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偽善者とお祭り騒ぎ 二十六月目

偽善者と夢現祭り二日目 その20

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 互いに剣と刀をぶつけ合う。
 上空では空を飛ぶサメとそれを模った闇が衝突しあい、互いを喰らい合っている。

 心の闇を具現化する【心象闇具】。
 本来はこれで相手の弱点を突き、蹂躙するのが彼──フォンセ君の戦闘スタイルだ。


「──“黒牙ブラックファング”!」

「──“閃光フラッシュ”」

「──“消明ライトアウト”!」

「──“照明ライトオン”」


 ともにスタイルは魔法戦士。
 武器と魔法を巧みに使い、隙が生まれるその瞬間を待つ。

 ちなみに俺は刀と魔法は別で使い、フォンセ君は剣を通して魔法を使っている。
 かなり魔力伝導率が高いようで、俺の魔法が相手でもちゃんとやり合えていた。


「なぜだ……貴様には違和感が多い」

「それが分からないようでは、この先には進めない。火の『勇者』、それに土の『賢者』はすでに目覚めたぞ」

「……赤い方の『勇者』が言っていた、謎の鮫使いとは貴様のことだったか。まさかとは思っていたが……なるほど、合点がいく」

「ふむ、喋ったか。まあいい、やることに変わりはない。朝を迎えるまで、ここから出すわけにはいかないからな」


 フォンセ君のやり方では、悪が上手く栄えてはくれない。
 彼の持つ二つ名『闇寧魔王』の名の通り、意外といい人すぎるからだ。

 実際野放しにしていたら、三日目に起きるはずだった事件がいくつか消えていた。
 強者が力の責務を果たしたいのだろうが、イベントの管理は俺がするのである。

 フォンセ君が武技と魔法を交える中、俺は一度として武技や妖刀の能力を使わない。
 時間だけがただ過ぎていくが、それは余裕の表れといっても過言ではないな。

 いつでも終わらせることができる、そう暗喩していた。
 それをフォンセ君も分かっているようで、若干苛立った様子が見て取れる。


「君は真の意味で闇を理解していない。闇が恐怖だけではない、安寧をもたらすことを理解しているようだが……それでは足りない」

「何が良いたい」

「闇とは悪の象徴であり、すべてを断ち切る存在。時間的、空間的な飛躍などはすべて闇の介入によって行われる」


 視界が暗くなるとか悪巧みとか、そういう
レベルの話ではない。
 神話において闇はつねに敗北者、しかし必ず何かを成し得ている。

 闇があるからこそ光があり、光をより強めるモノこそが闇。
 闇が存在するからこそ時空は流れ、人々が心に秘めるのはいつだって闇だ。


「つまり、闇とは包む存在モノだ。すべての未知は闇が有し、光が求めるそのときまで守り続ける概念モノ。【心象闇具】はその補助。君が闇の理解を深めるため、闇が持つ意味を知るための手段モノなのだ」


 ──とまあ、適当に言ってみた。

 眷属なら分かるかもしれないが、俺が自分の知識で分かることなど限られている。
 そりゃあもう[世界書館]を全力で回して考えてみたが……この程度しか浮かばない。


「さて、もういいか。そろそろ始めるとしよう──“光迅脚”」

「なっ、その技は!」

「【勇者】の技だ、とでも言いたげだな。安心しろ、あくまで模倣でしかない」


 かつてシャインから模倣した【勇者】の技だが、光速で動けるのは便利だ。
 瞬時に移動して刀を振るうと、鮫の歯を模した刀身で体を突き刺す。

 能力を使ったのだ、他のモノもいっしょに使い始める。
 油断を突いたのだ、この間にやっておかないといけないことを済まさねば。


「ぐっ……!」

「どんどん行くぞ──“深塵斬チョップスライスシン”!」

「離せ──“遮断強化ペインオフ”!」


 食い込めば食い込むほど威力が増す、本来は高速斬撃用の武技を使う。
 侵の影響で黒い力が体を蝕み、その力を奪い去る──レベルドレインの発動だ。

 フォンセ君は痛覚を消し去ることで、強引に刀を引き抜いた。
 それでも経験値は喰われ、レベルは下がっていないモノのレベルアップは遠くなる。


「『勇者』、『賢者』……そして『魔王』。多くの『選ばれし者』を糧としてきたこの妖刀も、いずれは新たな高みへ至るだろう」

「……それが、貴様の目的か」

「もうすぐ夜が明ける。善人共は、ただの善意が悪意を生むことを知った。悪人共は、この地で悪事を働く意味を学んだ。夜の闇は未知を守り、朝の光がそれを見つけ出す」


 これまでとは違うアプローチで、妖刀を面白くできないかと考えていた。
 だいぶ前に会った復讐者も、今頃元気にいしてるだろうか……。

 強化方法として、いろんな奴からその者の経験そのものであるリソースを奪うことで何か起きないかと実験中だ。

 実は妖刀もだいぶグルメになっていて、より強い奴の経験値を欲している。
 それも一種の自我の芽生えだな……とほっこりして、いつも喰わせてやっているぞ。

 ──なんて言っている間に、間もなく夜明けとなっていた。

 そろそろ終わりにしあが、普通の手段では倒すことなどできない。
 今はちょうど光迅術を使い始めていたし、それを使えばいいだろう。


「──“光迅域”、“光迅証”」

「ならば、俺も──」

「──“聖迅域”、“聖迅証”」

「……なんだそれは。あの女は、そのようなもの使わなかったぞ!」


 あの女、というのは光の『選ばれし者』。
 正確には二代目だが……いずれは相対し、この妖刀に喰わせてやる予定だ。

 禍々しい妖刀を光の剣と化し、鞘に納めて居合の構えを取る。
 フォンセ君も剣に【心象闇具】を付与し、溜めの要る武技を発動しようとしていた。


「──終わりだ。“光迅剣”、“聖迅剣”、“居合イアイシン”!」

「──“開闢加斬ビギンスラッシュ”!」


 激しい衝突によって、周囲を激しい閃光が包み込む。
 その結果がどうなったのかは……俺たちしか知らないことだ。


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