いながら椿の頬を撫で、落ち着かせると一気に貫いた。
椿がひと際高い悲鳴を挙げる。
小さな体のせいかそれとも元々なのか、椿の小さな体の中はぎゅっと締め上がり、強い圧迫感がある。
後に妓の玉門を鑑定する者も極上品と言う代物だろう。
惣一郎は頭の片隅にあった一つの"責務"も忘れてそれに没頭しかける。
椿の喘ぎ声は聞こえない。時々呻いては身を捩り、腰元から逃げようとする。
———痛い、痛い。動かないで、お願い。
貫かれた足の間の激痛と相俟って、惣一郎が動く度に体の中で蠢く其れは五臓六腑を突き抜けた様な痛みを与え続ける。口から出る呻き声は悲鳴にもならない嗚咽だけだった。
「やめ……、て、あっ、い、痛いっ! イヤ、あうっ!」
そうしてしばらく椿を突いた後、ふと惣一郎は絶頂に達した訳でもなく椿の中から抜く。
椿には己を見下ろす惣一郎の表情すら見る余裕もない。
引き抜かれてもまだ腹とその周囲や股にずくんずくんとうねる様な痛みが苛んで、椿はうずくまって腹を抱えたまま浅い呼吸で痛みを紛らわせようとしていた。
惣一郎が何ゆえ途中にも関わらず引き抜いたその意味をまるで理解していなかった。考えようにも痛みで頭が廻らない。
「ちぃと、大袈裟なんじゃねぇのかい?」
ぐいと、椿の顎を掴んで己の方へ向けると何やら惣一郎が厳しい顔付きで見下ろしている。
———大袈裟? この息をする度に臓腑が口から出そうになる激痛が大袈裟?
「あの」
椿は訳が判らずに惣一郎へ聞き返す。
「演技が下手くそだ、つってんだよ。生娘の振りも過ぎりゃあただの茶番だ、ぎゃあぎゃあとうるせぇって言ってんだよ」
惣一郎は何と言った? 振り? 茶番?
理解の追い付かない頭で椿は惣一郎が何を言わんとしているのか考えようとする。
痛みは、抑えて考えなければ。
「お前ぇさん、生娘じゃねえだろ」
「え……?」
「あぁ、血ぃ出てんなぁ。知ってっか? 生娘が血ぃ流すこともあるが、必ずしも血が出るとは限らねぇ。こんなちゃちな芝居しやがって」
「違います……、私は、殿方を知ったのは今日が初めてで、あの」
激痛で巡らない頭のまま考える。
考えて生娘を騙ったのだと言い掛かりを付けられているのだ、と理解する。
振袖新造が、既に男と通じて水揚げを騙ったのだ、と。だが、それを証明する方法など椿は知らない。最初に受け入れた男が証明してくれなければ、誰一人説得することなど出来ない。
そして、初めての男が生娘ではないと言うのだ。
「違う……、惣一郎様、私は」
「そんじゃあこりゃあなんだ?」
惣一郎が手に持っているのは小さな革袋。そこからは何やら赤いものがだらりと垂れていた。当然そんなもの椿には見覚えはない、なんだと聞かれて判る筈もない。
「お前ぇさん、騙しやがったな」
すぅっと椿の顔から血の気が引く。
元々緊張と恐怖で白かった顔が更に透けるように青褪めて、背筋に冷や汗がすうっと落ちる。
惣一郎は乱暴に立ち上がって枕を蹴り飛ばして
「畜生が」
と大きく怒鳴ると椿の部屋にいる筈の牡丹を呼ぶ。
「おい、牡丹!」
同時に襖を勢いよく開け放つと大股で姐花魁に歩み寄り襟首を掴む。
「……っ? そ、惣一郎様? いかがされんした?」
余りの剣幕に牡丹は驚いて、狼狽がそのまま言葉をどもらせた。
「お前ぇ、とんでもねぇ妓を初見世に出しやがったな」
理解の追い付かない頭で椿は駄目だ違う、と言いかける。
証明するものは何一つないけれどこのままでは自分への汚名だけで済まされる話ではない。
痛いなどと言ってはいられず声の限りに叫んだ。パタパタと布団に涙が零れ落ちる。
「違います! 惣一郎様のお考え違いでございます!」
惣一郎の剣幕と椿の様子を見てただごとでないと悟った牡丹はなるべく落ち着いて考える。
「椿が、何か不手際をしんしたのでございんすか?」
「生娘だと? ふざけんじゃねぇ!」
「嘘じゃありません!」
「椿が生娘ではない、と?」
怒り心頭、眉根を吊り上げて怒鳴り上げる惣一郎の顔をみて、更に布団の上でか細く震える椿を見る。
「初のご開帳で、破格の花代ぼったくりやがって、このくそあまが」
口汚く罵りながら掛布団を蹴り飛ばしてずかずかと大股で牡丹の所まで惣一郎が来る。
椿は引き攣って青白くなったまま怯えている。
「椿?」
なるたけ抑えた声で牡丹は一度名前を呼ぶ。
「違います……、私は、本当に殿方は知りません。姐さん、お願い……、 信じて」
硬い表情のまま椿の大きな瞳からぽろぽろと涙が溢れ出る。
「痛い痛いってぇ下手くそな演技かまして、鶏を絞めた血で破瓜を装うとは、てめぇ、どんな教育してきたんだ。この詐欺師が」
そんな筈はないと信じたかった、が惣一郎は幾人もの女を知っているが故に、生娘かそうでないか間違える筈もなかった。
引っ込み禿、振袖新造の影に隠れて、楼主お気に入りの若衆という名前を笠に着て、この幼い二人に騙された?
