311 / 353
4章
4章83話(383話)
しおりを挟むカーラ様から、どのように過ごせば良いのかを教えてもらい、その通りに過ごした。たまに、マリアお母様が顔を見せに来てくれた。ベッドの傍に椅子を置いて、物語を紡ぐように、いろいろなことを口にするお母様の表情は、とても穏やかだ。
「……病気ではないのに、こんな風に休んでいても良いのでしょうか?」
「病気じゃないから休むのよ。軽く身体を動かすくらいなら良いけれど。でも、エリザベスには初めてのことでしょう? ゆっくり、自分の身体に向き合うべきだと思うの」
そう言って、柔らかく私の頭を撫でた。その優しい手つきに、なぜか泣きそうになる。じわり、と涙が滲むのを誤魔化すように微笑んだ。
「お母様。――私、お母様のような女性になれるでしょうか?」
「あら、わたくしを目指してくれるの?」
お母様は嬉しそうに目元を細める。こくりとうなずくと、私の頭から手を離して「そうねぇ」と呟く。
「わたくしは、エリザベスにはエリザベスらしい『淑女』になって欲しいと思うわ」
「私らしい、『淑女』?」
ええ、とお母様が私の頬に手を伸ばして、そっと触れた。
「だって、あなたはわたくしの自慢の娘ですもの。あなたはあなたらしく、が一番だと思うのよ」
そう言って微笑むお母様に、私は言葉を出せなかった。とても優しい顔をしていたし、『自慢の娘』という言葉に息を呑んだからだ。私のことを、そう思ってくれていたことに、嬉しさが溢れる。
「――でもそうね、目指してくれるのは嬉しいわ。あなたがなりたい『女性』の像がわたくしなんて、母親としてはとても嬉しいもの」
くすくすと鈴が転がるように笑うお母様は、もう一度私の頭を撫でてから「ゆっくり休むのよ」と部屋から出て行った。その背中を見送りながら、やっぱりお母様のような女性になりたいと思った。
凛としていて、優しくて、いつも手を差し伸べてくれる、女性に。
私のベッドの上で丸くなっていたソルとルーナが、のそりと動き出した。さっきの話を聞いていたのだろう。
「エリザベスは、マリアのようになりたいの?」
ルーナの問いに、うん、と小さくうなずいた。ルーナは「そうなんだぁ」と興味深そうに言葉を発し、ソルはちょっとだけ私に近付いてじーっと見つめてきた。
「ソル?」
「ソルにはエリザベスが目指す『淑女(レディ)』がどういうのかわからない。けど、エリザベスはエリザベスのままで良いと思う」
「ルーナも!」
ソルの言葉に賛同するように、ルーナがぴょんと跳ねた。
「――ありがとう」
お母様と同じようなことを言われて、思わず笑みが浮かんだ。
ソルとルーナに腕を伸ばすと、私がしたいことを察したのか、手が届く範囲に来てくれた。ソルとルーナをまとめて抱きしめる。ソルもルーナも、私のことを本当に好きでいてくれているのだと感じて、なんだかくすぐったい気持ちになった。
「でもね、やっぱり目標はあったほうが良いと思うの」
「そうなの?」
「うん、きっと」
憧れる人は多い。その人たちのようになれたら、と考える。でも、私は私だから。その人たちを目指しながら、私らしい『淑女』になれたらいい。そう思えるようになったのは、みんなのおかげなのよね。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8,761
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。