婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?

ピコっぴ

文字の大きさ
120 / 263
小さな嵐の吹くところ

17.いざ、出発

しおりを挟む


 進水式組のアレクサンドル、フレック夫妻、マリアンナ王女とお供のカルルは、多くの騎士と従者を連れて隣町へ向かった。

 シーファーク視察組は、件の客船が到着するまで昨日練り歩いた海際の商店街ではなく、山裾付近の農場や牧場、農協などを視察に出ることにした。


「シス。目立たないために、護衛騎士はある程度離れて数人にしていると聞いた。フレック殿下の命で、今日は傍についていろと⋯⋯」
「まあ、エル従兄にいさまがご一緒してくださるなら、心強いですわ」

 商家の娘風のワンピースに身を包んだシスティアーナに、騎士見習いの隊服から徽章や武具を外した姿のエルネストが肘を差し出す。

 夜会などでエルネストのエスコートに慣れているシスティアーナは、自然に手を添えた。

「それじゃ、行こうか」

「待ってよ、エルネスト」

 歩き出したふたりに、背後から待ったをかける声。デュバルディオである。

「お前とシスは又従兄妹またいとこだし、ちょっといいとこのお嬢さんとお付きの護衛兼従者に見えるからいいよ。
 でも、僕とミアでは、いかにも貴族のお忍び感が出過ぎて目立つ上に、気にして見たらすぐにバレるよ」

 だから、パートナーを交換しろという。

 久し振りにシスティアーナと話せると浮き立っていたが、ディオの言うことも解るし、王子の言葉には特別な理由もなしには逆らいづらい。

 顔には出さずに、パートナーを交換する。が、エルネストを知る者には明らかにがっかりした表情かおであった。

「それじゃ、行こう」

 昨日と同じく、ディオがシスティアーナの手を柔らかくしかし離さないようにしっかりと握り込んで、意気揚々歩き出した。

 夜会で、代理エスコートやダンスで手を添えることはあっても、ああして握った事など、システィアーナが他の令嬢よりも早めの社交デビューをして以来、淑女として扱わねばならず何年もない。

 羨ましいものを見る視線をふたりの後ろ姿にやるが気を取り直し、エルネストは柔和な目をユーフェミアに向けた。

「では、不肖ながら私めが本日のお相手をつとめさせていただきます。手をお取りくださいますか、姫君」
「喜んで。よろしくお願いしますわ、エルネスト」

 艶やかな金髪と光の加減で複雑に何色もの輝きを見せる神秘的な虹色の瞳アースアイが、ユーフェミアの笑顔をより眩しく見せる。

(王家の姫君らしく堂々としていて、磨き込まれた宝石のようにとても綺麗な子だな)

 改めてそう思うが、内面から滲み出るシスティアーナの人の良さが、エルネストにとってはより美しく感じる。

 馬車を使わず、丘の中腹の山荘から林道を歩くのは、木漏れ日と木々を抜けてくる風が、とても心地よかった。





しおりを挟む
感想 164

あなたにおすすめの小説

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

私を裁いたその口で、今さら赦しを乞うのですか?

榛乃
恋愛
「貴様には、王都からの追放を命ずる」 “偽物の聖女”と断じられ、神の声を騙った“魔女”として断罪されたリディア。 地位も居場所も、婚約者さえも奪われ、更には信じていた神にすら見放された彼女に、人々は罵声と憎悪を浴びせる。 終わりのない逃避の果て、彼女は廃墟同然と化した礼拝堂へ辿り着く。 そこにいたのは、嘗て病から自分を救ってくれた、主神・ルシエルだった。 けれど再会した彼は、リディアを冷たく突き放す。 「“本物の聖女”なら、神に無条件で溺愛されるとでも思っていたのか」 全てを失った聖女と、過去に傷を抱えた神。 すれ違い、衝突しながらも、やがて少しずつ心を通わせていく―― これは、哀しみの果てに辿り着いたふたりが、やさしい愛に救われるまでの物語。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

処理中です...