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プロローグ(3)
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「心配してくださって、ありがとうございます。嬉しかったです」
「こちらこそ、ありがとうございます。聖女様のおかげで気が付きました」
丁寧なお辞儀にお辞儀を返して、俺は去ろう――として、やめる。
金言をもらったお礼をしたい。そうして『何かないか?』と、ズボンや上着のポケットを探り……………。はぁと、ため息をつく。
((何も持たずに飛び出してきて、そのままここに来たからなあ……。渡せるものは、何もないか……))
「??? どうされましたか?」
「ううん、なんでもありません。ところで、聖女様の好きなものはなんですか?」
後日、ソレを渡しにこよう。そう決めて、さり気なく――当時の自分的には、さり気なく尋ねてみた。
「好きなもの、ですか? 私は、パンが大好きです」
「パン? 宝石とかじゃなくて、パン?」
「はい。実は私、何よりも食べる事が大好きでして……っ。中でも、カスタードクリームがたっぷり詰まったクリームパンが大好物なんですよ」
モジモジ肩を窄め、頬をピンク色にしてはにかむ。
内心に心酔していたところに、そんな可愛い仕草と表情がやって来たんだ。俺は、即座に惚れたね。
((……決めた。告白をしよう))
でも。今は、その時じゃない。まだ、その資格はない。
((彼女に相応しい男になって、このお礼をして――。一人前になって恩返しをしたら、告白しよう……!))
その後聞いた話によると、彼女は『かつて世界一と評されたベーカリー』――去年閉店した店のクリームパンが大好きで、それが残念なのだという。
だから――。
立派な魔王になって、俺がこの世界で一番旨いクリームパンを作って喜んでもらって、そのあと告白する。
この瞬間からは、これが目標。人生の目標となった。
かくして俺は、大急ぎで魔界に戻って魔王の職務とパン作りに邁進し――。やがて誰もが認める魔王となり、1つ目の条件をクリア。2つ目をクリアするべく2年前に人間界の街・ベークに出店し、昨夜ついに『ベークベーカリーコンテスト』クリームパン部門で最優秀賞を獲得! 今日の閉店後に彼女のもとを訪ね、食べてもらったあと想いを打ち明けようとしていたのだ。
「しゃ、シャルロットがどうした? も、もももしや、誰かが求婚したのかっ?」
彼女は心身ともに清らかな乙女だ。レオナルドに聞き込みを頼んだ際は狙っている貴族の男どもが、山ほど居たらしいからな……。
婚約の可能性は、大いにあり得る。
「そうなれば全力を持って、その縁を壊してやりたい! が、その男はシャルロットが選んだ相手だ。くだらない嫉妬で悲しませるワケにはいかな――」
「落ち着けイザーク。勝手に話を進めるんじゃない」
レオナルドの右手が手刀を作り、それが俺の頭に力強く叩き込まれた。
この側近は幼馴染なので、私的な話題の時はこんな風になる。知的なクールフェイスの癖に、ツッコミは暴力的だったり毒舌だったりするのだ。
「しっかりしてくれ。お前がそんな調子だと、愛する人がバッドエンドを迎えてしまうぞ」
「…………バッドエンドだと……? 一体何があった」
「今日は、幼馴染の勝負の日だからな。良いネクタイでもと、この国の中心地に足を運んでいたんだ。そうしたら、な」
レオナルドは、後方――王都がある場所を一瞥し、意図的に落ち着かせた調子でこう告げた。
「シャルロット・ミニアは投獄され、リーエス・フィルズという女が新たな聖女となった。こんな情報が、手に入ったんだよ」
「こちらこそ、ありがとうございます。聖女様のおかげで気が付きました」
丁寧なお辞儀にお辞儀を返して、俺は去ろう――として、やめる。
金言をもらったお礼をしたい。そうして『何かないか?』と、ズボンや上着のポケットを探り……………。はぁと、ため息をつく。
((何も持たずに飛び出してきて、そのままここに来たからなあ……。渡せるものは、何もないか……))
「??? どうされましたか?」
「ううん、なんでもありません。ところで、聖女様の好きなものはなんですか?」
後日、ソレを渡しにこよう。そう決めて、さり気なく――当時の自分的には、さり気なく尋ねてみた。
「好きなもの、ですか? 私は、パンが大好きです」
「パン? 宝石とかじゃなくて、パン?」
「はい。実は私、何よりも食べる事が大好きでして……っ。中でも、カスタードクリームがたっぷり詰まったクリームパンが大好物なんですよ」
モジモジ肩を窄め、頬をピンク色にしてはにかむ。
内心に心酔していたところに、そんな可愛い仕草と表情がやって来たんだ。俺は、即座に惚れたね。
((……決めた。告白をしよう))
でも。今は、その時じゃない。まだ、その資格はない。
((彼女に相応しい男になって、このお礼をして――。一人前になって恩返しをしたら、告白しよう……!))
その後聞いた話によると、彼女は『かつて世界一と評されたベーカリー』――去年閉店した店のクリームパンが大好きで、それが残念なのだという。
だから――。
立派な魔王になって、俺がこの世界で一番旨いクリームパンを作って喜んでもらって、そのあと告白する。
この瞬間からは、これが目標。人生の目標となった。
かくして俺は、大急ぎで魔界に戻って魔王の職務とパン作りに邁進し――。やがて誰もが認める魔王となり、1つ目の条件をクリア。2つ目をクリアするべく2年前に人間界の街・ベークに出店し、昨夜ついに『ベークベーカリーコンテスト』クリームパン部門で最優秀賞を獲得! 今日の閉店後に彼女のもとを訪ね、食べてもらったあと想いを打ち明けようとしていたのだ。
「しゃ、シャルロットがどうした? も、もももしや、誰かが求婚したのかっ?」
彼女は心身ともに清らかな乙女だ。レオナルドに聞き込みを頼んだ際は狙っている貴族の男どもが、山ほど居たらしいからな……。
婚約の可能性は、大いにあり得る。
「そうなれば全力を持って、その縁を壊してやりたい! が、その男はシャルロットが選んだ相手だ。くだらない嫉妬で悲しませるワケにはいかな――」
「落ち着けイザーク。勝手に話を進めるんじゃない」
レオナルドの右手が手刀を作り、それが俺の頭に力強く叩き込まれた。
この側近は幼馴染なので、私的な話題の時はこんな風になる。知的なクールフェイスの癖に、ツッコミは暴力的だったり毒舌だったりするのだ。
「しっかりしてくれ。お前がそんな調子だと、愛する人がバッドエンドを迎えてしまうぞ」
「…………バッドエンドだと……? 一体何があった」
「今日は、幼馴染の勝負の日だからな。良いネクタイでもと、この国の中心地に足を運んでいたんだ。そうしたら、な」
レオナルドは、後方――王都がある場所を一瞥し、意図的に落ち着かせた調子でこう告げた。
「シャルロット・ミニアは投獄され、リーエス・フィルズという女が新たな聖女となった。こんな情報が、手に入ったんだよ」
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