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第五章
新章7:とある密会
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吸い込まれそうな藍色の瞳を見つめる中、私はゴクリと唾を飲み込むと、小さく唇を噛んだ。
当然ね……情報がタダで手に入るはずがないわ……。
でも私は養ってもらっている身、自由になるお金はない。
壁に行く為のお金は使えない……なら……。
「それなら……私の情報と交換するのはいかがかしら?さっき答えられないと言った質問でも、そのほかの事でも、何でも一つ正直に話すわ」
「ほう、取引ですか……。……あなたの情報はとても貴重ですし、それでしたら構いませんよ」
セドリックはニヤリと口角を上げると、ゆっくりと帽子を外していく。
「では……どうしましょうかね。お名前をお伺いしたいところですが……」
「待って、名前は……言いたくないわけではなくて、言えないの。率直言うと、私には呪符がかかっているわ。自分の名前を言えないおかしな呪いよ……。理由はわからない……。さっきこの事を言わなかったのは、こんな夢物語みたいな話を、信じてもらえるかわからなかったから……」
そう一気に話すと、セドリックは見定めるように私の瞳を覗き込んだ。
向けられるその瞳を真っすぐに見つめ返していると、彼は目を見開きながらに、驚いた様子を浮かべていく。
「……嘘ではないようですね。ほう、呪いですか?それも魔法か何かです?」
「答える質問は一つだけよ。呪いが魔法かどうか話せば、ノエルについて教えてくれるのかしら?」
そう彼へ微笑んでみせると、何がおかしいのか、彼は肩を揺らせて笑い始める。
「ハハッ、気の強いお嬢さんだ。それであれば先ほどの質問には答えなくて構いません。そうですね……名前が言えないのでしたら仕方がない。では……あなたがどこから来たのかそれを教えて頂きたい」
「その質問に答えれば、ノエルの情報を教えてくれるのね?」
そう念押しで確認してみると、彼はパッと手を広げて見せる。
「情報屋というのは……何よりも信用が肝心です。一度約束した事は破りませんよ。できない約束はそもそもしませんし。それにここで嘘を話して、私に何の得があるのでしょうか?それよりも情報屋としての信頼を損ねる方が大きい」
それもそうね……。
私は彼の言葉に納得すると、静かに口を開いていった。
「私は……壁の向こう側、北の国から来たわ。どうやってきたのかはわかない。でも私が暮らしていた場所は、北の国で間違いないわ」
そう静かに語ると、彼は口を半開きにたままに、その場で固まった。
そうして信じられないというほどに驚愕した表情を浮かべると、狼狽するように頭を抱え始める。
「本当か……?いや……まさか……信じられない……こんな事が……。だが……彼女の事をどれだけ調べても……何もわからなかった。なら……本当に……?」
ブツブツと呟きながらに私をじっと見つめ続ける中、彼の表情から先ほどの胡散臭い笑みが消えている。
「……先ほど伺いましたエヴァンさんという御方は、北の国におられるのですね」
どうしてこのタイミングで、エヴァンの名前が……。
私はさっき彼はどこにいるかわからないと答えたはず……。
「さっきも話したけれど……彼の居場所はわからないわ」
「いえ、あなたは先ほどこの質問だけに嘘をついたことはわかっております。こんな仕事をしていると……人が嘘をついているかどうかわかるのですよ。あなたは彼はどこにいるかわからないそう答えた時、すぐ嘘だと気が付きました。ですが……どこから来たのかを説明していなかったあの場面では、答えられないと話すのが正解でしょう。……正直まだ半信半疑ですよ。あなたはまだ見たことがないようですが、あの壁を超える事など出来るはずがない」
彼は焦った様子で手帳とペンを取り出すと、真剣な表情を浮かべたままにペンを走らせていく。
カリカリとペンの音は響く中、シーンと静まり返る部屋で、カミールは呆れた様子でドサッとソファーへ座り込むと、深いため息をついた。
その姿を横目に私はセドリックの視界へ映り込むと、深く揺れる藍色の瞳を覗き込む。
「ちゃんと答えたのだから……ノエルについての情報を教えてくれるかしら?」
そう静かに語りかけてみると、彼はハッと顔を上げ、慌てた様子で笑みを作ってみせる。
しかしその笑みは先ほどとは違い、どこかぎこちなくひどく動揺しているようだ。
「……っっ、そうですね。ノエルについてでしたね。……彼はこの東の国で一番大きな裏の組織のボスの名ですよ。何十年……いや何百年とノエルという名は裏の世界で生き続けている。さすがに人間がそう長く生きられるわけありませんからね、中身は変わっているでしょう。どういった経緯でその名が受け継がれているのかはわかりませんが、いつの時代も裏の組織……いえこの国をノエルが仕切っている。噂では城との関係も深いようですので、彼が捕まることなどないのだとか……」
裏の組織のボス……。
どうしてそんな人の名に彼が反応したのだろうか。
もしかして……彼も裏の世界で生きている人間だから……?
