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偽善者と攻城戦イベント 二十三月目
偽善者と攻城戦後篇 その13
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連続更新となります(07/12)
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ティルの剣技に理屈は要らない。
本人の才覚は剣を持つだけで万能性を得るうえ、使い方を自然と理解できる。
そんな俺が握り締める[リュウゴロシ]。
異端の竜族である劉にして、竜たちの帝王に君臨したシュリュの体組織を用いて打ち上げられたその剣は、竜に絶対的優位を持つ。
俺と相対するのは千の魔法陣を操る魔の蛇龍に邪龍『アジ・ダハーカ』ことハーク。
そしてその主、『導士』と呼ばれる特異な存在に目覚めた少女カナ。
その二人を超えるべく、一振りの剣ですべてを切り伏せようと迫る。
魔法も使えるがそれは最小限、とある目的以外では控えておく。
「疾ッ!」
『来るぞ、カナ』
「は、はい!」
そこからは無我夢中で進んでいくだけ。
俺が行うのは彼女たちが行う攻撃を、強化された感覚で認識することのみ。
あとは礼装に籠められたティルの魂魄が作用し、その手に握られた剣を振るって阻むものすべてを斬っていく。
時に宙を蹴り、時に強引に隙間を潜り抜けてと、行っていく内に道が生まれる。
体が破壊されるレベルで突進していると、ハークがこちらに声を掛けてきた。
『なるほど、元となった剣士に賞賛を送ろうではないか。千を超える魔法を超え、よくぞ今なお生きている』
「……まるで、俺はダメみたいだな」
『魂魄が結びついている以上、術式の無効化は不可能だろう。しかし、その力を一時的に無効化することはできる──このようにな』
「──ッ!?」
ハークが数十もの魔法陣を束ねた、巨大な魔法陣をこの場に構築する。
いったい何をしたのかと思えば……礼装の恩恵を、俺から引き剥がしたのだ。
礼装に、ティルの力が宿っていることに変わりはない。
俺がその力を引き出せないように、ハークは即興で魔法陣を生み出したのだ。
ハークは知らないだろうが、時間経過でそれは無効化することもできるだろう。
だが、それより何より少しだけ憤りを覚えた──瞳を赤く輝かせ、俺は動き出す。
「! ハーク、避けて!」
「遅い──“瞬脚”」
『ぬっ』
「リュキア流獣剣術──『破牙』!」
俺にできる全力、それをハークに放つ。
一度も見せていなかった空間を超える移動術、そして彼女が教えてくれた剣技。
防御無視の貫通攻撃を可能とする、鋭い一撃を三本ある首の一本へと打ち込んだ。
上下から挟み込むように、肉体の限界を超えて動かした剣が軌跡を描く。
本来であれば、獣人の身体能力があるからこそできること。
高をくくったハークに送る、俺から送る最大限の苦痛だ。
一度目の牙がすべての防御を削り取り、二度目の牙を以って斬撃を噛み千切る。
……これでも初歩のレベルだというのだから、リュキア流は奥が深い。
「は、ハーク!」
『……むぅ、この首はもう限界だな。カナ、しばらくは休養が必要だ』
「うん、分かった……ゆっくり休んでね」
『ああ。さて、客人……貴様は厄介なモノを起こした。後悔だけはするなよ』
斬った首の人格が、ちょうどこれまで話していた人格だったようだ。
俺が与えたダメージによって、眠ることを強要された人格は活動を停止するらしい。
そして、残されたメッセージ……つまり、次はもっと大変なんだろう。
魔法陣は未だに機能しているので、恩恵にあやかることは不可能だな。
でも、縛りを切り替えるのは俺の自由。
礼装そのものに影響が無い以上、魂魄の変更だけは可能である。
「其は模倣の現身なり。習い、倣い、真似、写し、あらゆる才を嘲笑う。無きモノを強請り、在りしモノを欲する。模倣は紡がれ、新なる真を生み出す。神なる意思よ、我が意のままに技を模せ──“模倣魂魄”」
求め、告げるのは模倣の宝玉とその現身たる少女の力。
礼装のデザインは水晶を模し、透き通るような色合いになっていく。
武具っ娘の礼装であれば、装備としての能力も本来であれば使える……が、今はそれはできないので、別の用途で用いる。
「──“完全模倣”、“完全再現”」
先ほどハークは千の魔法陣を操っていた。
そのすべてを記憶しているので、すでに覚えている魔法陣と同じものがあればそれを投影するだけで発動可能だ。
ハークの第二、第三人格がどんなヤツか分からない以上、油断はできない。
というわけで先手必勝、できることをできる内にやっておく。
何度も言うが、ハークは知らないのだ。
礼装は方法の一つであって、スキルを使うだけであれば異なる方法を用いればよい。
お馴染みの[眷軍強化]によって、ギーの能力を借り受ければいいからな。
ギーの根幹とも呼べる二つのスキルを起動させ、そのうえで最適な魔法を選択する。
「──“奈落監獄”」
ティルの恩恵ですぐに斬り裂いた魔法なのだが、本来はそんなことほぼ不可能だった。
魔法陣として発動した途端、そこから禍々しい触手が飛び出してくる。
とはいっても、別にカナに絡みつくわけではない。
そのまま彼女とハークを覆うように鳥かごができて、檻として機能するだけだ。
「このまま終われば楽なんだが……無理なんだろう?」
