そのジンクス、無効につき

三日月

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FIRST GAME

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新人教師の仕事は雑用が多すぎる。
指導要領を作成するためにわざわざ六時半に来たというのに。
なんで、着いた直後に仕事が増えるんだ。
面倒くさい、面倒くさいと心中怨嗟を撒き散らしていることは微塵も顔には出さず、女子生徒二人を振り返る。

「また待ち伏せしてるんだっけ?」
「そう、まただよ、また。
今週は、珍しく毎日。
荒川センセに漏れなく連れ出されてるのに、全然懲りないみたいで」
「若ちゃん先輩のことは全然嫌いじゃないけど、あのジンクスを一緒に叶えるのはちょっとねぇ」

強豪女子バレー部の朝練は早い。
担当教師が来る前に、ネットを張ったりウォームアップも済ませておくよう言われているらしい。
顔を見合わせ肩をすくめる二人はキャプテンと副キャプテンだ。
貴重な時間を削られてる割に笑っている。
まぁ、途切れ途切れではあるが4月から二ヶ月続いてるからな。
諦めもあるんだろうか。

「今日も、まぁ、出来るだけ早めにどかすから」
「「よろしくお願いしますっ」」

ペコリと頭を下げられる。
頼られると悪い気はしないな。
目的地は、校舎から体育館に続く渡り廊下。
その手前で立ち往生している集団が見えてくる。
そわそわ俺が着くのを待ちわびている者もいれば、窓越しに渡り廊下を覗き見てる者もいた。

朝練待ちの部員から「頑張って~」と送り出され渡り廊下に出る。
そのど真ん中であぐらをかいていたのは、制服を着崩した三年の若ちゃん先輩こと若松 徹。
はふぅとあくびを噛み殺していたが、俺の姿を見るや立ち上がり、こちらに向かって飼い主を見つけた忠犬のように走ってきた。
昨日までは、俺がそこに行くまでテコでも廊下からは離れないとゴネていたくせに珍しい。

「お、おはようっす、荒川先生っっ」
「あぁ、おはよう・・・近くないか?」

俺も175cm超えていて高い部類に入るはずなんだが、若松との身長差はほぼ無い。
側まで寄られる顔と顔の距離が近過ぎる。

「全然近くないですッ」

キリッと真剣な顔で答える若松。
なんか調子狂うな。

「あのな、何回も行っているが、バレー部が迷惑して・・・」
「今日は、荒川先生を待っていたんですぐ退きます。
話があるんで早く行きましょう。
俺、サッカー部の鍵持ってるんで」
「は?」

何故か室内履きのまま体育館隣の部室へ引っ張られる。

「おい、室内履きで外に出るな」
「すぐそこだから汚れないっすよ」

いや、そういう問題じゃない。
ルールがなんのためにあるかも理解せず、これくらいならと自分勝手に緩めてしまうことが問題であって・・・若松に言っても無駄か。
学年も違うし教科担任でもない若松とは、この渡り廊下の待ち伏せしか接点はないが頭より先に体が動くくらいのことは分かっていた。
窓から覗いているバレー部員に、左手でさっさと通るように合図を送る。

なんだかよくわからないが渡り廊下の通行は確保出来た。
あとは、若松の話とやらを聞いてさっさと戻ろう。
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