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第百十話 オレの目標

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「よっしゃー!」

 Bランクダンジョンの十階層のボス部屋で、オレは思わず叫んでいた。

 今日はパーティ活動が休みで、《桜花の誓い》が岡山へと帰るのを見送った後は一日中寝ようと思っていたぜ。実際に寝ているところに、詩音から神戸のBランクダンジョンにリーダーと一緒に探索に行かないかと誘いが来た。もう一気に眠気が吹っ飛んだぞ。初めてのBランクダンジョンの探索に胸が躍る。急いで準備を整えたぜ。

 オレはBランク探索者にはなったが、一度もBランクダンジョンに入ったことはない。Aランク探索者のリーダーは勿論Bランクダンジョンを完全攻略している。美姫と詩音の二人のパーティメンバーも同じBランク探索者だが、福岡のBランクダンジョンを探索した経験談を何度か聞いている。オレだけが経験していない。パーティメンバーの三人に対して、ずっと劣等感を感じていた。オレはBランクダンジョンで通用するんだろうかとずっと思っていた。

 はっきり言えば、ここのボス部屋攻略はリーダーと正輝さんという二人のアタッカーのお陰だ。だがボス部屋に着くまでは、詩音と二人で結構な数の魔物との戦闘も任され討伐を重ねた。オレはBランクダンジョンでもやっていけるという気持ちが叫びを誘発したんだと思うぜ。

 オレは十五歳の誕生日に【堅牢堅固】というユニークギフトを貰った。ダンジョン高校への進学を望んだが、家の事情で行くことが出来なかった。うちにはそんな余裕なんてなかったんだ。しょうがないと諦めた。でも、二年後には香川県にも県立のダンジョン高校が出来やがった。そりゃあ恨んだぜ。何でもっと早く作ってくれなかったんだよってな。

 オレのユニークギフトはどう考えても護る為のものだ。高校へ入学してからは柔道部と陸上部を掛け持ちして体力の向上を目指したぜ。一応ダンジョンに興味がある奴が居るか確認したが、真面目に考えている奴は居なかった。まあ当たり前だな。

 体力向上と同時にバイトも始めた。コンビニのバイトだったが、卒業後には絶対にダンジョンに入ると決めていた。ダンジョン探索には滅茶苦茶初期費用がかかるらしい、そのための資金稼ぎだ。結局は全然足りなかったけどな。

 高校三年生の時にも進路で悩んだ。オレは広島の国立ダンジョン専門学校に行きたいと希望を伝えたが、ヤッパリ経済的に厳しかった。母親にゴメンねと言われると自分の我を通すのは無理だったぜ。地元の大学に進学しろと父親が進めてきた。自宅から通える大学なら大丈夫だスマンなと父親にも言われてしまった。

 結局地元の大学に進学させてもらった。でも、入学してすぐにダンジョン探索サークルに入ったぜ。最初は探索者試験に受かる為のダンジョン法の勉強に苦労したが、ちゃんと一発合格したぜ。伊達に大学に進学していないぞ。オレは本当はバカではないからな。

 三年間待ち続けたダンジョンに入るときには嬉しさが込み上げてきたぜ。今思えばただのFランクダンジョンだ、何であんなにも緊張したんだと思うぞ。両親が折角進学させてくれたんだ、ちゃんと大学の授業には出た。そして時間があればダンジョンの探索に出かけた。
 
 ランクが上がる毎に魔物は強くなるが、オレはユニークギフト所持者だ、後には通さない。アタッカーが魔物を倒すまでは絶対に通さない。それがオレのプライドだった。

 Cランクまでは順調に昇格できたが、Cランクダンジョンの探索は厳しかった。あまりサークル仲間がCランクダンジョンに一緒に行ってくれないんだ。確かに命のかかるダンジョン探索だからしょうがないのかもしれないが、もどかしかったぜ。オレはタンク、一人ではダンジョンを探索できない。ほとんどの探索は、かなり遠いがDランクの観音寺ダンジョンか、船に乗らないといけないが割と近くにあるEランクの鬼が島ダンジョンになった。一番近くにあるCランクの高松ダンジョンに行けないなんて変な話だよな。