私はこの国では珍しい魔法使いだ。
助けることで、組織へ私を引き入れたいのだろうか……?
いえそれだけなら、ノエルという名にそれほど反応を見せないだろう。
だって勧誘するときには、必ず説明しなければならないのだから……。
「そのノエルが、今壁の傍にいるのよね?」
「ふふっ、質問は一つだけなのですよね?ですが……面白い情報を頂いたお礼として特別に……。ノエルは今壁の傍で何か大仕事を始めているようですよ。それともう一つ……今のノエルはあなたと同じ、この国では珍しい魔法使いです」
魔法使い!?
まさか……その人も壁の向こうから来たなんてこと……っっ。
もしかして魔法使いなら……壁を超える方法を知っているのかもしれないわ……。
彼の言葉に静かに考え込んでいると、セドリックは深く礼を見せる。
「貴重な情報、ありがとうございます。では私はこれで」
彼はそう言い残すと、消えるようにその場から姿を消した。
当然ね……情報がタダで手に入るはずがないわ……。
でも私は養ってもらっている身、自由になるお金はない。
壁に行く為のお金は使えない……なら……。
「それなら……私の情報と交換するのはいかがかしら?さっき答えられないと言った質問でも、そのほかの事でも、何でも一つ正直に話すわ」
「ほう、取引ですか……。……あなたの情報はとても貴重ですし、それでしたら構いませんよ」
セドリックはニヤリと口角を上げると、ゆっくりと帽子を外していく。
「では……どうしましょうかね。お名前をお伺いしたいところですが……」
「待って、名前は……言いたくないわけではなくて、言えないの。率直言うと、私には呪符がかかっているわ。自分の名前を言えないおかしな呪いよ……。理由はわからない……。さっきこの事を言わなかったのは、こんな夢物語みたいな話を、信じてもらえるかわからなかったから……」
そう一気に話すと、セドリックは見定めるように私の瞳を覗き込んだ。
向けられるその瞳を真っすぐに見つめ返していると、彼は目を見開きながらに、驚いた様子を浮かべていく。
「……嘘ではないようですね。ほう、呪いですか?それも魔法か何かです?」
「答える質問は一つだけよ。呪いが魔法かどうか話せば、ノエルについて教えてくれるのかしら?」
そう彼へ微笑んでみせると、何がおかしいのか、彼は肩を揺らせて笑い始める。
「ハハッ、気の強いお嬢さんだ。それであれば先ほどの質問には答えなくて構いません。そうですね……名前が言えないのでしたら仕方がない。では……あなたがどこから来たのかそれを教えて頂きたい」
「その質問に答えれば、ノエルの情報を教えてくれるのね?」
そう念押しで確認してみると、彼はパッと手を広げて見せる。
「情報屋というのは……何よりも信用が肝心です。一度約束した事は破りませんよ。できない約束はそもそもしませんし。それにここで嘘を話して、私に何の得があるのでしょうか?それよりも情報屋としての信頼を損ねる方が大きい」
それもそうね……。
私は彼の言葉に納得すると、静かに口を開いていった。
「私は……壁の向こう側、北の国から来たわ。どうやってきたのかはわかない。でも私が暮らしていた場所は、北の国で間違いないわ」
そう静かに語ると、彼は口を半開きにたままに、その場で固まった。
そうして信じられないというほどに驚愕した表情を浮かべると、狼狽するように頭を抱え始める。
