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本編
834 屍となった超獣と絶望
「……なんだ、これ」
シーモンクの案内に従って、超獣レヴィアタンを追いタリアスから北西方面の海域へと向かった時のことだ。
あまりの惨状に絶句する。
「おいおいおいおい、マジかよマジかよ」
一緒にワシタカくんに乗っていたシーモンクも顔を真っ青にして驚いていた。
大海原、見渡す限りの赤。
そして浮かぶ巨体。
目当てとしていたレヴィアタンの死骸がそこにあった。
石油を運ぶタンカーが横転した事故現場みたいだ。
海流に乗ってとめどない量の血がどんどん広がって行く。
「……」
すぐにワルプを召喚して、頭の上に移動する。
ワシタカくんは念のため上空に控えといてもらった。
「あっ、おいトウジ! あぶねえって!」
「確認するだけだよ」
本当に死んでるのか、な。
「ビリー、でてこい。んでもって、まわりの捜索を頼む」
「ォォォ」
ドロップアイテムの一部が死骸の上に転がっている。
本当に死んでいることは間違いない。
……誰が、殺したんだ?
これだけの巨体で、海面に顔を出すだけで貿易船団を壊滅させる程の力を持つ。
ゲームでいうところ、エンドコンテンツのボスクラスだ。
この世界にエンドコンテンツレベルの相手をクリアできるような人間はいない。
いたとしても、過去の勇者一行のいずれか。
もしくはダンジョンコア勢だろう。
「まあいいや、最優先はそれじゃない」
インベントリから片手剣を取り出すと、俺はすぐさまレヴィアタンの死骸に突き立てた。
別に食おうってわけじゃない、とにかくこいつの胃の中を確認したいだけである。
「……」
「うへぁ……ぐろっ」
ひっくり返った死骸の腹を無心で掘り進んで行く俺を見ながら、吐き気を催すシーモンク。
日が経てば腐って、それこそ耐えられないほどの匂いになるだろうが、今は大丈夫だ。
時間経過で消えるドロップアイテムが残っていたということは、まだ死んだばかりなのである。
分厚い皮を切り裂き、その内側にあるさらに厚い脂肪の層を進んで、ようやく中へ。
胃がどこにあるか知らんが、腹の中央を切り裂いていきゃいつかは辿り着くはずだ。
俺の体は当然血に濡れて真っ赤になっていた。
血以外にもよくわからない体液でドロドロだ。
それでも関係ない、そんなこと言ってられない。
「トウジ……何を探してんだよ……?」
「大切な人だよ」
「大切な人?」
「ああ」
正しくは、大切な言葉を伝え損ねた家族だ。
「お前が漁ってた貿易船には、俺の大切な人が乗ってたんだ」
「……マジでか、それであんなにキレてたのか」
「俺の強い装備とか、他にも色々自衛手段を渡してあるから、丸呑みにされてもまだ生きてると思ったんだ」
「……そりゃ……いや、いい。見つかるといいな」
シーモンクは言葉を飲み込んで、俺にそんなエールを送る。
「見つけるさ、絶対」
どんな言葉を飲み込んだのか、察しはつく。
でも確定するまで、俺はマイヤーの生存を疑わない。
そうして俺は胃袋に到達した。
半分溶けた見たことない魚が大量にいて、その中にはもちろん人間もいる。
「うっぷ……ぉぇぇぇ」
堪えきれなかったシーモンクの嗚咽が聞こえてきた。
咀嚼してなかったとしても、胃の中で他のものとぐちゃぐちゃになってミンチである。
まともな人間はこの中で生存なんてできっこないだろう。
でも大丈夫だ。
俺の装備だぞ。
サンダーソールの雷撃をもろにくらっても全壊しなかった。
マイヤーに持たせたものはお下がりとは言えど、かなり気合を入れた代物。
「どこだよ、どこだよ! ……どこだよ」
見つからない──あ。
丸呑みにされた人間の大量の死体の中に、とあるものを発見した。
……俺がマイヤーに渡したカバンだった。
「ぅ、ぐ……」
糸が切れたような感覚がして、力が一気に抜けて行く。
気づけば涙が頬を伝っていた。
……絶望、だったんだろうな。
海に投げ出されて奇跡的に助かったとしても、これだ。
俺の手が届かないところで、誰かに危害が及ぶ。
それを阻止すべく、できるだけ守りを固めた。
どっちか片方しか救えない、そんな選択肢を未然に防ぐために。
今まで、今まで頑張ってきたはずなのに。
どこで間違えたのだろう。
いや、初めから間違っていたのかもしれない。
怒りのぶつけ先を見失った俺は、ただただ呆然とするしかなかった。
「ォォォ……」
「ォォ……」
割いた腹の隙間をこじ開けて、ビリーとワルプが心配そうに俺を見ていた。
ビリーの口元には、漂っていたのをかき集めたのか、多種多様なドロップアイテム。
ワルプの手には、レヴィアタンのサモンカード。
色を見ればわかる、ゴッドクラスのサモンカードである。
「ありがとう」
お礼を言って受け取って、俺は腹から這い上がった。
せっかく拾ってきてくれたのだから、いらないとは言えない。
でも本音を言えば、俺が欲しいのはこんなものじゃない。
……こんなものじゃないんだ。
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