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第53話 特訓開始

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 この日から、一年生の職員たちより許可を得てニコールの特訓を開始することとなった。

「よ、よろしくお願いします」
「そんなに緊張しなくていいよ」

 俺との会話を経て、ニコールにも変化が訪れていた。
 それまで自暴自棄のような奔放すぎる態度であったが、アーサー先生から俺のもとへ来るように伝えられてからは表情が引き締まり、瞳にも光が戻っているように映る。

 やはり、あのまま終わりたくはないという考えがあったようだ。
 そんな彼女の決意に応えるべく、俺は育成スキルを発動させて彼女の騎士としての資質をチェックし、可能性を模索する。

「ふーむ……」
「あの、どうですか?」

 心配そうに尋ねてくるニコール。
 彼女にしてみたら、ここが最後の砦だからな。
 なんとしても、その願いを叶えてやりたい。
 ――で、チェックの結果だが、

「結論から言うと、君には騎士としての資質が……ありすぎる」
「へっ?」
「めちゃくちゃ騎士に向いているよ」
「で、でも、私は剣術の腕が特別良いわけじゃ……」
「それはこれから次第さ。とりあえず……そうだな。あの木を剣で斬ってみようか」
「あ、あんな大きな木を!?」
 
 ニコールは動揺しているものの、今の彼女の力であれば造作もないことのはず。
 ここが、ニコールにとってネックとなっている要素のひとつ――自己評価が極めて低いのである。
 本来の力を出し切れていないのも、心のどこかで自信のなさが悪影響を及ぼしている可能性が高い。それこそ、風魔法にこだわるあまり、苦労を重ねていたフィナと重なる部分が多かった。
 
 彼女もまた、心の鎖に苦しめられている。
 そう感じた俺はフィナへしたように、その邪魔な鎖を断ち切ろうとした。

「実践する前に――ちょっとこっちへ来てくれ」
「は、はい」

 育成スキルを発動させたまま、剣を握るニコールに触れる――と、やはり彼女を縛りつけている鎖が姿を現した。

 ……フィナの物より大きいな。
 学園に入るために努力を積み重ねている彼女ならば、もっと高みを目指せる。それを実現させるためにも、この鎖は断ち切らなければならない。

 続いてもフィナと同じように、ニコールの体を縛りつける鎖を育成スキルの力でぶった切った。

「あっ――えっ?」

 何をされたかまでは理解していないようだが、何かをされたというのはハッキリと認識できたらしく、ビックリして剣を落としていた。自分の体を見回して変化がないか確認をしているが、肉眼で分かるような部分はないと告げて、落とした剣を拾って手渡す。

 直後、彼女の心境に大きな変化が。

「す、凄い……なんだか自信が……やれるかもっていう強い気持ちが芽生えてきている……」

 効果抜群。
 岸としての資質が、真の意味で花開こうとしている。

「……やってみます」

 剣を受け取ったニコールは、静かに微笑みながら構える。
 力みのない、理想的な美しいフォーム。
 これは……期待以上の成果が望めそうだ。
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