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見ちゃった

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俺たちは誰一人女の方を見ようとしなかったし、誰一人喋ろうとしなかった。ただ凍りついた様に平凡な建売住宅を見つめていた。

俺の目の端で真己が振り向いて女に近づいた。俺たちは真己の動きに釣られて女の方を見た。歳の頃は多分30才前後の、いや、もしかしたらもう少し年上か、噂通りの美人だった。美人だったが、俺には酷く禍々しい気がして、思わず息を飲み込んだ。女は真己に話しかけた。


「ねぇ、この家に何か用なの?この家に、私の友だちが住んでいたのよぉ。でも誰も友達に会わせてくれないの。知ってる?友達がどこに行ったか。ねぇ。教えて?」

真己はじっと女を見つめると言った。

「ここに住んでいたのは、あんたの友達じゃないだろ?」

女は急に息を荒げると、目を吊り上げてにっこり笑うと真己に答えた。俺はその目の奥が笑ってない顔が怖くて、心臓がドキドキしていた。


「…友達よ?だって、そうじゃなかったら、何だって言うの?急に居なくなっちゃって!もう直ぐ赤ちゃんだって産まれるところだったのに!何で居なくなったのかしら。…私の赤ちゃんだったのに!許さない、あいつら絶対に許さない!」

俺は怖すぎて、思わず光一の腕にしがみついた。俺を見下ろした光一も心なしか震えていた。目の前に居るのはお化けじゃなくて人間なのに、常軌を逸した人間てのは、こんなにも怖いものなのだろうか。俺は呆然と目の前の怒り狂った、美しいだけに凄みを増している女を見つめていた。

真己はクククとお腹を抱えて笑うと言った。


「こうも人間とは醜悪なのか。自分の勝手な思いを他人に押し付けて、夜逃げ同然に追い詰めて。全くこれでは妖の方がよっぽど人情味があるってものだ。おい、お前。お前のせいで、ここら辺一体の醜悪なものが集まってしまった。しかし、お前の思い込みは凄まじいな。我はお前がどうなろうと構わないが、一誠の友人が困ってるからな。手を貸すしかあるまいな。」

そう言うと、真己は女に手をかざした。すると女が悲鳴をあげてうずくまった。それと同時に俺が掴んでいた光一の腕がグッと引き下ろされて、気づけば光一も跪いていた。


「光一⁉︎ 大丈夫か!」

光一は眩暈がするのか、頭を振ると手を差し出して呻きながら言った。

「…大丈夫。ちょっとフラついただけだ。…なんだ、急にどうしたんだろ。」

光一の背負っていたあの黒い影の様なものが消えていた。俺はハッと真己の方を振り返った。光一が背負っていた黒い影と、真己の足元に倒れた女から剥がれ落ちた赤い影が真己の口の中に吸い込まれていく所だった。

全てが吸い込まれた時、真己は満足そうに唇を指の節で撫でると言った。

「たまにはこんな組み合わせもアリかもしれないな。悪くない。」

そう言って、妖艶に笑ったんだ。





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