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偽善者と三つの旅路 十五月目

偽善者と帝国散策 その03

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 残された俺は一人、彼女たちのこれからについて思う。

 とりあえずリーンに送り、同時に添付しておいた資料に沿って新人を迎えてもらうように教えてある。
 だいたいの奴が『こんな生活とはおさらばしたい』という願望だったので、叶えるのは割と簡単だ。

 犯罪者や戦いを望む者は、ラントスに送りだした。
 迷宮拡張や単純に戦力確保など、それなりにやることは多い。


「問題は、それ以外だったな」


 たとえば最後に話したハーフの少女。
 そんな彼女が望んだのは、俺の奴隷として仕えること……本心では無かったので、とりあえず半分だけ叶えるよう、資料に何をやらせるかを記しておいた。

 他にも自由になりたいとか死にたくないなど、分かりやすい願いが無い者たちの扱いがとても面倒だったと言えよう。
 年齢ごとに施設に送り、同年代の者たちと共に過ごす中でそうした夢の一つや二つ、見つけてもらいたいものだ。


 閑話休題てんいんをもどす


「迷惑をかけたようだな。だが、約束の分の後払いだ──受け取れ」

「いえいえ、この程度のことであればお安いご用です。これからも、スイーブニル奴隷商会をご贔屓に」

「ふんっ、それはお前たち次第だな」


 無駄に偉そうな態度を貫いて、どうにか奴隷店を出ることができた。
 やりきったことで脱力し、ホッと息を吐くが咎める者はいない。


「さて、改めて観光に明け暮れよう」


 バカな観光客を演じればいい。
 というか、それ自体は素でもできる。

 現状では変身魔法を使えないが、認識を変えておくことで素の顔で出ても覚えられずに街を彷徨うことができる。
 また、それを見抜くスキルを持つ者がいるならスカウトをする予定だ……まあ、スキルじゃなくても見抜ける人には見抜けるけど。


「何かいい場所は……ん? イイ香りだ」


 同じように釣られる者たちを追いかけていくと、そこにはプレイヤーが経営する屋台が設営されていた。
 なぜそれが分かるかというと、堂々と看板に『焼きそば』と書いてあるからだ。


「さぁさぁ、一つ300Yの焼きそば! 数には限りがあるから、さっさと買った方がいいぜ! 一週間に一回だけ、絶品が食べられうのは今しかねぇ!」


 水着イベントで焼きそば販売をしたのは、すでにプレイヤーたちが素材を集められる範囲内に材料が揃っていたからだ。

 彼はそれらを集めて、見事焼きそばの開発に成功したのだろう。
 ソースが漂わせる香りに釣られ、客たちは真っ直ぐに列を形成する。


「……まあ、並ぶのが日本人か」


 一日目では無いのだろう。
 何かをおそれるように、列を崩そうとする者が居れば周りの者が注意していた。
 ……ここまで調教されているのなら、揉め事が起きる可能性も低かろう。

 などと考えていると、どうにか在庫がある状態で俺の番まで列が進んでいた。


「おっ、お兄さんもプレイヤーか? なら、少しサービスしておかねぇとな」

「なら、卵で付けてくれ。あと、紅生姜をマシマシで」

「あー……すまねぇ、卵はまだ合うのが見つかってねぇんだ。卵自体はあるが、さすがに日本人を唸らせる一品は……」

「そりゃあ悪いことを言った。……そうだ、ならコイツをくれてやる」


 そう言って[インベントリ]を操作し、ある物を焼きそばを作る青年に渡す。
 訝しげに鑑定スキルを使ったようだが、その結果に彼は目を引ん剥くことになる。


「お、おい、これって……!」

「話はあとあと。それより、これを一個使って頼む。あとが詰まってるからな」

「あ、ああ……分かった。オムか?」

「いや、乗せで頼む」


 鉄板の縁で卵を割ると、一人前の焼きそばの上に中身が着地する。
 生卵がタレになって、なかなか乙な味がするんだが……この世界だと衛生面がな。

 だからこそ、青年はこれができなかった。
 だからこそ、青年はこれに目を付けた。

 ──衛生管理はどの世界でも必須である。

  ◆   □   ◆   □   ◆


「おい、なんで待ってくれなかったんだ!」

「いやいや、大人気でよかったな。追加で分けておいて正解だった」

「……いや、まあそうなんだけどさ」


 一つ見せたら、同じような品を求めるのが人間というものだ。
 わざとらしく美味しいとレビューする必要もなく、食べている様子を見せるだけで、焼きそばの屋台に向かっていった。

 そのため、卵を格安で売り捌き、少しばかりの恩を売ったのだ。


「その卵、どうやって手に入れたんだ? 俺は病原菌を見るスキルがあるんだが、その卵からはいっさいそれが見つからなかった」

「ああ、そういう物だからな」

「教えてくれ……どこで見つけられる」

「簡単な話だ。そういう場所があって、そこから取りに行った」


 嘘は言っていない。
 だからこそ、それを求めようとする。


「具体的に言ってくれよ。卵があれば、料理の可能性はもっと高みに行く! 生卵を、俺は欲しいんだ!」

「欲望にドストレートだな、お前。答えは簡単、そういう迷宮で見つけた。あるんだよ、卵がドロップする場所も」

「……聞いたことねぇよ、そんな場所」

「おいおい、ここはそういう場所だろ。なんでもなんだから、それこそそんな迷宮だって存在するだろ」


 もちろん、普通はそんな場所存在しない。
 だが、普通でないからこそ存在するのだ。


「──迷宮都市って、知ってるか?」


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