四六時中監視などできる筈もない、牡丹の目がない隙を窺って蓮太郎と椿が情事を交わしていた、ということだ。
「蓮太郎、だね?」
椿が、びくりと体を震わせて目を見開き息をのむ。
「賢い子だと思っとりゃんしたが。そう、そうでありんすか」
お職筋という大切な一本筋に大した侮辱を浴びせたものだ。
純愛が聞いて呆れる。
「違う……、違います。本当に蓮太郎とは何もありません、信じて……、 姐さん」
細い肩を震わせ硬直した表情のまま、大粒の涙をぼろぼろと布団に零しながら椿が訴えかけるが、安直に椿の言葉を信じるには、あの二人は仲が良すぎる。
「桔梗、蓮太郎を呼んどいで」
何かの用事の際に傍に控えていた椿より二つ年下の新造に牡丹は厳しく言い放つ。
桔梗は短く「はい」と返事をすると慌てて襖を開けて廊下を掛けて行った。
「牡丹姐さん、違います」
椿の声も言葉も牡丹には届かない。
蓮太郎をここに呼んできてどうする積もりなのかは判らないが、それでも牡丹の剣幕から正しい判断が得られる筈はない。
牡丹は若山遊郭随一の大見世華屋お職として、次代お職の突き出しが失敗した汚名を返上し名誉挽回に勤めることに必死なのだ。これ以上醜聞を広げる訳には行かない。
横柄な態度で牡丹の前にどっかりと座る惣一郎に向き直ると、居住まいを正し両の掌をしっかりと畳に付けて頭を下げる。
「惣一郎様、此度の不手際、椿に変わり姐女郎、牡丹が深くお詫び申し上げます。無論、今回ご用立ていただいた花代及びご祝儀その他諸々は全てお返し致しんす。また後ほど、この華屋楼主、並びに女将より金封を持ちまして、改めて松川屋様にお詫び申し上げるべく参上致します。至らぬ躾の妹をお相手に差し上げました旨、重ねて深くお詫び申し上げます」
楼主と女将が呉服松川屋に謝罪に行く。
椿はぐらりと眩暈を覚えた。
少なくとも今回用立てた支度金千両は松川屋に返す。詫び金は同額を見積もらねばならないだろう。更にこの件を口止めするための金封が必要だ。一体、この件だけでどれだけの金子が動くのだろう。
見当も付かない金額と体中が訴える痛みに椿は朦朧とする頭で考えを巡らせようとする。だが、何を以てこれを濡れ衣だと表明すればいいのだろう。
「牡丹姐さん……、違う。私は本当に……」
「椿は黙っとりやんせ!」
繰り返しの弁明ももう牡丹には邪魔にしかならなかったのだ。
暗いだろうと思っていた夜の帳を遮る様に行灯が二つ煌々と寝間を照らす。
夜を遮る障子からは明るい満月が反射して更に部屋を明るく照らし出していた。
客を釣る方法など全く判らない椿は、震えたまま布団の真ん中に座り込んでいる。
「そう固くなんなって、ほら飲め」
惣一郎が差し出す盃を受け取って椿は言われるがままに干す。
酒の美味しさは判る。
惣一郎が椿の頬を掌で優しく包み込むと顎を持ち上げて己の唇を椿のそれに重ねようとする。
瞬間、弾かれたように椿は惣一郎にぴしゃりと平手を打ってしまう。
しまった、と思って惣一郎の顔を見るが惣一郎は打たれた頬に手を当てて軽く笑っている。
「花魁は簡単に口吸いを赦しちゃなんねぇってのは叩き込まれてるか。まぁ、いい」
そうなのか、と初めて聞くそのしきたりに、椿は蓮太郎と重ねた唇の甘さをじわりと思い出した。そんなことを考える暇はない筈なのに、しきたりを利用して唇だけは蓮太郎に捧げられると考えてしまう。
他所事を考えていた椿は、しゅるりと帯を解かれて着物が肩から滑り落ちハッとする。
「や……」
と惣一郎の手を払い除けようとするが、さすがに惣一郎もそれを甘んじて受け入れる程間抜けではない。
手を止めはしなかった。
「襦袢までは脱がさねぇが、着物は脱がにゃあ色気もへったくれもねぇだろうが」
と剝ぎ取るように着物と帯を布団の向こうへ投げ飛ばすと椿を布団に押し倒す。
