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一章

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その後二人は寝床を探し、近くに湖があるところで火を焚き始めた。
クロノアが残った携帯食を頬張っている間、グリエマは途中で採取した魔物の毛皮で何かを作っていた。

「それ……なんですか?」

土魔法で何枚のもの毛皮を接合しているグリエマの手元を見ながら聞いた。

「毛布だ。寝袋が一つしかないからな」

「え……それぐらいなら俺作りますよ、自分の分だし」

「いや、これは私のだ。君は私の寝袋を使うといい」

「―――いや、寝袋はエマさんが使ってください。もともとあなたの物だし、俺は同行している身ですから」

そう言うと、グリエマは少しの間視線を横にいるクロノアに寄越した。

「……わかった」

「君は体だけじゃなく、心も成長しているんだな」

そうして再び自分の手元に目を向けるグリエマは一定の間隔を空けて言った。

「あ……俺作りますって」

「いや、これは私がやる。こう見えて結構難しいからな」

視線を向けることなく、優しい瞳で答えた。

「じゃあ……お言葉に甘えます」

「あぁ」

そんな言葉を残して、ちりちりと音を立てて燃焼する薪を眺める。

(……女性なんだよな、この人)

顔には出さないようにしていたが、クロノアはそれなりに心臓が高鳴っていた。
蛍以外の女性との会話。あまり周囲の人と人間関係を気付いていなかったクロノアにとって平静を崩されるのには十分すぎる材料だと言えた。

(―――でも何だろう。そう言うんじゃないんだよな、この人は)

「出来上がったぞ。じゃあ寝ようか」

「あぁ…ありがとうございます」

「…そう言えば、寝込みを襲われたりしないんですか?」

継ぎ接ぎだらけの毛布を受け取りほどなくして、
グリエマへ率直な疑問をぶつけた。

「大丈夫だ。ここらへんに夜行性の魔物はいない」

「それに、いざとなればすぐに起きれるからな、安心して眠るといい」

「な、なるほど。ならよかったです」

笑みを浮かべて視線を送るクロノア。
その視線に先にいるグリエマは、バッグから寝袋を取り出しながら呟いた。

「私もだ」


♢♢♢♢


眠りに落ちたその日の夜、クロノアは夢を見ていた。

(なんだここ……また例の夢か……?)

体はない。夢を操作することはできない。ただ俯瞰できるだけだ。

壁に張り付いている鉱石。それらが周囲を照らしている。
そして自分のほかにもう一人いた。

――――血を流して。

目に生命が宿っていなかった。

「――――――――んぁ」

重たい瞼を持ち上げる。溢れんばかりの緑が広がっていた。
しかし、森の中なのだからそれは当然だ。ただ何も変化がなかった、というだけ。

魔物の毛皮で作られた掛け布団を剥がすと、グリエマの姿はなかった。

「エマさん……荷物はある。どこかに出かけてんのかな?」

体を起こして2つの足で体を支えたクロノアは、ちまちまとした足取りで歩く。

「喉……乾いたなぁ……」

大きく欠伸と大きな伸びをしながら間抜けな声で呟いた。

ふいに近くに水源があることを思い出した。魔法で生成した水をそのまま飲んでもいいのかわからなかったクロノアはその場所に赴く。念のため、近くの木に立て掛けて置いたグラディスウスを手に取って。


♢♢♢♢


「………エマ、さん。ここにいたんですね、よかった……」

大きな岩の上に畳まれて畳まれて置かれている衣類。
グリエマが着用していたものだ。

「でもまさか……体を洗っていたなんて、知らなかったです……」

衣服を纏わないグリエマの、ありのままの姿。

顔は確かに女性らしくない感じはするが、大胸筋は確かに膨れ上がっていた。
体は白く滑らかに見える。

グリエマが女性なのだと、改めて認識したのだった。

「クロノア君も洗うかい?ここの水はかなり綺麗だ、魔物も見当たらないしな」

そう言いながらも木を削って作られた桶のようなもので水を救い上げ、頭から被る。
彼女の体に水が滴った。グリエマはクロノアの視線など意にも介していないように、幾度となく水を被る。

(これ……は、まずい。駄目だ)

「す―――――」

とうとう赤面したクロノアは、大きく息を吸う。

「すみませんでしたぁぁぁぁぁ!!!!!!」

奇声ともいえる声をあげながら、逃げていってしまった。
もちろん、11歳相応の脚力とは思えない速度で。

そんな様子を手を止めて見ていたグリエマは、水浴びを再開する。

「あそこまで恥ずかしがる必要もないだろう
……いやまぁ、11歳なら当然の反応か」

頬をわずかに緩めた彼女は数回にわたって、再び水を頭から被せた。

「……駄目だ。仲間の一人として数えるな」

彼女は突如として顔を引き締めた。その表情はとても辛そうで、彼女の周りにはありえないほどの負の感情が、渦を巻いていた。

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