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2章
2章82話(183話)
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彼女の血の記憶を見て、私はぎゅっと自分を抱きしめるように両腕を交差させて掴んだ。ヴィニー殿下が、そっと私の肩に手を置いた。じんわりと伝わってくる彼の体温に、顔を上げてヴィニー殿下を見ると、心配そうな視線が向けられていた。
「――ひとつの身体にふたつの魂が入るなんて……可能なのか?」
「……禁忌魔法だと思う。……ジェリーは、ずっと耐えていたんだね……」
アル兄様が苦々しそうに表情を歪めた。血をもらった女性は、自身の記憶に呆然としているようだった。アル兄様は立ち上がり、彼女に向けて魔法を使う。――眠りの魔法だ。
「――協力、ありがとうございました」
シー兄様がそっとベッドまで運んで、私たちは彼女が目覚めるまでここにいることにした。
「……ジェリーが抱えていた本……。カナリーン王国の『呪いの書』だわ……」
私の顔に火傷を負わせた本。……それを持っているということは……マザー・シャドウが絡んでいるのはもう間違いない。私は自分の心を落ち着かせるように深呼吸をしてから、真っ直ぐに前を見据える。ジェリーの身体に、マザー・シャドウの魂が宿っているのも、間違いないだろう。
「……私は、どうすればジェリーを救える……?」
独り言のように呟くと、シー兄様とアル兄様が近付いて来て、ぽんぽんと私の頭を撫でたり背中を撫でたりした。びっくりして目を丸くすると、アル兄様たちは「一人で抱え込まないで」と声を掛けてくれた。
「……ありがとう、みんな……」
「……ところで、かなりショッキングな出来事を思い出させるような魔法だったけど、大丈夫なのか?」
シー兄様が心配そうにそう言うと、こくりとアル兄様がうなずいた。
「血の持ち主は、記憶を見たことを忘れるように調整したから……起きたら覚えていないハズだよ。針に刺されたことくらいは覚えているだろうけど」
「……それも心配だけど、オレが心配しているのはお前のほうだからな?」
シー兄様が肩をすくめてアル兄様に声を掛けると、アル兄様は目を瞬かせてそれから心配されて嬉しいのか、恥ずかしいのか、ほんのちょっと顔を赤らめてむっとした表情を浮かべた。
「子ども扱いしないでよ。僕なら平気だから!」
「いや、成人していないから子どもだろ……」
シー兄様が仕方ないなぁとばかりにアル兄様の頭に手を置いてくしゃくしゃ撫でた。
「ちょっと! シリル兄様!」と怒っているような、どこか嬉しそうな声を上げていた。それを見て、ヴィニー殿下がくすりと笑いだす。
「本当、いつ見ても仲が良いよね」
「そうか?」
「そうだよ」
シー兄様がちょっと嬉しそうに微笑んだ。アンダーソン家の兄弟って、確かに仲が良いのよね。シリル兄様はお休みの日にアンダーソン邸に戻り、エドの遊び相手になったり、長期休暇で帰って来たアル兄様と剣を交えたり……。あ、もちろん私にも優しくしてくれるけどね。
「その仲の良さは、羨ましいものだよ」
「ヴィー……」
ほんの少し、寂しそうに微笑むヴィニー殿下にアル兄様が複雑そうな声を出した。……そう言えば、私はヴィニー殿下の兄たちに会ったことがない。王宮に行くことはあったけれど、アンダーソン家のいつも使っている部屋と、魔塔にくらいしか行かなかったから……。ヴィニー殿下は三男だから、上にふたりの兄がいるはずなのに……。
「あの人たちは相変わらずなの?」
「相変わらずだね。僕が何度も王位は要らないって言っても、聞いているんだか聞いていないんだか……」
呆れたように言葉を呟くヴィニー殿下に、思わずシー兄様を見た。
「……アル、ヴィンセント殿下。ちょっと買い物してくる。リザ、一緒に行くか?」
