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第十八章 帝国大乱。

第363話 騎士団の入団試験。②

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    「はい、お待たせ致しました。ケルンとサンドロールの方々。順にお話ししましょうか?」

私が笑顔を向けて話しかけると、顔色を蒼くした三人が私を見返していた。


    「まずは、帝国領のケルンから来られた二人から。帝国からの命令で来たのですか?」
「・・・いや、我等はクロームガルド公爵閣下に命じられてツールに参った。」
「ほう。何でまた試験に参加を?」
「我々は実は貴方の事を全く知らない。だから交渉の前に少しでも情報収集するつもりで参加した。勿論合格する積もりはなかったが、この様な羽目になるとも思っていなかったよ。」
「成る程。敵対の意思は無いわけだね?」
「ああ、その積もりは全く無い。安心してくれて良い。」
「ま、襲いかかって来たら始末するから構わないが。おい、ロープを解いてやれ。〈キュア〉、〈キュア〉と。」

ロープから解き放たれると、〈キュア〉で麻痺を治してやる。

「使者の方にあの状態では失礼だからね。さてサンドロールの方は何をしに?」
「・・・『仮面の魔導師』殿に相談がありまして。」

日焼けなのか、浅黒い顔をした男が、聞き逃せない重大なことをサラッと言う。

「・・・貴方とも個別でお話をしないといけないようですね。おい、ロープを外せ。〈キュア〉。お三方の武装を外した後で、それぞれ別の応接室にお通ししろ。後で向かうから。後は頼むぞ。」

そう言い付けると、一旦試験会場に戻る。

「おら、どうした。お前の精一杯の力を見せてみろ。」
「そんなんじゃ合格は出来ないわよ。全力で来なさい!」
「そんな打ち込じゃ、ゴブリンも倒せないぞ。」
「剣の振り方もなっちゃいないな。それがお前の実力か?」

等々の発破をかける声が、あちらこちらで受験者達に浴びせられている。
ライガなど、ちゃんと審査しているのか心配に成る程、二、三回剣を打ち合わせると次の人に交代していてサクサクと人数をこなしていた。
もっと時間がかかるかと思っていたが、これなら夕方までには結果が出そうだ。後ろに控えるアーサルトに屋敷に戻ると伝えて、屋敷に向かった。



「お待たせしました。どうぞ席におかけ下さい。」

ケルンから来た二人に座るように勧めて呼び鈴を鳴らしてから対面のソファーに座る。

「旦那様、およびでしょうか?」

珍しくガトーが現れて尋ねてくる。

「あ客様と私にお茶を頼むよ。」
「畏まりました。」

一礼した後、部屋を出ていく。
三分程して帰ってくると、各自の前に紅茶の入ったティーカップを置いていく。そして再び出ていくのを見送ってから、カップを手に取り香りを楽しみ、そして一口飲む。それから、相手を見ながら話しかけた。

「さて、改めて自己紹介しますか。私がショウイチ・オオガミです。ツール辺境伯爵をやってます。使者殿のお名前を聞かせて貰えるかな?」
「私は公爵配下の騎士で、モルリッヒ・アインスマンと申します。」
「同じくカルロス・ザウバーと申します。」
「早速、お聞きしますが、何故私の事を調べていたのですか?」

アインスマンの方が上司なのか、彼が話し始める。

「ご存じの通り、今帝国の内情は大きく三つに別れています。ご承知ですよね?」
「ええ。聞いていますよ。」
「現在クロームガルド公爵閣下は、その中で大変に微妙な立場になっております。正直に言うと、皇帝側にこのまま着くか。平民達を纏め上げて反皇帝側に動くか。ケルンで独立して帝国から離れるか。色々と迷われています。独立するにも、反皇帝派に回るも、公爵閣下には現在欠けているモノがあります。」
「ほう、なんですかな?その欠けているモノとは。」
「戦力です。帝国に反するには、ケルンにいる駐留軍一万をまずは倒すなり吸収するなり対処しなくてはなりません。しかし残念ながら駐留軍の司令官は皇帝派でして、しかも我々には指揮権も無い。こちらに懐柔することができません。まあ公爵が皇帝派であれば問題ないのではありますが、今の帝国政府が行っている政治には、公爵としては賛同出来ない部分が多いとのお考えです。だが、そろそろお立場を決断する時期になっていると言われてもおります。民の事を考えれば、今の政府では国民の生活は一向に良くはならない事は分かりきっています。しかし、以前も公爵は陛下に内政の大切さを訴えても、一向に聞いて下されず、相も変わらずひたすら軍事にばかりお金をかける有り様で、終いには疎んじられ、ケルンへ左遷される有り様です。そして政府は未だに民の生活には無頓着であります。このままでは、国内は勢力乱立で内乱になり、また民には苦しい生活が続くことになるのです。我々公爵の臣下としましては、公爵閣下にお立ち頂いて、政府を倒し帝国の民の生活をお救い頂きたいのです。しかし、それをするには戦力が足りないのです。我々騎士団には五千の騎士しか居らず、駐留軍一万には対抗出来ないのです。そこで貴方に力を貸してもらえないかと考えた訳です。貴方はお一人で万単位の敵を倒す事が出来るとお聞きしました。」
「まあ、お気持ちは解らないではないですけど、私はウェザリアの貴族ですよ。判ってますよね?」
「はい。勿論分かった上での話です。」
「手を貸すことで、私のまたはウェザリアが得るメリットは、なんですか?勿論手を貸すかは、ウチの陛下と相談の上での判断ですけどね。」
「当然、受けてもらえるなら、そちらにとってメリットとなる報酬・条件も考えております。その上で手を貸して欲しいのです。」
「まず、報酬とは何かな?」
「その前にお聞きしますが、伯爵様は冒険者でありますよね?」
「そうだよ。まあ、色々あってAランクだけどね。」
「それは上々。もし、帝国の事にウェザリアの貴族として手を出せないと言うなら、冒険者として指名依頼させて貰います。」
「おや、どうしても手を貸して欲しいようだね。まず、条件を聞こうか?」
「はい。手を貸して頂いた上で、公爵閣下が皇帝になられたなら、王国との停戦いえ、講和条約を結び、ウェザリアとの国境地帯の一部の領土の割譲を約束します。」
「ほう、賠償金ではなく領土の割譲ですか。どの土地を貰えるのかな?」
「こちらとしましては、リーラ平原一帯とその東側の海岸地帯、マルセルとハヤタの二都市を考えています。現状帝国にとって現金による賠償は弱りきっている民には払いきれないのです。如何でしょうか?」
「先にも言ったけど、ウチの陛下と相談しないと一存では決められないな。それに、この条件は公爵殿も承知の上だろうね?」
「勿論です。公爵閣下から許可された条件であります。」
「そうかい。なら、そうだね一週間待ってくれるかな?一週間後お返事させて貰う。それまで、ウチに泊まっていけばよい。」
「え、よろしいので?」
「構わんよ。場合によっては仲間になるかも知れないからね。」
「では、一週間お世話になります。」
「うん。」

呼び鈴を再び鳴らすと、ガトーがまた入ってきた。

「お呼びでしょうか旦那様?」
「ああ、このお二方は一週間ほどお泊まりになられる。お部屋の用意とおもてなしするように。いいね?」
「畏まりました。では、お部屋にご案内致しますので、こちらにどうぞ。」

ガトーに先導されて部屋へと向かう二人を見送ってから、次の客が待つ部屋に向かう。

(やれやれ、複雑な所に更に面倒になるとはな。どうなる事やら。)
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