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「話がある、来いよスティング」
馬車を降り、学園の正門を潜って直ぐに殿下が現れ、そう言うと正門から少し離れた場所に連れていかれた。
機嫌が悪い。
そして、背後にぴったりと寄り添う、友人という名の監視役の2人がいつものようにいた。
一気に気持ちが沈んでしまった。
今日は金曜日で、明後日はお2人がゆっくり遊びに来てくれる。コスプレとかもあったが、毎日御一緒出来てとても楽しい時間を過ごし、
これが友達なのね、
と、知らなかった自分の素直な感情に驚きながらも、受け入れてくれるお2人に感謝していた。
そのお2人と、勿論クルリも加えての、有意義な時間が待ち遠しくて、今日と明日が終われば、と意気込んでいた所をくじかれた。
落ち込む自分に驚いた。
殿下から声をかけて下さったのだ。
たとえその感情がどうであれ、私に声をかけてきたことが重要なのだ。
それなのに、とても冷静な自分がいた。
前なら、お声を掛けてくれるだけで自身を捧げ、殿下の声と言葉に魅入っていた。
それなのに今は、殿下よりも周りを気にしてしまう自分に、狼狽えながらも、落ち着く自分が当然のように思えた。
背後にいる2人。
ドレシャン・フィルタ。フィルタ伯爵家のご子息と、
コリュ・テレリナ。テレリナ子爵のご子息だ。
殿下の苛立ちの感情と裏腹に、ニヤニヤと嫌な笑いを隠すことなく見せていた。
「おはようございます、殿下」
軽く裾を持ち挨拶した。
「昨日は何故勝手に帰った!?」
私の挨拶を全く無視し、怒鳴ってきた。
「恐れ入りますが、昨日はフィー皇子様とカレン皇女様に声をかけて頂き御一緒に帰りました」
「よくもまあ、そんな嘘をつけるな!」
大声で怒鳴ってきた。
周りを歩く生徒達が、驚き振り向いた。
嘘なんかついていないし、私は嘘なんて言ったことがない。
たとえ王宮で、被害妄想令嬢と言われようが、殿下はご自分の耳で聞かない限りは信じない、と言って下さった。また、私は殿下に嘘をついた事がない。
それを知っている筈なのにそう言うという事は、何か吹き込まれたに違いない。
それに、コリュ様は私がお2人と帰る所を見ているのに、あえて殿下に教えなかった、と言う事か。
まあそうだな、お2人は王妃派だものね。
貴族は2つの派閥に分かれている
公爵派と、
王妃派と。
王宮での権力は勿論公爵派が握っいる。
でも、王妃は先を見据え行動しているのだ。
つまり、子、だ。
私ではなく、レインが産む子を王座につかせたい。
その為に、私を、いや、公爵家を蔑ろに、権力を削ぎ落とそうとしている。
王宮では公爵様達には手出しが出来ないが、学園内なら、私に対して背後から操ることが出来る。学園には、貴族の跡目がごろごろしている。
今、では無く、レインが産む頃の為に動いているのだ。
それに私が殿下をお慕いしているのを知ってるからこそ、追い詰めても、離れないのをわかっているからこそ、こんな姑息な手を堂々と使ってくる。
だから、生徒の目につくように、大声を荒らげ馬鹿にする。
これまで何度もあったがレインが来てから特に多くなり、放課後にはあらぬ噂が流れていた。
「嘘などついておりません」
反論しても意味が無いのも分かっていたが、お2人を悪く言われたくないし、要はレインがいなかったら仕方なく私と帰ろうと思ったくらいなんだろう。
「最近お2人が声をかけてるからと、勘違いするなど甚だしい!」
違う。
「相手は帝国の皇子、皇女だ。私ならともかくお前の様な奴を本気で相手する訳ないだろ!」
様な、
奴。
単語が異様に脳裏に残る。
「恐れ入りますが、私は嘘はついておりません」
「まだ言うか!?お前が一緒に帰りたいと言うからわざわざ迎えに行ったというのに、さっさと帰るとはどういう事だ!!」
よく言うわ。ご自分の都合で言われても困るわ。昨日はレインがいなかったのね。だから、仕方なく私と帰ろうとしたのでしょう?
「殿下、スティング様は殿下の気を引こうとして毎回言っているだけ、と言う事ですよ。レイン様がいる時に大騒ぎして、いなかったらどうでもいい、という事ですよ」
違うわ、コリュ様
あなたがきちんと説明してくれれば、問題ないというのにあえて言う気はないのね。
それも、お2人の馬車は馬車置き場の奥に停められていた。つまりかなり早く登校され、校舎に中にいる事を確認した上で、黙っているのだ。
「最低の女だな。公爵令嬢でありながらそんな浅ましい考えなのか」
「違います。私は嘘などついておりません。でしたらお2人にお聞きになったら宜しいではありませんか」
「はあ!?嘘だとわかっているのに何故聞かなきゃかならない。失礼にも程がある」
「殿下、これが罠なんですよ。聞けないと分かってて言ってくる。つまり、嘘を本当にする気なんです」
「言葉を慎みなさい、ドレシャン殿。私は嘘などついておりません」
「言葉を慎むのはお前だ、スティング!平気で嘘を、それを皇子、皇女の名を騙るとは、どういう躾をされてきたんだ!」
「殿下、私は嘘などついておりません」
「まだ言うのか!?」
「殿下、ここまでスティング様は否定されると言う事は、公爵様より何か吹き込まれているのです。皇子皇女の名を騙り、自分の立場を有利にさせ、自分に注目をさせ、学園内の学生を牛耳る魂胆です学生の後ろには家があります。より権力を握ろうとしているのです」
「卑劣な!!」
「ですが残念でしたね。殿下はその様な浅はかな考えにハマる方では無い」
私だけならともかくお父様まで酷く言うのは許せなかった。でも、何を言っても逆にこちらの不利になるようにしか言わないだろう。
悔しい。
「今度は黙りか。認めたのだな。ふん。私の婚約者なら私に逆らわず大人しくすればいいんだ。昔は逆らう事をしなかったくせに、そんなにレインが邪魔か?そんなに私の気を引こうとしたいのか?」
違う。
私は殿下の気をひこうとしている訳ではありません。
「レインが来てからお前はおかしくなった。私の為だと言いながら自分の思い通りにしたいだけだろう。上手く私を丸め込むよう、公爵殿から言われているんだろ!」
違います。
変わったのは殿下です。
どうして・・・こんなに変わってしまったのだろう。
「スティング、聞いているのか!?つまらない嘘がこうやって事を大きくし、お前の価値が問われる。そんな奴が王妃になるのだ」
いつまでも続く責めの言葉に、俯き我慢するしか無かった。
「それで民の事を知れるのか!?」
もうすぐ終わるわ。授業が始まるもの。
我慢よ。
「これは一体何事かしら?」
気持ち悪くなる気分の中、鋭い声が響いた。



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