強大な魔力反応が、ハークの中で渦巻いていることからもそれは理解できる。
したくはないんだが……ふむ、今の内に解除に注力しておくか。
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ティルの剣技に理屈は要らない。
本人の才覚は剣を持つだけで万能性を得るうえ、使い方を自然と理解できる。
そんな俺が握り締める[リュウゴロシ]。
異端の竜族である劉にして、竜たちの帝王に君臨したシュリュの体組織を用いて打ち上げられたその剣は、竜に絶対的優位を持つ。
俺と相対するのは千の魔法陣を操る魔の蛇龍に邪龍『アジ・ダハーカ』ことハーク。
そしてその主、『導士』と呼ばれる特異な存在に目覚めた少女カナ。
その二人を超えるべく、一振りの剣ですべてを切り伏せようと迫る。
魔法も使えるがそれは最小限、とある目的以外では控えておく。
「疾ッ!」
『来るぞ、カナ』
「は、はい!」
そこからは無我夢中で進んでいくだけ。
俺が行うのは彼女たちが行う攻撃を、強化された感覚で認識することのみ。
あとは礼装に籠められたティルの魂魄が作用し、その手に握られた剣を振るって阻むものすべてを斬っていく。
時に宙を蹴り、時に強引に隙間を潜り抜けてと、行っていく内に道が生まれる。
体が破壊されるレベルで突進していると、ハークがこちらに声を掛けてきた。
『なるほど、元となった剣士に賞賛を送ろうではないか。千を超える魔法を超え、よくぞ今なお生きている』
「……まるで、俺はダメみたいだな」
『魂魄が結びついている以上、術式の無効化は不可能だろう。しかし、その力を一時的に無効化することはできる──このようにな』
「──ッ!?」
ハークが数十もの魔法陣を束ねた、巨大な魔法陣をこの場に構築する。
いったい何をしたのかと思えば……礼装の恩恵を、俺から引き剥がしたのだ。
礼装に、ティルの力が宿っていることに変わりはない。
俺がその力を引き出せないように、ハークは即興で魔法陣を生み出したのだ。
ハークは知らないだろうが、時間経過でそれは無効化することもできるだろう。
だが、それより何より少しだけ憤りを覚えた──瞳を赤く輝かせ、俺は動き出す。
「! ハーク、避けて!」
「遅い──“瞬脚”」
『ぬっ』
「リュキア流獣剣術──『破牙』!」
俺にできる全力、それをハークに放つ。
一度も見せていなかった空間を超える移動術、そして彼女が教えてくれた剣技。
防御無視の貫通攻撃を可能とする、鋭い一撃を三本ある首の一本へと打ち込んだ。
上下から挟み込むように、肉体の限界を超えて動かした剣が軌跡を描く。
本来であれば、獣人の身体能力があるからこそできること。
高をくくったハークに送る、俺から送る最大限の苦痛だ。
一度目の牙がすべての防御を削り取り、二度目の牙を以って斬撃を噛み千切る。
……これでも初歩のレベルだというのだから、リュキア流は奥が深い。
「は、ハーク!」
『……むぅ、この首はもう限界だな。カナ、しばらくは休養が必要だ』
「うん、分かった……ゆっくり休んでね」
『ああ。さて、客人……貴様は厄介なモノを起こした。後悔だけはするなよ』
斬った首の人格が、ちょうどこれまで話していた人格だったようだ。
俺が与えたダメージによって、眠ることを強要された人格は活動を停止するらしい。
そして、残されたメッセージ……つまり、次はもっと大変なんだろう。
魔法陣は未だに機能しているので、恩恵にあやかることは不可能だな。
でも、縛りを切り替えるのは俺の自由。
礼装そのものに影響が無い以上、魂魄の変更だけは可能である。
「其は模倣の現身なり。習い、倣い、真似、写し、あらゆる才を嘲笑う。無きモノを強請り、在りしモノを欲する。模倣は紡がれ、新なる真を生み出す。神なる意思よ、我が意のままに技を模せ──“模倣魂魄”」
求め、告げるのは模倣の宝玉とその現身たる少女の力。
礼装のデザインは水晶を模し、透き通るような色合いになっていく。
武具っ娘の礼装であれば、装備としての能力も本来であれば使える……が、今はそれはできないので、別の用途で用いる。
「──“完全模倣”、“完全再現”」
先ほどハークは千の魔法陣を操っていた。
そのすべてを記憶しているので、すでに覚えている魔法陣と同じものがあればそれを投影するだけで発動可能だ。
ハークの第二、第三人格がどんなヤツか分からない以上、油断はできない。
というわけで先手必勝、できることをできる内にやっておく。
何度も言うが、ハークは知らないのだ。
礼装は方法の一つであって、スキルを使うだけであれば異なる方法を用いればよい。
お馴染みの[眷軍強化]によって、ギーの能力を借り受ければいいからな。
ギーの根幹とも呼べる二つのスキルを起動させ、そのうえで最適な魔法を選択する。
「──“奈落監獄”」
ティルの恩恵ですぐに斬り裂いた魔法なのだが、本来はそんなことほぼ不可能だった。
魔法陣として発動した途端、そこから禍々しい触手が飛び出してくる。
とはいっても、別にカナに絡みつくわけではない。
そのまま彼女とハークを覆うように鳥かごができて、檻として機能するだけだ。
「このまま終われば楽なんだが……無理なんだろう?」
強大な魔力反応が、ハークの中で渦巻いていることからもそれは理解できる。
したくはないんだが……ふむ、今の内に解除に注力しておくか。
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