想像していたよりも強い力に椿はびくりとする。
蓮太郎はそんな乱暴を椿に働くことなどなかったし、そもそもが優しかったから力ずくで椿に触れるなどしなかった。けれど、水あめの蓋が開かずに困っていた時、いともたやすく開けてしまったのだから、やはり蓮太郎も男性として相応に力は強い筈なのだ。
惣一郎は蓮太郎よりもかなり身体が大きく、肩が広くて腕が太い。掌などは椿の顔を片手ですっぽりと包んでしまえる程には大きいから、きっと先程感じた力強さなどほんの触り程度なのだろう。
「待って、待って下さい、私は」
「廓言葉、抜けてんぜ?」
襦袢の衿元に手を掛けた惣一郎の手を押し戻すと、身を捩って逃げる。惣一郎から顔を背けて衿元をぎゅっと掴むとうずくまったまま椿は震えていた。
やけに明るい夜に浮かぶ椿の顔は青褪めているがやはり美しい。
目頭にじわりと浮かぶ涙がきらと光る。
「お前ぇさん、覚悟したんじゃねぇのかい。この先女郎として生きて行くのに閨の相手ができないなどとふざけたことは言わねぇだろうな?」
低く恫喝を込めた声で問われて更に椿はびくりと体を震わせる。
「はぁ……、面倒臭ぇな全く。突き出しの生娘ってなこんな大儀なもんなのかよ」
大きく溜息を吐く惣一郎は眉根に苛々とした神経質な皺を刻む。
幾らで競り落とされたかは椿も聞き及んでいる。それがどれ程の大金なのかも勿論判る。
これでは見世にも牡丹姐さんにも、客の惣一郎にも面目が立たない。
「ごめんなさい、すみません……」
「謝って解決にゃならねぇだろ」
「判っています。だから……、もう少し、優しく、して、下さい」
涙を滲ませながら椿は惣一郎の方に向き直る。
その鈴を転がしたかのような涼やかな声は、震えながらも何と耳触りの良いことか。長い睫毛がふるふると揺れ、ぽろりと涙が一筋こめかみに落ちる。柄にもなく惣一郎はその硝子細工のような繊細な美しい少女を見て胸が早鐘を打つのを感じた。
布団に転がった時に兵庫が崩れて髪が着物に絡み付き、幼い顔立ちだというのに妖しい色香を撒き散らす。
この声が、この顔が、情欲に塗れて恍惚に染まる様はどれだけ美しかろう。
「大丈夫だ、ひとまず力を抜け」
すぅっと息を吸って長く吐き出し落ち着こうと必死なのだろう。今年十六とか言っ
ていたか、体付きはかなり幼い。ほっそりとした小枝のように長い手足。
衿は乱したくないのか力を抜いても袷はぎゅっと手で握りしめいている。
襦袢の上から手を這わせて胸を揉むと身を捩る。
「胸は……、嫌です。その、薄いってよくからかわれて」
確かに牡丹の様な豊満で色気の漂う花魁の妹としてはかなり薄いが感触は悪くない。
とはいえこれ以上無理強いをしてまた先程のように頑なな態度に出られては先が思いやられる。
惣一郎は仕方なく襦袢の裾を割って腿の間に手を差し込むとと悲鳴のような声が上がる。
ぎゅっと膝を固く閉じてしまうものだから二進も三進も行かない。
「全部全部いうこと聞いてたらお前ぇさん、俺ぁなんも出来ねぇしよ」
そう言って惣一郎は力付くで椿の膝を開く。
「やっ」
と小さな悲鳴が聞こえるが、それでも諦めたのか、再度膝を閉じてしまったりはしない。
触れていればいずれ準備もできようと其処に指を這わせてみるが、椿は唇を噛みしめたまま何の声もあげない。
緊張しているだけなのか不感症なのか。
しばらく愛撫を続けてみようにも一向に椿は乱れた声を挙げなければ、弄んだ其処も全く反応しない。
惣一郎は半ば諦めて溜息を吐く。
仕方なく手元にあった麩海苔の蓋を開けると椿の其処にたらりと流す。冷たい感触に椿が
「ひっ」
と悲鳴を挙げる。
「まぁ、生娘ってのは俺も初めてだしこういうこともあるわな」
そう言いながら麩海苔を馴染ませると、椿の両足を開いて抱え己の魔羅をあてがう。
