本物の聖女が来たから用済みだと言われたので、出張聖女は自分の国に帰ることにしました

小倉みち

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第1章

王子

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 度重なるパワハラセクハラのオンパレードに怒りを覚えつつ、仕事場兼寝床である離れの塔へ向かっていると、

「聖女様」


 と、とても可愛らしい声で呼びかけられる。

「聖女様、いつもお疲れ様です」

「いえいえ、そんな!」


 私は笑顔で振り返る。


 この可愛らしい声の持ち主は、ギーリウス王国の第一王子。

 名前はーー。


「ルドルフ殿下、お久しゅうございます」


 私は丁寧に、あの国王に向けてするものよりも遥かに丁寧にお辞儀をする。

「お久しぶりですね、聖女様」


 ルドルフ殿下は、にっこりと微笑んだ。


 天使だ。

 天使。


 掃き溜めの鶴だ。


「僕の国のために、いつもありがとうございます。お疲れでしょう」

「そんな。殿下にそう言っていただけるだけで、嬉しゅうございます」

「本当ですか? ーーでも、目に隈が出来ています」

「あら」


 私は思わず目を押さえる。


 まさか隈が出来ていたなんて。

 殿下の前で、なんて見苦しいことを。


「少しは眠ってください」


 殿下は少し舌っ足らずな声でそう言う。

「僕、聖女様のこと本当に心配なんです」


 私は屈んで視線を彼に近づける。

「殿下、ありがとうございます。私は大丈夫ですよ。仕事が終わればちゃんと眠ります」

 
 可愛い殿下のお言葉というのもあるけど、子どもの前であんな汚い大人の姿、私は見せたくなかった。

 ましてやあれが自分の親だなんて。

 だから嘘をついて、誤魔化した。


「……嘘つかないでください」


 しかし、そんな浅はかな考えに、ルドルフ殿下は気づいているようだ。

「僕、本当に心配なんです。子ども扱いしないでください」


 ムッとして、唇を尖らせる。

 キューッと、自分の心臓が掴まれる音が聞こえた。


 可愛い。

 何その顔、めちゃくちゃ可愛い。


「あっ、そうだ」

 殿下は、自分のポケットをまさぐる。

「これ、聖女様にお渡ししようと思ったんです」


 彼が取り出してみせたのは、小包だった。

 綺麗な金の模様の入った紙で、何かが包まれている。


「それは?」

「金平糖です」

「金平糖?」

「甘くてとても美味しいお菓子です。聖女様、好きそうだと思ったんで。ぜひ食べてください」

「まあ、本当ですか! ありがとうございます!」

「いえいえ、これはお礼ですのでーーいつも、この国を支えてくださってありがとうございます」


 殿下はそう言って、足早に去っていった。


 残念だが、長話をするといろいろと目をつけられてしまうので、仕方のないことだった。


 だけど、嬉しい。

 私は殿下にもらった金平糖を、大事に両手で包み込む。


 殿下に感謝されて、それにお礼ももらえて。


 この国じゃ、誰も、

「ありがとう」

 なんて言ってくれないから。

 それどころか、少し失敗するだけで人格を全否定されるから。


 こんな優しさが傷口から入り込んで、私の心を暖かくしてくれる。


 嬉しい。
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