「本当か……?いや……まさか……信じられない……こんな事が……。だが……彼女の事をどれだけ調べても……何もわからなかった。なら……本当に……?」
ブツブツと呟きながらに私をじっと見つめ続ける中、彼の表情から先ほどの胡散臭い笑みが消えている。
「……先ほど伺いましたエヴァンさんという御方は、北の国におられるのですね」
どうしてこのタイミングで、エヴァンの名前が……。
私はさっき彼はどこにいるかわからないと答えたはず……。
「さっきも話したけれど……彼の居場所はわからないわ」
「いえ、あなたは先ほどこの質問だけに嘘をついたことはわかっております。こんな仕事をしていると……人が嘘をついているかどうかわかるのですよ。あなたは彼はどこにいるかわからないそう答えた時、すぐ嘘だと気が付きました。ですが……どこから来たのかを説明していなかったあの場面では、答えられないと話すのが正解でしょう。……正直まだ半信半疑ですよ。あなたはまだ見たことがないようですが、あの壁を超える事など出来るはずがない」
彼は焦った様子で手帳とペンを取り出すと、真剣な表情を浮かべたままにペンを走らせていく。
カリカリとペンの音は響く中、シーンと静まり返る部屋で、カミールは呆れた様子でドサッとソファーへ座り込むと、深いため息をついた。
その姿を横目に私はセドリックの視界へ映り込むと、深く揺れる藍色の瞳を覗き込む。
「ちゃんと答えたのだから……ノエルについての情報を教えてくれるかしら?」
そう静かに語りかけてみると、彼はハッと顔を上げ、慌てた様子で笑みを作ってみせる。
しかしその笑みは先ほどとは違い、どこかぎこちなくひどく動揺しているようだ。
「……っっ、そうですね。ノエルについてでしたね。……彼はこの東の国で一番大きな裏の組織のボスの名ですよ。何十年……いや何百年とノエルという名は裏の世界で生き続けている。さすがに人間がそう長く生きられるわけありませんからね、中身は変わっているでしょう。どういった経緯でその名が受け継がれているのかはわかりませんが、いつの時代も裏の組織……いえこの国をノエルが仕切っている。噂では城との関係も深いようですので、彼が捕まることなどないのだとか……」
裏の組織のボス……。
どうしてそんな人の名に彼が反応したのだろうか。
もしかして……彼も裏の世界で生きている人間だから……?
私はこの国では珍しい魔法使いだ。
助けることで、組織へ私を引き入れたいのだろうか……?
いえそれだけなら、ノエルという名にそれほど反応を見せないだろう。
だって勧誘するときには、必ず説明しなければならないのだから……。
「そのノエルが、今壁の傍にいるのよね?」
「ふふっ、質問は一つだけなのですよね?ですが……面白い情報を頂いたお礼として特別に……。ノエルは今壁の傍で何か大仕事を始めているようですよ。それともう一つ……今のノエルはあなたと同じ、この国では珍しい魔法使いです」
魔法使い!?
まさか……その人も壁の向こうから来たなんてこと……っっ。
もしかして魔法使いなら……壁を超える方法を知っているのかもしれないわ……。
彼の言葉に静かに考え込んでいると、セドリックは深く礼を見せる。
「貴重な情報、ありがとうございます。では私はこれで」
彼はそう言い残すと、消えるようにその場から姿を消した。
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