「ほら、躰の力を抜いて、そう、ゆっくり息をして」
そう言いながら椿の頬を撫で、落ち着かせると一気に貫いた。
椿がひと際高い悲鳴を挙げる。
小さな体のせいかそれとも元々なのか、椿の小さな体の中はぎゅっと締め上がり、強い圧迫感がある。
後に妓の玉門を鑑定する者も極上品と言う代物だろう。
惣一郎は頭の片隅にあった一つの"責務"も忘れてそれに没頭しかける。
椿の喘ぎ声は聞こえない。時々呻いては身を捩り、腰元から逃げようとする。
———痛い、痛い。動かないで、お願い。
貫かれた足の間の激痛と相俟って、惣一郎が動く度に体の中で蠢く其れは五臓六腑を突き抜けた様な痛みを与え続ける。口から出る呻き声は悲鳴にもならない嗚咽だけだった。
「やめ……、て、あっ、い、痛いっ! イヤ、あうっ!」
そうしてしばらく椿を突いた後、ふと惣一郎は絶頂に達した訳でもなく椿の中から抜く。
椿には己を見下ろす惣一郎の表情すら見る余裕もない。
引き抜かれてもまだ腹とその周囲や股にずくんずくんとうねる様な痛みが苛んで、椿はうずくまって腹を抱えたまま浅い呼吸で痛みを紛らわせようとしていた。
惣一郎が何ゆえ途中にも関わらず引き抜いたその意味をまるで理解していなかった。考えようにも痛みで頭が廻らない。
「ちぃと、大袈裟なんじゃねぇのかい?」
ぐいと、椿の顎を掴んで己の方へ向けると何やら惣一郎が厳しい顔付きで見下ろしている。
———大袈裟? この息をする度に臓腑が口から出そうになる激痛が大袈裟?
「あの」
椿は訳が判らずに惣一郎へ聞き返す。
「演技が下手くそだ、つってんだよ。生娘の振りも過ぎりゃあただの茶番だ、ぎゃあぎゃあとうるせぇって言ってんだよ」
惣一郎は何と言った? 振り? 茶番?
理解の追い付かない頭で椿は惣一郎が何を言わんとしているのか考えようとする。
痛みは、抑えて考えなければ。
「お前ぇさん、生娘じゃねえだろ」
「え……?」
「あぁ、血ぃ出てんなぁ。知ってっか? 生娘が血ぃ流すこともあるが、必ずしも血が出るとは限らねぇ。こんなちゃちな芝居しやがって」
「違います……、私は、殿方を知ったのは今日が初めてで、あの」
激痛で巡らない頭のまま考える。
考えて生娘を騙ったのだと言い掛かりを付けられているのだ、と理解する。
振袖新造が、既に男と通じて水揚げを騙ったのだ、と。だが、それを証明する方法など椿は知らない。最初に受け入れた男が証明してくれなければ、誰一人説得することなど出来ない。
そして、初めての男が生娘ではないと言うのだ。
「違う……、惣一郎様、私は」
「そんじゃあこりゃあなんだ?」
惣一郎が手に持っているのは小さな革袋。そこからは何やら赤いものがだらりと垂れていた。当然そんなもの椿には見覚えはない、なんだと聞かれて判る筈もない。
「お前ぇさん、騙しやがったな」
すぅっと椿の顔から血の気が引く。
元々緊張と恐怖で白かった顔が更に透けるように青褪めて、背筋に冷や汗がすうっと落ちる。
惣一郎は乱暴に立ち上がって枕を蹴り飛ばして
「畜生が」
と大きく怒鳴ると椿の部屋にいる筈の牡丹を呼ぶ。
「おい、牡丹!」
同時に襖を勢いよく開け放つと大股で姐花魁に歩み寄り襟首を掴む。
「……っ? そ、惣一郎様? いかがされんした?」
余りの剣幕に牡丹は驚いて、狼狽がそのまま言葉をどもらせた。
「お前ぇ、とんでもねぇ妓を初見世に出しやがったな」
理解の追い付かない頭で椿は駄目だ違う、と言いかける。
証明するものは何一つないけれどこのままでは自分への汚名だけで済まされる話ではない。
痛いなどと言ってはいられず声の限りに叫んだ。パタパタと布団に涙が零れ落ちる。
「違います! 惣一郎様のお考え違いでございます!」
惣一郎の剣幕と椿の様子を見てただごとでないと悟った牡丹はなるべく落ち着いて考える。
