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第79話 山の朝

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 綺麗な星空を見上げながら、そのままテントで眠る。
 これが仕事じゃなければ文句ないのだが、そうも言っていられない。今回の魔鉱山に関する調査の結果次第でアボット地方は大きな変革を遂げることになるのだから。


  ◇◇◇


 夜が明け、朝がやってきた。 
 ゆっくりとテントから出てみると、辺りは朝霧で覆われていた。

「視界が狭いな……」

 ここから標高の高い位置へと移動するため、あちこちに崖が点在している。霧に惑わされて足元がおろそかになると真っ逆さまに転落してしまう恐れもあった。
 とはいえ、時間が経てば少しは晴れてくるだろう。
 ここは少し待つとするか。

 ちなみに、騎士団側を束ねているのはゲイリーらしかった。近々ハンクの抜けた席を埋めるために新たな聖騎士を決める武闘大会が開かれるようで、彼はそれに出場予定だというが……まあ、実績は十分だし、問題なくやれたら突破できるだろう。問題は同じく出場する意向を固めているミラッカとの対決だけだな。
 
 そんなゲイリーもまたこの朝霧を警戒していた。
 中には霧に乗じて悪事を働く魔女もいるようだが、今回は魔力を一切感じないのでただの自然現象だろう。話し合った結果、出発を少し遅らせることにした。

「思わぬ足止めを食らいましたね」
「ああ……だが、ここから先は慎重にいかなくちゃいけないからな」
「ですね」

 ここから先には長年にわたって放置された村がある。魔鉱石の採掘現場で働く鉱夫やその家族が暮らしていたところで、閉山されてからは誰ひとりとして近づいていてないという。

 だからこそ、怪しい連中のねぐらになっている可能性もあった。
 仮に魔鉱石がなかったとしても、変な輩が住み着いていないか確認するだけでもここまで来た価値はあるって思えるな。

 俺とエリナはリンデル、レオン、バルクたちを連れていつでも出発できるよう準備を整えていく。その際、ふと霧の向こうをジッと見つめるアミーラの姿が視界に飛び込んできた。

「何かあったのか、アミーラ」

 声をかけると、彼女はビックリしたようにちょっとだけ後ずさりをしてから話し始める。

「い、いえ、その……不思議な魔力を感じたので」
「不思議な魔力?」

 そういえば、アスレティカも似たようなことを言っていたな。
 一流の魔法使いに長く生きた老竜……どちらが口にしても妙な説得力があるな。

 だが、アミーラの方は正体がイマイチ掴みきれていないようで複雑な表情を浮かべていた。
 果たして、彼女は朝霧の向こうに何を感じたというのか……
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