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4章
4章68話(368話)
しおりを挟むソルとルーナは私に近付いて、見上げてきた。真摯なその視線を受けて、私もまた真剣な表情を浮かべる。
「ソルもルーナも、契約者と別れるのは嫌だ」
「ずっと一緒に居たかった」
だから、ダメ? とうるうると潤んだ瞳で問われて、私は椅子から立ち上がり、ソルとルーナに向かって緩く首を振ってから、しゃがみ込む。そっと手を差し出すと、ソルもルーナもすぐに私の胸に飛び込んできた。
ぎゅっと抱きしめて、その温かさを感じる。
「元々、ソルとルーナは創られた精霊だから、それも許されるかもね」
ヴィニー殿下がどこか納得したように言葉を呟く。
「シェイドは違うのですか?」
「シェイドはその名の通り、影の精霊だから、僕が死んでからもやることがあるんだ」
ヴィニー殿下から『死』という言葉が出て来て、思わず目を瞠った。それから眉を下げると、椅子から立ち上がり私の近くにきた彼が、ぽんぽんと私の頭を撫でる。
「影の精霊のやることって……?」
シェイドはゆらりと揺れた。ちらちらとヴィニー殿下とソフィアさんを見ているようだ。
「この世界の他に、冥界があるって言ったら、信じる?」
「めいかい?」
「そう。神々の世界の他に、死者の世界がある……らしい。シェイドはそこで、死者を案内する役割を持っているんだよ」
「死者を案内……?」
人は死んだら終わりではなかったの? とヴィニー殿下をじっと見つめると、ソフィアさんがこほんと一度咳払いをした。
「本当にあるかどうかは、シェイドが喋らない限りわからないけどねぇ?」
ソフィアさんに顔を向けると彼女は頬に手を添えて、片手をひらりと振る。シェイドは沈黙を守ったままだ。
「そうなのですね……。あら? でも、シェイドはヴィニー殿下の護衛でしょう? 居なくなっていることがあるのですか……?」
「ううん、シェイドには小さいシェイドたちがいるから、そういうことにはならないよ」
「ち、小さいシェイド……?」
あまり想像出来なかった。想像力が足りないみたい。
シェイドはただ、揺れていた。そんなシェイドに笑いかけるヴィニー殿下とソフィアさん。
「ま、待ってください。精霊界の他にもいろいろと世界があると言うことですよね。なら、シェイドが精霊界でヴィニー殿下と契約出来たのはなぜですか? その世界が本当なら、シェイドはその世界に居たと言うことですよね?」
私の問いには、ソフィアさんが答えてくれた。ソフィアさんは立ち上がり、窓辺に近付いていく。カーテンを閉めて、くるりとこちらに身体を向けた。
「――精霊界はどこにでも繋がっているからよ」
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