 転機は四年生の夏休み、Eランクの鬼が島ダンジョンを探索していると高ランク探索者しか着ていないようなバトルスーツが目に付いた。最初は線が細いしパーティメンバーは可愛い女の子ばっかり、絶対に女性だと思ったぞ。一人だけガチバトルスーツで浮いている。どんな関係なのか気になって声をかけた。第一印象が大事なのは分かっているから言葉使いには気をつけたぜ。

 なんとAランカーの男性で、ソロで探索しているらしい。胸が高鳴った。本物のAランカーだぞ、こんなチャンスは滅多にあるわけがない。オレは出来るだけ丁寧にパーティに入れてくれと頼んだ。それが効を奏したのかテストしてくれることになった。もうその日は寝ることが出来ないぐらい興奮したぜ。

 運命の金曜日、美姫の言葉にカチンときたぜ。今から思うとあれは絶対にわざとだったよな。その時は本当に頭に血が上った。ユニークギフト所持者はオレのプライドの根幹だ。これだけは絶対に譲れない。そんな気持ちが先行してしまったぜ。

 でも、あの十階層のリーダーと美姫の攻撃には鳥肌が立った。圧倒的な攻撃力。こんなの目の前でやられたら完敗だ。絶対にこのパーティに入れて欲しくなった。今までのオレがしてきたダンジョン探索は何だったんだ。

 仮だけどパーティメンバーにしてもらえた。そしてあの変な配分も納得した。リーダーのお陰でドロップアイテムや宝箱が凄くなっているんだろ。オレは今までCランクダンジョンには数回しか入っていないが、銅の宝箱なんて初めて目にした。スキルオーブなんてお目にかかれるとは思ってなかったぜ。

 その後に、橘家で美姫のダンジョンカードを見たときにはたまげたぞ。まさかユニークギフト所持者に会うとは思っていなかったぜ。美姫は怖いぞ。絶対に怒らせないしようと思ったぜ。オレが如何に愚かなのかをコンコンと言ってくるんだぜ、一種の洗脳なのかとおもったぞ。
 
 リーダーのダンジョンカードを見せてもらった時は本当に嬉しかったぜ。少しは認めてくれたのかと思えた。そして、またユニークギフト所持者だ。オレは本当にバカだったな。ユニークギフト所持者が高校生の頃から一生懸命努力をしているんだ。だからこそのあの攻撃力、納得したぞ。

 更に詩音の登場だ。またまたのユニークギフト所持者。オレはユニークギフトさえ持っていればとどこかで慢心していた。それが五人パーティの四人がユニークギフト所持者っておかしいぞ。類は共を呼ぶとはいうが、絶対にリーダーのスキルが関係しているんじゃないかとオレは思うぜ。

 同じユニークギフト所持者でも、オレだけがダンジョン高校に行っていない。詩音がパーティに入った頃から、無性に劣等感が襲ってきた。オレは本当にやって行けるんだろうか?そんなことを考えてしまう。

 岡山ダンジョンを完全攻略したときにもある程度の自信にはなったんだ。よし、これでオレもBランク探索者だと誇らしく思った。その後のゴブリンキング戦が全くダメだった。一撃で記憶がなくなった。オレが皆を護らないといけないのに何をやっているんだよ、自信は一瞬で無くなったぜ。

 それにしても、あれに勝つリーダーはヤッパリAランカーだな、オレとの差をまざまざと感じたぜ。オレもいつかは本当にリーダーに頼りにされる探索者になる。口には出さないが、それがオレの目標だ。たまにリーダーのおバカな一面を見て不安になるときもあるけどな。

 仮も取れて今はちゃんとしたパーティメンバーになれた。Bランクダンジョンへの本格的な挑戦も近いだろう。目標に向けてオレは頑張るぜ!
 






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