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練習

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 と言っても、ダンスの練習は2人だけでは出来ない。


 私が練習相手になるとして、それを見てくれる指導者が必要だ。

 お父様とお母様は忙しいし、イザベラたち使用人は社交ダンスを踊ることは出来ない。


 となると、残った人は家庭教師のバルザック先生しかない。

 彼には仕事量が多くなって申し訳ないけれど、授業がうまい先生なら、ダンスもうまく指導してくれると思った。


「お願いしても良いですか? 授業代はもちろんお渡しするので」

「ええ、構いませんよ」


 バルザック先生は笑顔で了承してくれた。

「私で良ければ、いくらでもお教えいたします」

「ありがとうございます」


 私は礼を言って頭を下げた。




 ダンスの練習は、すべての授業が終わった放課後に行われることになった。


 ランスはバルザック先生に最初から社交ダンスを教わる。

 私はランスの相手役として、時々彼と踊る。


 授業終わりで脳が疲れているせいか、少しでも運動することで気分転換になる。


 頭が洗い流されたようにすっきりした。


「――よし。今日はここまでにしましょうか」


 1時間みっちりランスに指導したあと、バルザック先生はそう言った。

「あまりやり過ぎると、勉学に支障をきたしますからね。ランス君は優秀なので内容はかなり進みましたが、残りの1カ月間で学園編入試験がありますし、それに初めてにしてはかなり線も良いので、ダンス練習は毎日1時間ずつでも問題はないでしょう――舞踏会はいつなんですか?」

「まだなんとも。陛下が主催ですので、かなり盛大になると思いますから。その準備でまだ日にちが未定なのかと」

「そうなのですか……。準備などを含めますと、おそらく数ヵ月ぐらい先にはなりそうですね。なら、今のペースでも問題はなさそうです。それでは、私は帰りますので」

「今日はありがとうございました」

「いえいえ、また明日」


 バルザック先生は、朝と同じくらいの疲れを見せない笑顔を浮かべ、屋敷から去っていく。


「よ、良かったね」

 私はなんとかランスと距離を詰めようと、話しかけた。

「バルザック先生がダンスを教えてくれることになって、本当に良かったね」

「ああ」


 ランスは頷く。

「だけど」

「だけど?」

「ずっと思ってたんだが、あの人どこかで見たことがある気がする――いや、気のせいかもな」


 
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