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第一章:聖女から冒険者へ
21.夜花祭①
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今日から、ここシーライズでは夜花祭が開催される。
五年に一度と言う事だけあって、各地からは多くの人々が集まり街は普段よりも賑わいを見せていた。
ちなみに夜花とは、このシーライズにのみに咲く『夜光草』の事を指しているそうだ。
それは海草の一種であり五年に一度、しかも短期間だけ花を咲かせる。
更に月の光を浴びた時にだけ咲く花のようだ。
まさに異世界に相応しい植物な気がして、私はそれを見るのを心待ちにしていた。
そして今日はその初日になる。
私はイザナと一緒に夜花祭を見て回る約束をしているのだが、彼は少し用事が入ったらしく朝から出掛けていた。
だけど昼前には終わると言うことで、以前待ち合わせをしたあの噴水の前で落ち合う予定だ。
詳しいことは聞いていないが、ギルドの人と会うと言っていたから、恐らくは彼の国についての話なのだろう。
私がもう王宮には近づきたくない事をイザナは知っているから、敢えて一人で行ったのだと思う。
彼が王太子を廃嫡したとしても、王族である事には違いない。
それに彼には各地を視察すると言う、ちゃんとした役割を与えられて動いていることも知っている。
イザナの傍に居るという事は、いずれ私も王宮に戻らなくてはならない日が来るのかもしれない。
その覚悟を決めなければならない時は必ず訪れる筈だ。
だけど、今はまだ考えたくはない。
それにまだ旅は始まったばかりなのだから、暫くの間はこの自由な生活を満喫出来るだろう。
私が準備を終えて部屋を出ようとすると、部屋の戸をトントンと叩く音が室内に響いた。
誰だろうと思い扉を開くと、そこにはゼロの姿があった。
「お、良かった。まだいた」
「ゼロ? どうしたの?」
「ルナに渡すものがあって持ってきたんだ」
「渡すもの?」
(なんだろう……)
ゼロは手に持っていた紙包みを私に手渡した。
私はそれを受け取ると、紙包みを開けて中を覗いてみる。
そこには小さな色違いの小瓶が二つ入っていた。
「これは何?」
「言っただろう? ルナに協力してやるって。まさか忘れて無いよな?」
ゼロはニッと笑った。
私は嫌な予感を感じながらも袋の中からそれを取り出すと、一つは緑色の液体が入っていて、もう一つは青色の液体が入っていた。
(まさかとは思うけど……。これ、媚薬とかじゃないよね? さすがに考え過ぎかな)
「一応聞いておくけど、これは何なの?」
「青色の方は媚薬だ。しかも即効性のな!」
ゼロは清々しい顔ではっきりと即答した。
私は引き攣った顔を見せると、紙包みをゼロの方に押し返した。
「要らないよっ! こんなもの。返す!」
「折角、奥手のルナの為に用意したのに……」
「そ、そんなの必要ないし……。第一、こんなものを渡されても困るよっ!」
「そうか? ちなみに緑色の方は確か果実水だったかな。綺麗な色だったから買ってみたんだ。ルナってそういうの好きだろ?」
ゼロはそう言うが、私は瓶を疑うような目で眺めていた。
(確かに見た目が綺麗なのは好きだけど。でも、なんか怪しいな……)
「まあ、無理して飲む必要はないぞ。要らなかったら捨てておいて。それじゃ、俺はこれから露店巡りでもしてくるわ。ルナもイザナとのデート、楽しんで来いよな」
ゼロは紙包みを再び私の手の中に戻すと、さっさと去って行ってしまった。
こんなものを渡されても正直困るし、特に媚薬なんて本当に要らない。
これを使ってしまったら、きっと大変な事になってしまうだろう。
特に私が困ることになるのは間違いない筈だ。
折角ゼロが私の為に持って来てくれたもので悪いとは思うが、イザナに見つかる前に捨ててしまうことにした。
(うん、見なかったことにしよう!)
私は紙包みを持ち洗面台の方へと移動すると、青色の液体が入った蓋を開けて中身の液体を流した。
続いて緑色の瓶を開けて見ると、爽やかなミントの香りが漂って来る。
(あ、やっぱりミントなんだ。これ、果実水って言ってたっけ……)
実は私はミントが好きだった。
少し考えてみた後に、恐る恐る口を付けて一口飲んでみることにした。
思い切ってゴクンと喉に流すと、ミントのスーッとした爽やかな香りが鼻から抜けていく。
(お、おいしい!)
飲みやすく砂糖も加えられている様で、思わず一瓶飲み干してしまった。
こんな事をしていたら時間がどんどん過ぎていき、私は慌ててその瓶を持って部屋を出た。
後でイザナに変に聞かれたら困るし、ゴミは外に捨てることにした。
証拠隠滅だ。
***
街には既に多くの人が溢れていて、道を歩くのも一苦労だった。
人を掻き分けながら進んで行ったら予想以上に時間がかかってしまい、私は大幅に待ち合わせの時間に遅れてしまった。
(こんなことになるのなら、もっと早く出て来れば良かったな。完全に遅刻だよ! イザナはもう着いてるよね……)
待ち合わせの場所に漸く近づくと、少し先にイザナの姿を見つけることが出来た。
私はイザナの姿を見つけると嬉しくなり自然と表情が緩む。l
しかし次の瞬間、彼の隣にいる人間が視界に入って来ると同時に曇った顔へと変わっていく。
(え……?)
イザナの隣にはティアラの姿があったからだ。
しかもティアラは嬉しそうな顔で、またイザナの腕に抱きつくようなことをしている。
(どうして、ここにティアラさんがいるの……?)
