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第7話 見えない努力 俯瞰視点

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「竜神様。失礼致します」

 ミシュリーヌがビーラーフェを訪れた日から、10日後の深夜。城内にある竜神専用の執務室に、片方の袖だけが短いメイド服を纏った女性が――ミシュリーヌの専属侍女を務めるオデットが、ノックを行い入室しました。

「オデットか。ミシュリーヌの様子はどうだ?」
「本日も、終始リラックスされたご様子でした。こちらの世界を引き続き楽しんでいただけているようですし、ローナ様に関する不安はかなり薄まっていると見受けられます」
「そうか。それはよかった」

 自分が逆の立場ならどれだけ不安か? 彼はそれを理解できる者でした。
 理解しているがために引き続き少しでも和らげたいと強く思っており、そうであるが故に表情が和らぎました。

「他には特別ご報告することはございません。以上をもちまして、本日の報告を終了いたします」
「ご苦労だった。……今日もお疲れ様だな、オディー」
「……ふぅ。それはこちらが言う台詞だよ。今日もお疲れ様、バティくん」

 数秒の沈黙のあと、『主』と『従』だった雰囲気が変化。ふたりが放つ空気が、一気に軽くなりました。
 空気の変化および呼称が変化した理由は、家族だから。ふたりは双子で、オデットは実の妹だったのです。

「ミシュリーヌちゃんと食事とお茶をした時以外、ずっとココに籠ってたよね? 確か処理をしないといけない書類の数はいつも通りだったはずだけど、なにか問題でもあったの?」
「いや、なにも問題はなかった。今日の分を済ましたあと、先のものの処理も行っていただけだ」
「……『先の』って。もしかしてバティくん、あちらの世界への転移の予定を前倒しにしようとしてる?」
「これらの処理さえしておけば、予定を5日早められると判明したのでな。そうなるように済ませているところだ」

 今は相手に生存さえも伝えられていない状況。ミシュリーヌもローナも、精神的に辛い日々が続いている。
 そんな苦しみを少しでも早く取り除きたいと思い、先の処理を進めていたのです。

「5日も前倒しにするとなると、かなりハードなスケジュールになるよ? 大丈夫なの? バティくん的にも竜神的にも」
「ちゃんと間に合わせてみせるし、根を詰めたことで健康面や集中力への影響も出さないさ。これはあくまで、俺の私的な行動。個人的な事情でこの世界全体に迷惑をかけるわけにはいかないからな」

 自分は竜神、この世界の王。象徴であり中心。常に世の安寧を第一としなければならない存在。
 そこも彼は正しく理解しており、この件で支障をきたさないようちゃんと対策を用意していました。

「そっか、なら安心。職務に関してお手伝いできることはないから、影ながら応援してるね」
「その言葉をもらえただけで充分だ。そちらも色々と任せた」
「あの子は真っすぐな子だから、余計にお世話をしたくなってるよ。バティくんが居ない時は、任せておいて」
「ああ、頼んだ」

 ウィンクに微笑みを返し、再び机上に並ぶ書類とのにらめっこが始まります。
 そうして彼は、その後も毎日+αの仕事を行って――





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