「行く! アル兄様、ヴィニー殿下、彼女の様子を見ていてくださいね」
シー兄様に誘われた私は椅子から立ち上がって、アル兄様とヴィニー殿下にそう言ってからシー兄様の隣に立った。
「――ひとつの身体にふたつの魂が入るなんて……可能なのか?」
「……禁忌魔法だと思う。……ジェリーは、ずっと耐えていたんだね……」
アル兄様が苦々しそうに表情を歪めた。血をもらった女性は、自身の記憶に呆然としているようだった。アル兄様は立ち上がり、彼女に向けて魔法を使う。――眠りの魔法だ。
「――協力、ありがとうございました」
シー兄様がそっとベッドまで運んで、私たちは彼女が目覚めるまでここにいることにした。
「……ジェリーが抱えていた本……。カナリーン王国の『呪いの書』だわ……」
私の顔に火傷を負わせた本。……それを持っているということは……マザー・シャドウが絡んでいるのはもう間違いない。私は自分の心を落ち着かせるように深呼吸をしてから、真っ直ぐに前を見据える。ジェリーの身体に、マザー・シャドウの魂が宿っているのも、間違いないだろう。
「……私は、どうすればジェリーを救える……?」
独り言のように呟くと、シー兄様とアル兄様が近付いて来て、ぽんぽんと私の頭を撫でたり背中を撫でたりした。びっくりして目を丸くすると、アル兄様たちは「一人で抱え込まないで」と声を掛けてくれた。
「……ありがとう、みんな……」
「……ところで、かなりショッキングな出来事を思い出させるような魔法だったけど、大丈夫なのか?」
シー兄様が心配そうにそう言うと、こくりとアル兄様がうなずいた。
「血の持ち主は、記憶を見たことを忘れるように調整したから……起きたら覚えていないハズだよ。針に刺されたことくらいは覚えているだろうけど」
「……それも心配だけど、オレが心配しているのはお前のほうだからな?」
シー兄様が肩をすくめてアル兄様に声を掛けると、アル兄様は目を瞬かせてそれから心配されて嬉しいのか、恥ずかしいのか、ほんのちょっと顔を赤らめてむっとした表情を浮かべた。
「子ども扱いしないでよ。僕なら平気だから!」
「いや、成人していないから子どもだろ……」
シー兄様が仕方ないなぁとばかりにアル兄様の頭に手を置いてくしゃくしゃ撫でた。
「ちょっと! シリル兄様!」と怒っているような、どこか嬉しそうな声を上げていた。それを見て、ヴィニー殿下がくすりと笑いだす。
「本当、いつ見ても仲が良いよね」
「そうか?」
「そうだよ」
シー兄様がちょっと嬉しそうに微笑んだ。アンダーソン家の兄弟って、確かに仲が良いのよね。シリル兄様はお休みの日にアンダーソン邸に戻り、エドの遊び相手になったり、長期休暇で帰って来たアル兄様と剣を交えたり……。あ、もちろん私にも優しくしてくれるけどね。
「その仲の良さは、羨ましいものだよ」
「ヴィー……」
ほんの少し、寂しそうに微笑むヴィニー殿下にアル兄様が複雑そうな声を出した。……そう言えば、私はヴィニー殿下の兄たちに会ったことがない。王宮に行くことはあったけれど、アンダーソン家のいつも使っている部屋と、魔塔にくらいしか行かなかったから……。ヴィニー殿下は三男だから、上にふたりの兄がいるはずなのに……。
「あの人たちは相変わらずなの?」
「相変わらずだね。僕が何度も王位は要らないって言っても、聞いているんだか聞いていないんだか……」
呆れたように言葉を呟くヴィニー殿下に、思わずシー兄様を見た。
「……アル、ヴィンセント殿下。ちょっと買い物してくる。リザ、一緒に行くか?」
「行く! アル兄様、ヴィニー殿下、彼女の様子を見ていてくださいね」
シー兄様に誘われた私は椅子から立ち上がって、アル兄様とヴィニー殿下にそう言ってからシー兄様の隣に立った。
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