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偽善者と開かれる新世界 九月目

偽善者と孤児院 後篇

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「みんな、アレを見て!」


 俺が指差す先には、二本の線が画面いっぱいに表示されている。
 俺とクソガキが触った二つの玉と同じ色をしており、そこにはHPと書かれているぞ。


「ここで闘う人には、仮初の命が用意されるよ。あの線が対戦者のその命を示していて、アレが無くなるとここから退場になる。さっきの武器で相手に攻撃を当てれば線は減っていくよ。直接的な魔法は相手には効かないから、工夫を凝らして闘ってね」


 そう説明をしてから、クソガキに向けて武器を構える。
 見た感じルールを聞いて考えているようだから、ただ無鉄砲に暴れるだけのクソガキではなさそうだな。
 それならもう救いようも無いし、偽善を施す気も完全に失せてた……良かったな、マシな性格で。


「私が勝ったら、君には一つ約束をしてもらうよ。その内容は――」

『そんなもん聞かなくても受けてやるよ。俺がチビになんか負けるワケがねぇ!』


 ……フラグだな。
 クソガキは俺の言葉を遮って、王道ともいえる西洋剣を出現させる。
 そして、俺に吶喊しながら向かって来る。


「みんなー。この武器には、ほぼ全ての武器に関するスキルが登録されているよ。だからこれを使うと、持っていないスキルの武器でも少しだけ使い易いのー」

『こ、の、クソッ! 当たれよ!!』

「それだけじゃなくて、そうやってスキルを使っている体が思い込んで、その武器のスキルを習得し易くなったり、成長し易くなるんだよ。だから、色んな武器を試してみてね」

『さっさ、と、負けろ、よ!』


 クソガキの攻撃をスイスイと避け、ガキ共に必要なことを伝えていく。
 あくまで武器に付与できたのはLv1だからな――【武芸百般】の。
 量産型に組み込むのはかなり苦労したのだが、生徒達にあらゆる武器を使えるように教え込もうとした際に必要となったので、試行錯誤と相談を繰り返して作り上げた、最高の量産品だ。


閑話休題富国強民だな


 クソガキには剣技の才能があるんだよな。
 (鑑定眼)で覗いて視ると、現在進行形で(剣術)のLvがガンガン上昇している。

 こういう奴ってのは、大体調子に乗って主人公キャラに負けるんだよなー。
 最初の方であまり努力せずに手に入れた才能に現を抜かし、それ以上の強さを持つソイツに敗北。
 裏で薬や魔法をキメて強くなろうとするけど、結局は死亡……カァ、実に虚しい未来だよな。

 (未来眼)を使って視たワケでは無いが、少年から【傲慢】さが感じ取れる気がする。
 ……早めに心を折っておかないとそうなるのか?
 いやでも、孤児院のリーダーってのは実は意外と良い奴ってパターンもあるしなー。
 うーん、どうしよっかー。


「みんなー、武器は色々な物を使えた方が良いんだよー。例えば……」


 クソガキに合わせて俺も剣を持っていたのだが、一旦解除して再び武器を投影する。

 そして、その武器を用いてクソガキの剣を受けて話を続ける。


「盾があれば、攻撃を防ぎ易いよ。点でしか受けられない武器防御よりも、面で受けられる方が最初は安心だからね。盾の技術も他の武器で使えるし、他にも色んな武器があるから説明していくよー」

『……クッ』

「全部終わるまで、君は一方的に私に叩きのめされるよ。……それまで耐えてみてね」

『クソー!!』


 さて、楽しい楽しい説明会だよ♪


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 依頼終了の時間がやって来た。
 俺とクラーレは報酬を受け取るため、子供の居ない離れた場所にいる。


『はい、依頼完了です。お二人共、お疲れ様でした』

『いえ、わたしは大人しい子たちと一緒でしたので……メルちゃん、どうでした?』

「うん、楽しかったよ。みんな最後は一緒に遊んでいたしね」

『そうですか』


 依頼人のシスター風の女性には幻覚を見せていたので、俺が何をやっていたかは分からないだろう。
 少年少女には、今回の依頼の時間で俺への恩を売り付けまくったので、将来がどうなるか楽しみだ。

 そうこう会話をしていると、クソガキ――いや、ファイが俺たちの元に来て彼女に声を掛ける。


『み、ミーラ……姉』

『どうしたのファイ……って、え? ファイ……今、ちゃんと――』

『今まで、ミーラ姉のことを呼び捨てにしてて……ゴメンなさい』


 真心込めた一礼を、ファイは彼女に示す。
 そんな様子を目をパチパチさせながら、彼女はジーッと見つめている。
 そして、自分の額をファイの額へとくっ付け――。


『熱は……無いみたいね。でもファイ、どうしたの急に?』

『な、何でもねぇよ!!』

『あ、こらっ!』


 ファイの懸命な言葉は、あんまり伝わっていないようだな。
 それにショックを受けたのか、ファイはそのままこの場から逃げ去って行った。
 ……まぁ、伝わったんじゃないか?


『ファイったら……メルちゃん、貴女が何かしたの?』

「うーん、自分に正直になるように教えてあげただけだよ。詳しいことは本人から聞いてあげてね。ただ、ファイは素直じゃないだけみたい」

『そうですか……分かりました。ファイも、少しずつ大人になっていくのね』

『子供の成長は、早いですから』


 まぁ、こんなことを話していたしな。
 こうして俺とクラーレが受けた依頼は、無事完了となった。


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