「椿が、何か不手際をしんしたのでございんすか?」
「生娘だと? ふざけんじゃねぇ!」
「嘘じゃありません!」
「椿が生娘ではない、と?」
怒り心頭、眉根を吊り上げて怒鳴り上げる惣一郎の顔をみて、更に布団の上でか細く震える椿を見る。
「初のご開帳で、破格の花代ぼったくりやがって、このくそあまが」
口汚く罵りながら掛布団を蹴り飛ばしてずかずかと大股で牡丹の所まで惣一郎が来る。
椿は引き攣って青白くなったまま怯えている。
「椿?」
なるたけ抑えた声で牡丹は一度名前を呼ぶ。
「違います……、私は、本当に殿方は知りません。姐さん、お願い……、 信じて」
硬い表情のまま椿の大きな瞳からぽろぽろと涙が溢れ出る。
「痛い痛いってぇ下手くそな演技かまして、鶏を絞めた血で破瓜を装うとは、てめぇ、どんな教育してきたんだ。この詐欺師が」
そんな筈はないと信じたかった、が惣一郎は幾人もの女を知っているが故に、生娘かそうでないか間違える筈もなかった。
引っ込み禿、振袖新造の影に隠れて、楼主お気に入りの若衆という名前を笠に着て、この幼い二人に騙された?
四六時中監視などできる筈もない、牡丹の目がない隙を窺って蓮太郎と椿が情事を交わしていた、ということだ。
「蓮太郎、だね?」
椿が、びくりと体を震わせて目を見開き息をのむ。
「賢い子だと思っとりゃんしたが。そう、そうでありんすか」
お職筋という大切な一本筋に大した侮辱を浴びせたものだ。
純愛が聞いて呆れる。
「違う……、違います。本当に蓮太郎とは何もありません、信じて……、 姐さん」
細い肩を震わせ硬直した表情のまま、大粒の涙をぼろぼろと布団に零しながら椿が訴えかけるが、安直に椿の言葉を信じるには、あの二人は仲が良すぎる。
「桔梗、蓮太郎を呼んどいで」
何かの用事の際に傍に控えていた椿より二つ年下の新造に牡丹は厳しく言い放つ。
桔梗は短く「はい」と返事をすると慌てて襖を開けて廊下を掛けて行った。
「牡丹姐さん、違います」
椿の声も言葉も牡丹には届かない。
蓮太郎をここに呼んできてどうする積もりなのかは判らないが、それでも牡丹の剣幕から正しい判断が得られる筈はない。
牡丹は若山遊郭随一の大見世華屋お職として、次代お職の突き出しが失敗した汚名を返上し名誉挽回に勤めることに必死なのだ。これ以上醜聞を広げる訳には行かない。
横柄な態度で牡丹の前にどっかりと座る惣一郎に向き直ると、居住まいを正し両の掌をしっかりと畳に付けて頭を下げる。
「惣一郎様、此度の不手際、椿に変わり姐女郎、牡丹が深くお詫び申し上げます。無論、今回ご用立ていただいた花代及びご祝儀その他諸々は全てお返し致しんす。また後ほど、この華屋楼主、並びに女将より金封を持ちまして、改めて松川屋様にお詫び申し上げるべく参上致します。至らぬ躾の妹をお相手に差し上げました旨、重ねて深くお詫び申し上げます」
楼主と女将が呉服松川屋に謝罪に行く。
椿はぐらりと眩暈を覚えた。
少なくとも今回用立てた支度金千両は松川屋に返す。詫び金は同額を見積もらねばならないだろう。更にこの件を口止めするための金封が必要だ。一体、この件だけでどれだけの金子が動くのだろう。
見当も付かない金額と体中が訴える痛みに椿は朦朧とする頭で考えを巡らせようとする。だが、何を以てこれを濡れ衣だと表明すればいいのだろう。
「牡丹姐さん……、違う。私は本当に……」
「椿は黙っとりやんせ!」
繰り返しの弁明ももう牡丹には邪魔にしかならなかったのだ。
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至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。