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第10話 かけられた声の理由 エレーヌ視点(1)

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 メイルとミアが特に反応していないということは、危険性がなく、かつしっかりとした身分があると瞭然な方――。そう感じつつお声がした方向に顔を向けると、思った通りでした。

 そちらにいらっしゃった、中性的――それよりも更に女性寄りの容姿をお持ちな、華奢に映る・・男性。

 その方の周りには護衛の方が8名もいらっしゃり、何より、この方ご自身が穏やかで品のある雰囲気を纏われていましたので。一目で、高位貴族様なのだと分かりました。

「突然声をおかけしてしまい、申し訳ございません。僕はこの国レヴェンヌに属するハーラント侯爵家の長男、リュドヴィックと申します」
「わたくしは隣国サンリ―ファルに名を連ねる、エリュレール伯爵家の長女エレーヌと申します」

 まずはお互いにご挨拶を行い、私がカーテシーを終えたあとでした。リュドヴィック様は改めて私の瞳を直視されて、

「これからお伝えするものは、非常におかしな話となってしまうことをお許しください」

 戸惑ったご様子で、ご自身の胸元に右手を添えられました。
 ご自身も理解できていないと分かる、おかしなお話。そちらは、なんなのでしょうか……?

「5日前から突然、ここ――僕の心が『ロッピアンヌ湖に行かないといけない』と訴えるようになり、以降は毎日足を運んでいました。そうして今日貴方様をお見掛けした瞬間に、『声をかけないといけない!』と激しく思うようになりまして。こうして声をおかけした、という不可思議な経緯があるのですよ」
「…………そう、だったのですね」
「けれど、貴方様――エレーヌ・エリュレール様とは一切面識がなく、それどころかお名前を耳にするにも初めて。しかしながらそれでは、この衝動に説明がつきません。……エレーヌ様。もしや『無関係』は僕の間違いで、以前僕達の間で何かがあったのでしょうか?」
「…………いえ。貴方様と私との間には、なにもないと確信しております」

 私にもお言葉などを交わした記憶はありませんし、反対に私には何も感じるものがありません。
 ですが。それは――

「…………リュドヴィック様。お手に触れても、よろしいでしょうか?」
「え? え、ええ、どうぞ。エレーヌ、様? どう、なされたのでしょうか……?」
「こちらも、とてもおかしなお話に聞こえてしまうと思いますが……。実を言いますと、私はかつて…………はるか昔に、大切な方の手を握ってさようならをしたのです」

 8年先に逝ってしまった、大好きな人。その人を看取った時――最後にあの方に触れた箇所は、右手でした。
 ですので――

 5日前から突然。ノエル・グレットの記憶の覚醒と、時期が一致していること。
 ここに居る『人』に、手掛かりがあったのかもしれない。そう感じ始めていたこと。

 それによって、『わたくしだった時』――かつてはご縁があったのでは? と考えるようになり、


 そうであるのならば、思い出の部位に触れたら何かを感じられるはず。


 このように思い、あの時と同じく、両手で右の手を握らせていただきました。
 そうすると――

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