眼鏡ちゃん、バンドやる。

眠ゐ犬

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愛称で呼ばれました!

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「それじゃあ眼鏡ちゃん、また明日」

「はい!忘れないようにギターを持って行きます!」

 ギターを買った後、私と御園先輩は駅で別れた。
 残念ながら帰る方向が違ったんだよね…嘘吐いてついていこうかとも思ったんだけれど、バレた時が怖いから止めておいた。
 実は昨日引っ越しまして…って言い訳するのは苦し過ぎるし怪し過ぎるもんね。
 仕方がないよ…例え満員電車で密着するチャンスを逃そうとも、憧れの先輩には正直でいたいからね。

 …数秒前まで偽ってついていこうとしていたけれども。

 あ、私が御園先輩から眼鏡ちゃんと呼ばれている理由は、こんな流れがあったからです。

「そう言えば、君のことは何て呼べばいいかな?」

 私なんぞ、君で十分ですし、寧ろ君って呼ばれるのが嬉しくもあるのですが…。

「何でも結構です!」

 そう言った私の返事に御園先輩はしばし考えて…具体的に言うと2秒考えてから頷いた。

「なら、眼鏡ちゃんで」

「え?」

 眼鏡ちゃん…眼鏡ちゃんかぁ。
 小学校の頃から眼鏡が本体と揶揄われ続けていた私の潜在的眼鏡力が強く発揮されてしまったか…。
 正直言って、眼鏡ちゃんなら君の方が何倍も良い。けれども、御園先輩が考えてくれた愛称に文句なんてつけられる筈がないよね。

「それでお願いします!」

「うん。よろしくね眼鏡ちゃん」

 御園先輩からつけて頂いた愛称、一生大切に生きて行こうと思います!
 例えこの身が朽ち果てようとも!私は天国まで眼鏡ちゃんを抱えて逝く所存であります!

 そんな流れがありまして、私、高校に入って眼鏡ちゃん8年目に突入です。
 渾名じゃなくて愛称って言ってるのは、愛称の方が親しみが籠っているからだよ。
 実際はどうであれ、私の中で密かに思ってる分には誰にも文句は言われないだろうし、そこはポジティブに考えなきゃね。

「ただいまー」

「おかえり。あら、何か買ってきたの?」

 家に着いて、キッチンで夕飯の準備をしているお母さんに気付かれた。

「ふっふーん。ギターを買ってきたんだよ。石ナンデスのやつ」

「ヒ〇ナンデス?」

 即座に私と同じボケを思い付くとは、流石は我が母。
 私が誰に育てられたかがよくわかるエピソードの一つとして、心のネタ帳にストックしておこう。

「石ナンデスだよ。フェルナンデスってメーカーロゴのFが漢字の石みたいになってるから石ナンデス。結構有名なんだからね」

「有名さを伝えるエピソードがまるでない、聞きかじりの情報だね」

 その通り、聞きかじり以外の何物でもないよ。

「それにしても、地味な莉子がギターだなんて。明日は全属性の花粉でも舞うのかねぇ」

「全属性の花粉!?春夏秋冬全ての花粉ってこと!?花が咲いてない花粉は舞わないから、無難に雪でも降るとかにしておかない!?」

 そんなやりとりをして部屋に戻った私。
 高校生女子にしては自分でもあまりにも…あまりにもあまりにもな部屋。

 いや、別に汚い訳じゃなくて、地味なんだよ。
 可愛いキャラクター物とか流行りの服とか、メイク道具とかが一切無いから地味オブ地味なだけ。

「まあ、今日からはここにギターが加わるから、一気に印象が変わるんだけどね」

 そう独り言ちてギターのケース(ギグバッグって言うらしいよ)を下ろして壁に立て掛けた。
 それで鞄からスマホを出して、カメラに切り替えてパシャっと1枚写真を撮ってみる。
 写真は俯瞰で見られるから、こういう時に便利だよね。

「俯瞰で見た私の部屋はまるで男子の部屋のようだった」

 口に出したら何だか虚しくなったから、そのままスマホでギターの弾き方を調べましたとさ。
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