私は動揺してその場から動けなくなり、暫くの間二人の様子をただ眺めていた。
五年に一度と言う事だけあって、各地からは多くの人々が集まり街は普段よりも賑わいを見せていた。
ちなみに夜花とは、このシーライズにのみに咲く『夜光草』の事を指しているそうだ。
それは海草の一種であり五年に一度、しかも短期間だけ花を咲かせる。
更に月の光を浴びた時にだけ咲く花のようだ。
まさに異世界に相応しい植物な気がして、私はそれを見るのを心待ちにしていた。
そして今日はその初日になる。
私はイザナと一緒に夜花祭を見て回る約束をしているのだが、彼は少し用事が入ったらしく朝から出掛けていた。
だけど昼前には終わると言うことで、以前待ち合わせをしたあの噴水の前で落ち合う予定だ。
詳しいことは聞いていないが、ギルドの人と会うと言っていたから、恐らくは彼の国についての話なのだろう。
私がもう王宮には近づきたくない事をイザナは知っているから、敢えて一人で行ったのだと思う。
彼が王太子を廃嫡したとしても、王族である事には違いない。
それに彼には各地を視察すると言う、ちゃんとした役割を与えられて動いていることも知っている。
イザナの傍に居るという事は、いずれ私も王宮に戻らなくてはならない日が来るのかもしれない。
その覚悟を決めなければならない時は必ず訪れる筈だ。
だけど、今はまだ考えたくはない。
それにまだ旅は始まったばかりなのだから、暫くの間はこの自由な生活を満喫出来るだろう。
私が準備を終えて部屋を出ようとすると、部屋の戸をトントンと叩く音が室内に響いた。
誰だろうと思い扉を開くと、そこにはゼロの姿があった。
「お、良かった。まだいた」
「ゼロ? どうしたの?」
「ルナに渡すものがあって持ってきたんだ」
「渡すもの?」
(なんだろう……)
ゼロは手に持っていた紙包みを私に手渡した。
私はそれを受け取ると、紙包みを開けて中を覗いてみる。
そこには小さな色違いの小瓶が二つ入っていた。
「これは何?」
「言っただろう? ルナに協力してやるって。まさか忘れて無いよな?」
ゼロはニッと笑った。
私は嫌な予感を感じながらも袋の中からそれを取り出すと、一つは緑色の液体が入っていて、もう一つは青色の液体が入っていた。
(まさかとは思うけど……。これ、媚薬とかじゃないよね? さすがに考え過ぎかな)
「一応聞いておくけど、これは何なの?」
「青色の方は媚薬だ。しかも即効性のな!」
ゼロは清々しい顔ではっきりと即答した。
私は引き攣った顔を見せると、紙包みをゼロの方に押し返した。
「要らないよっ! こんなもの。返す!」
「折角、奥手のルナの為に用意したのに……」
「そ、そんなの必要ないし……。第一、こんなものを渡されても困るよっ!」
「そうか? ちなみに緑色の方は確か果実水だったかな。綺麗な色だったから買ってみたんだ。ルナってそういうの好きだろ?」
ゼロはそう言うが、私は瓶を疑うような目で眺めていた。
(確かに見た目が綺麗なのは好きだけど。でも、なんか怪しいな……)
「まあ、無理して飲む必要はないぞ。要らなかったら捨てておいて。それじゃ、俺はこれから露店巡りでもしてくるわ。ルナもイザナとのデート、楽しんで来いよな」
ゼロは紙包みを再び私の手の中に戻すと、さっさと去って行ってしまった。
こんなものを渡されても正直困るし、特に媚薬なんて本当に要らない。
これを使ってしまったら、きっと大変な事になってしまうだろう。
特に私が困ることになるのは間違いない筈だ。
折角ゼロが私の為に持って来てくれたもので悪いとは思うが、イザナに見つかる前に捨ててしまうことにした。
(うん、見なかったことにしよう!)
私は紙包みを持ち洗面台の方へと移動すると、青色の液体が入った蓋を開けて中身の液体を流した。
続いて緑色の瓶を開けて見ると、爽やかなミントの香りが漂って来る。
(あ、やっぱりミントなんだ。これ、果実水って言ってたっけ……)
実は私はミントが好きだった。
少し考えてみた後に、恐る恐る口を付けて一口飲んでみることにした。
思い切ってゴクンと喉に流すと、ミントのスーッとした爽やかな香りが鼻から抜けていく。
(お、おいしい!)
飲みやすく砂糖も加えられている様で、思わず一瓶飲み干してしまった。
こんな事をしていたら時間がどんどん過ぎていき、私は慌ててその瓶を持って部屋を出た。
後でイザナに変に聞かれたら困るし、ゴミは外に捨てることにした。
証拠隠滅だ。
***
街には既に多くの人が溢れていて、道を歩くのも一苦労だった。
人を掻き分けながら進んで行ったら予想以上に時間がかかってしまい、私は大幅に待ち合わせの時間に遅れてしまった。
(こんなことになるのなら、もっと早く出て来れば良かったな。完全に遅刻だよ! イザナはもう着いてるよね……)
待ち合わせの場所に漸く近づくと、少し先にイザナの姿を見つけることが出来た。
私はイザナの姿を見つけると嬉しくなり自然と表情が緩む。l
しかし次の瞬間、彼の隣にいる人間が視界に入って来ると同時に曇った顔へと変わっていく。
(え……?)
イザナの隣にはティアラの姿があったからだ。
しかもティアラは嬉しそうな顔で、またイザナの腕に抱きつくようなことをしている。
(どうして、ここにティアラさんがいるの……?)
私は動揺してその場から動けなくなり、暫くの間二人の様子をただ眺めていた。
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