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第十一章 慌ただしき日々。そして、続かぬ平穏。

第192話 何のための剣か?。

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    「「いただきました(にゃ)。」」

    (あー食った食った。なんか以前よりも料理長の腕が上がった気がするよ。弱点だった、焼き物の味が以前よりも汁物に比べて劣らなくなってきた様に感じる。私からの新しいレシピで何か掴んだのかもしれないね。
さて、この後は王都の公爵邸に行かないとな。準備をするか。)

    自室で、再び冒険者スタイルに着替えたあと、執務室に戻り未決済の書類が無いのを確認していると、ドアがノックされた。
    練習着を着たセイラとサウルが入ってきた。サウルが来るのはまあ分かるが、セイラが来たのはよく分からないな?そう考えていると、サウルが確認してきた。

    「旦那様、今日の夕食はどちらで?」
「ああ、稽古をつけた後は戻って来る予定だから、こちらで頼むよ。」
「承知しました。お気を着けていってらっしゃいませ。」
「うん。で、セイラはどうしたのかな?」
「はい、ショウ様が実家に行かれると言うのと、弟達に剣の稽古をして頂けるそうなので、見学する為にご一緒したくて参りましたの。」
「うーん、心配なのはわかるけど、口出しは一切しないと約束できるかな?」
「はい、ショウ様の指導の邪魔は致しませんわ。お約束します。」
「そう、なら一緒に行こうか。じゃあ、サウル。後は頼むよ。」

「行ってらっしゃいませ。」

サウルのお辞儀を見つつ、セイラに近寄り、魔法を発動する。

「〈テレポート〉。」


    「はい、到着。」

王都の屋敷の執務室に移動した。
呼び鈴を鳴らすと、暫くしてカインがノックの後、部屋に入ってきた。

「お帰りなさいませ、旦那様。」
「うん、ただいま、カイン。」
「今日のご予定はどのように?」
「済まないが、リヒト公爵邸に伺う約束をしている。用意を頼むよ。」
「承知しました。セイラ様もご一緒にですね?」
「そうだよ。」
「では、暫くお待ち下さい。」

    待っている間、立っているのも何なので、二人ともソファーに座り、セイラ達三人の許嫁達の最近の様子を聞いている。話の途中でカインが馬車の用意が整ったと報告に来た。

    馬車に乗ること二十分程でリヒト公爵邸に着いた。
守衛に要件を告げて、入れてもらう。玄関口ではセバスさんが出迎えてくれた。
    早速中に通されて、応接室に通されると既に公爵がソファーに座って待っていた。


    「やあ、オオガミ君、いらっしゃい。おや、セイラも今日は一緒かい。今日も泊まりに来たのかな?」
「違いますわ、お父様。今日はガウェインとアルベルトがショウ様に剣の指導を受けると聞いて、見学に参りましたの。ショウ様はお忙しい事もあり、滅多に他者に指導や稽古をつける事はありませんから、少しでも機会があれば見ておきたいのですわ。」
「お前も相変わらず剣術一辺倒かい。どこで教育を間違えたのかなぁ。こんな娘が許嫁で済まないねぇオオガミ君。」
「いえいえ、中々刺激的で宜しいかと。」
「そう言ってくれるのは君だけだよ。ありがとう。(笑)」
「お二人とも、失礼ですわ!」

顔を赤くして、セイラがそっぽを向く。

    そんな会話をしている中、ノックの後に、ガウェインとアルベルトの兄弟が揃って部屋に入ってきた。
私を見ると、二人揃って頭を下げて言う。

    「「今日は宜しくお願いします。」」
「ああ、宜しく。ちょっと失礼するよ。〈鑑定・ガウェイン〉。」

(鑑定結果・氏名ガウェイン・フォン・テオドーラ。リヒト公爵家の長男十二歳。職業・魔法使いLV二。称号犯歴無し。この子は剣よりも魔法の方が好きなようね。責任感の強い良い子ね。先々楽しみな子よ。)
(うーん、やはり剣よりも魔法タイプか。なら、防御や回避中心でいいか。次は。)
「〈鑑定・アルベルト〉。」
(鑑定結果・氏名アルベルト・フォン・テオドーラ。リヒト公爵家の次男。職業・剣士LV一。称号犯歴なし。この子は、魔法の素養は低いわね。レベル二の魔法で無属性だけね。剣はよい素質を持っているわよ。鍛えてみる?)

「オオガミ君、何をしたんだい?」
「公爵、二人の適性を見たのですよ。さて、二人とも模擬剣を持って練兵場に行こうか。」
「「はい。」」
「では公爵、訓練に行ってきます。セイラも見学なら来なさい。」

公爵に一礼して、部屋を出る。

    練兵場にはそれぞれ体に合ったサイズの模擬剣をもって待っていた。二人の前に行くと、私もインベントリィから模擬剣を一本取り出して剣先を地面に着けて柄頭に両手を乗せて話しだす。


    「さて、これから剣術の訓練を始める。訓練中は二人の名前を呼び捨てにするし、私の事はコーチと呼ぶこと。いいか?」
「「分かりました、コーチ。」」
「よし。ではまず、二人に聞く。剣とは何だ?」
「武器です。」

ガウェインはすかさず答える。アルベルトも慌てて武器ですと答える。

「ならば武器とは何だ?」
「身を守る為の道具です。」

ガウェインが言えば、アルベルトも答える。

「戦いに使う道具です。」

今回は、すんなりアルベルトも答える。

「二人とも半分の正解だ。良いか、武器とは敵を殺し傷つける為に発明され生まれた道具だ。つまり、人殺しの道具だ。これが真実だ。己の身を守る。民を守る。綺麗事を言ってもやる事は敵を剣で斬り着けて殺すことだ。違うか?」
「はい、その通りです。」
「確かにそうです。」
「なら、そんな人殺しの技を身に付けるという事は、相応の覚悟と責任がいる。そうでないと、それこそ只の人殺しになってしまうからだ。剣はあくまでも道具だ。どのようにであれ剣自体は道具であって剣が自らの意思で人を傷つける訳ではない。その道具を持った使い手が人を殺すのである。君達には、常に自分が剣を持つだけの覚悟や責任を持っているか、問い続けてもらいたい。でないと、剣の力に取り込まれて、己を見失い破滅することになる。実際に先日、近衛騎士にまでなった者が己の力に溺れて、騎士を除名になり、高位貴族の実家からも勘当されて、最後はただの人殺しとして死んでいった。」

ここで一旦区切り二人の顔を見る。

    「剣に限らないが、あらゆる『力』を持つものは、その意味と責任を持つ事の覚悟がいるんだと覚えておけ。良いか?」
「「はい!」」
「よし、訓示はここまでだ。まずは構えからみていく。二人とも好きに構えなさい。」

    直立して話を聞いていた二人とも、剣を持って構えた。何故かセイラも剣を構えている。

「なあ、セイラ。何をしているのかな?」

私が尋ねるとセイラは言う。

「わたくしを気にせず、弟達に指導してくださいませ。」
「そ、そうかい?分かったよ。」

ガウェインとアルベルトの構えを、それぞれ直していく。

「二人とも、初めの構えでは殺られてしまうぞ。体の前と背中は見て分かる通り面積が広い。当然、相手からの剣が当たり易いのはわかるな?」

二人とも頷く。それを確認して続ける。

「だから構えはこうする。体は横向きにして足は左が前に右は横にして右は踵を着けない。盾を持つときは左手で盾を掲げて少し前に、右手は剣を腰だめに構えて、体の力は抜くこと。構えてみろ。」

基本から指導は始まっていく。


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