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2章

2章15話(116話)

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 会場まで戻ると、賑やかさがなくしんと静まり返っていた。何があったのだろうと様子を窺っていると、ハリスンさんが私たちに気付いてこっそりと教えてくれた。ただ、ものすごく申し訳なさそうに眉を下げていて、思わず首を傾げた。

「……君のことを、ジェリー嬢が口にした」
「私のことを?」
「うん、君がどうしてアンダーソン家の養子になったのかを……」

 ああ、なるほど。それでアル兄様とジェリー・ブライトが対峙しているのか。納得したようなしないような……。アル兄様が怒りを隠さない様子で彼女を睨んでいる。睨まれている彼女は、しくしくと泣くように両手を顔で覆っていた。

「君にリザのことを言う資格があるのか!?」
「う、噂を聞いただけですわ。エリザベス様は……ファロン子爵を殺したジュリー・ファロンの姉だって……。そんなに怒ると言うことは、本当なのですね……!」

 しんと静まり返っているから、言葉が良く聞こえる。私はゆっくりと息を吐いて、アル兄様のほうへ向かった。背中から彼に抱き着くと、驚いたようにアル兄様の動きが止まる。それは、彼女も同じだった。ぎゅっと抱き着いて、それから言葉を掛けた。

「ありがとうございます、アル兄様。私のために怒ってくださって……」

 私は心底嬉しかった。私のために怒ってくれる存在が、傍に居てくれる。それがどれだけ幸せなことなのか……。その幸せを噛み締めてから、抱きしめていた腕を緩め、アル兄様と並ぶように一歩前に出た。真っ向から彼女と向かい合う。彼女は私のことを見ていた。私はにこり、と微笑みを浮かべる。周りの人たちが驚いたように息を飲む音が聞こえた。

「皆様も気になるでしょうから、先に答えておきましょう。確かに私は『ジュリー・ファロン』と……異母姉妹です」

 ざわっと会場内が騒がしくなった。私はもう一歩前に出る。

「調べればわかることですわ。ファロン家には二人の令嬢が居ました。ひとりは私、ひとりはジュリー。私は三歳の頃、不慮の事故で顔に火傷を負ったため、ファロン家の家族から冷遇されていました。私はファロン家の人間ではないと――そんな扱いを受けていました。それを助けてくださったのは、ここにおられるアルフレッドお兄様。アル兄様が来なかったら、私はきっと今、ここに立っていることは出来なかったでしょう」

 疲れ果てていた二年前。あのままの生活を送っていたら、『私』は居なかっただろう。命があっても、自分で何も考えることが出来ずに、ただただ言われるがままに動く操り人形のようになっていただろうから……。
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