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第20話 狂いだした歯車

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 ルーシャスを追いだし、リゲルが去った後の【星鯨】にはある変化が訪れていた。
 それは――報酬額の減少。
 多くの実力ある冒険者を抱えていた【星鯨】は安定してクエストをこなしていける戦力を有していた――が、ここ最近の活動に関しては精彩を欠いている。

 原因は若手の伸び悩み。
 かつて、ルーシャスが冒険者としてのイロハを教え込んでいた者たちだが、彼らはまだまだ経験不足と言わざるを得ない。ルーシャスとしても、じっくりと育てていこうとさまざまな段取りを考えていたさなかの追放であった。

 そのため、いきなり実戦に放り込まれた若い冒険者たちは慣れないダンジョンに困惑し、本来の力を発揮できずにパーティーの足を引っ張る事態となっていた。
 これに激高したブリングは次々にしくじった若い冒険者たちを追いだし、代わりの者を集めて再度挑戦させる。最近はこれの繰り返しとなっていた。

【星鯨】という超一流のパーティーに入る――並みの冒険者にとっては、それだけでとんでもないステータスを得たも同然であった。
 なので、人材不足に悩む必要はないのだが、問題はその「質」であった。
 当初は楽観視していたリーダーのブリングも、ここ最近の不振に頭を悩ませていた。

「ちっ……使えねぇ連中ばかりだな」

 宿屋の一室で、バランカたちから今日の戦果報告を聞いたブリングはそう吐き捨てるとグラスに注がれた酒を一気に飲み干す。

「【星鯨】の名前が欲しいだけのろくでなしばかりだな。中には使えそうなのもいるが」
「ホントやんなっちゃうわよねぇ」
「ねぇ、ブリング……そろそろメンバーの選別をした方がいいのではなくて?」
「ふむ」

 ネビスの言葉に、ブリングは頷いた。
 前々から所属する冒険者の質が低下していると感じていたこともあり、その案に賛成したのだ。
 バランカとアリーも同意見だったらしく、近いうちにメンバーの戦闘データを収集して優秀な者たちだけで再編制する運びとなった。

 また、この話し合いの席ではパーティー内に広まる噂も話題にあがった。
 それは――ルーシャスのその後についてだった。

「そういえば、ある冒険者からの情報だが……ルーシャスはカルドア王国にいるらしい」
「カルドア? ってか、別にあいつの情報なんかいらねぇよ」
「だが、リゲルがルーシャスを追ってカルドア入りをしていると聞いたら……どうだ?」
「何?」

 ブリングの顔つきが変わる。
 リゲルは【星鯨】の中でも特に将来有望な若手冒険者であった。類稀な戦闘センスだけでなく、頭も切れる。多少、常識に欠ける面も見られるが、それはじっくり教え込めば十分カバーできる範囲であった。

 だからこそ、ブリングはリゲルを特別扱いしようと考えていた――が、育成担当のルーシャスはそれに待ったをかける。豊かな才能があるからこそ、基礎基本をみっちりと教え込み、育成スキルでより力を伸ばしていきたいと告げた。

 最初はこの要求を突っぱねるつもりでいたブリングであったが、リゲル自身が「もっと師匠のもとで学びたい」と付け加えたことで、渋々ながらも了承。
 正直、ルーシャスを師匠と呼ぶのに嫌悪感があったが、下手に注意をしてパーティーを辞められては損失になると考え、放置していた。

 ――が、最終的には我慢できず、あとになってリゲルも追いだしたのである。
 
 その場の感情でしか動けないブリングの性格を考慮すると、このようなマネに出るのは当然の流れと言えた。
 しかし、今ではその行為がパーティーを苦しめる結果となっている。

「あの野郎……リゲルをそそのかしてパーティーでも組む気か?」
「だが、所詮ヤツ自身に戦闘力は皆無。いずれ愛想をつかされるだろうよ」
「だったら、リゲルが戻ってくる可能性もあるんじゃない?」
「もしそうなったら、どうするんですの?」
「けっ! この俺に逆らって出ていった者なんか知るかよ」

 すでにブリングの関心はリゲルになかった。
 それよりも自身の利益を優先させるため、彼はある提案を幹部三人に持ちかける。

「メンバーの選別が終わったら……ここらでひとつ派手なことをやりたいと思う」
「派手なことって?」

 アリーの質問に、ブリングは勿体つけたように少し間をあけてから語る。

「ギルドにある最高難度のクエストへ挑む」
「ま、まさか……地底竜討伐か?」
「その通りだ。こいつをやり遂げれば、俺たち【星鯨】の名は大陸を越えて世界中に轟くはずだぜ」
 
 ブリングの言う通り、地底竜討伐のクエストはこれまで何人もの冒険者が挑み、達成することなく散っていった。命からがら逃げだしてきた者もいないわけではないが、その大半が再起不能に追い込まれている。

 だからこそ、もし達成できたら【星鯨】の地位は揺るぎないものとなるだろう。

「うまくいけば、王家から直々に依頼が来るかもしれねぇぞ」
「いいわね、それ!」
「まあ、使える使えないはともかくとして、駒はいるんだ。数で押しきれば問題ないだろう」
「そうと決まれば、選別は早めにしておくべきですわね」

 すでに討伐した気でいる四人は気づいていない。
 地底竜の恐ろしさと、その先に待っている絶望を。
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