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最終章
序章:悠久の記憶 (タクミ視点)
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久しぶりだな、この感覚……昔はよく感じていた。
何かが欠けているような焦燥感。
後一つで完成する、パズルのピースが見つからない。
月明りが照らす部屋の中、俺はそっとカーテンを閉めると、ドサッとベッドへ横になった。
俺はおもむろに天井へ向けて手を伸ばすと何かを掴む。
握った拳をそっと開けるが、もちろんそこには何もない。
始まりはいつだったかな。
俺は思いをはせるように目を閉じると、深く息を吸い込んだ。
幼いころに両親を亡くした俺は孤独だった。
魔法だけが自分の全てで……。
寂しさを埋めるために禁忌を冒し今は亡き両親に会いに行った。
両親に愛されていたのだと知り、孤独感はなくなったはずだった。
なのに胸にぽっかりと空いた大きな穴はふさがらず、何とも言えない感情が込み上げる。
孤独感とは違うそれを埋めるために、ずっとその何かを探し続けた。
俺が俺であるために必要な何か。
何が足りないのか、俺は何かを忘れている……?
そんなときにエヴァンと出会ったんだ。
平民の中で輝く光。
一目見て魔法の才能があると気が付いた。
俺は無意識に声をかけていた。
エメラルドの瞳に自分の姿が映し出された瞬間、何かが引っかかった。
どこかで会ったことがある?いやありえない、彼を見るのは間違いなく初めてで。
なのにどうしてそんな気がしたのか。
もしかしたら抱えている答えが見つかるかもしれない。
そして俺はエヴァンを弟子として城へ招いたんだ。
エヴァンは俺の見込み通り魔法の才能に溢れていた。
飲み込みも早くてあっという間に俺の助手になるほどになった。
魔法の研究を一緒にするのが楽しくて、ぽっかり空いた穴のことはいつしか忘れ、完成できないパズルはそのまま消えて行ったんだ。
俺の自慢の弟子。
そんな弟子が初めて恋をした彼女。
女性には珍しい肩より少し伸びた漆黒の髪に、何色にも染まらない黒い瞳。
視線が絡み彼女の瞳に映る自分の頭から離れない。
瞼を閉じれば鮮明にこちらを見る彼女の姿が映し出された。
こんなことは初めてだ。
今まで何度か女性と関係もあったが、どれも長続きはしなかった。
いつも魔法を優先する俺に嫌気をさして離れていってしまうから。
壁を壊した魔法のことよりも、頭に浮かぶのは彼女の存在。
俺は小さく息を吐きだすと、こちらをみつめる漆黒の瞳を眺めながら夢の世界へと落ちていった。
・
・
・
ふと目覚めると、俺は部屋に立っていた。
見渡すその風景に見覚えはないはずなのに、なぜか感じるなつかしさ。
違和感に首を傾げていると、鏡に映った自分の姿に目を見開き固まった。
映っていたは短髪のブロンドの髪に、ターコイズの瞳、紛れもなく自分の姿だが今よりも低い身長に幼い顔立ち、現実よりも10年ほど若くなっている。
これは夢……?
首を傾げながら再度辺りを見渡すと、そこは十畳ほどの小さな一室。
ここはどこだ?
見たことのない道具に見たことのない景色。
けれどここを知っているような。
どうしてそう思うのかわからない。
俺は扉を見つけると、ドアノブを回してみる。
ガチャッと金属音が響くが開く気配はない。
ガチャガチャと何度も回してみるが、どうにもならないようだ。
俺は諦めると、部屋の中を散策を始めた。
部屋の中央には長方形の低いテーブルに布団がはみ出ている。
その奥には人が二人ほど眠れそうなベッドが一つ。
ベッドの上には女性ものらしき服が脱ぎ散らかっていた。
ここは女性の部屋なのかな?
恐る恐る手に取ってみると、見たこともないような上等な生地で作られていた。
何だろうこれ、すごいな。
魔法で作ったのかな?
肌触りを確認しながら魔力を感じてみると、全く魔力の気配はない。
魔力で作られたものじゃないのか……不思議だ。
まぁ夢の中なのだから深く考えても意味はないか。
俺は服を拾い丁寧に折りたたむと、枕の横へそっと置いた。
テーブルの向かい側には見たこともない縦長の大きな長方形の箱が一つ。
恐る恐る開けてみると、涼しい風が頬を撫でた。
パッと明かりがつき中を覗き込んでみると、冷えたその箱に食料が詰め込まれていた。
扉に立てかけられていたボトルに触れてみると、その冷たさに驚く。
これは貯蔵庫か、いやぁすごいな。
これも全く魔力を感じない、どうやって冷たくしているのだろう。
棚に並べられていると果物らしきものを手に取ると恐る恐る観察してみる。
オレンジ色の球体。
カリカリとひっかいてみると皮が捲れた。
柑橘を帯びた香りが鼻孔を擽ると、胸がじわっと温かくなる。
俺はこれを知っている。
これはネーブルという果物だ。
俺はこれが好きだった。
見たこともないはずなのに……どうしてそう思うのだろうか?
ガタンッと大きな音が後方かた響く。
反射的に振り返ると、閉まっていたはずの扉が開いていた。
その先に浮かび上がる人影。
鼓動が急にドクドクと高鳴る。
この動機の正体はわからない、けれど嫌な感じでない。
目を凝らしその人影を眺めていると、急に視界が暗転した。
ハッと目覚めると、目の前に映ったのはよく知る自室の天井。
のっそり体を起こすと、先ほどの夢が鮮明に思い出される。
あれは何だったのか、音や感覚があまりにリアルだった。
俺は先ほどネーブルを握りしめていた手を見つめると、爪先に何かが引っかかっている。
爪で弾き取り出してみると、オレンジ色の破片。
そっと鼻を近づけてみると、柑橘系の匂いが広がった。
これは……どういうことだ……。
あの世界は現実……いや、ありえない。
知らないはずの部屋、知らない場所、あの扉の先に居たのは……?
浮かび上がったシルエットを思い出すと、なぜか胸が熱くなったのだった。
******************************
大変長らくお待たせしました!
最終章スタートです(*ノωノ)
最後までお付き合い頂けるよう頑張りますm(__)m
何かが欠けているような焦燥感。
後一つで完成する、パズルのピースが見つからない。
月明りが照らす部屋の中、俺はそっとカーテンを閉めると、ドサッとベッドへ横になった。
俺はおもむろに天井へ向けて手を伸ばすと何かを掴む。
握った拳をそっと開けるが、もちろんそこには何もない。
始まりはいつだったかな。
俺は思いをはせるように目を閉じると、深く息を吸い込んだ。
幼いころに両親を亡くした俺は孤独だった。
魔法だけが自分の全てで……。
寂しさを埋めるために禁忌を冒し今は亡き両親に会いに行った。
両親に愛されていたのだと知り、孤独感はなくなったはずだった。
なのに胸にぽっかりと空いた大きな穴はふさがらず、何とも言えない感情が込み上げる。
孤独感とは違うそれを埋めるために、ずっとその何かを探し続けた。
俺が俺であるために必要な何か。
何が足りないのか、俺は何かを忘れている……?
そんなときにエヴァンと出会ったんだ。
平民の中で輝く光。
一目見て魔法の才能があると気が付いた。
俺は無意識に声をかけていた。
エメラルドの瞳に自分の姿が映し出された瞬間、何かが引っかかった。
どこかで会ったことがある?いやありえない、彼を見るのは間違いなく初めてで。
なのにどうしてそんな気がしたのか。
もしかしたら抱えている答えが見つかるかもしれない。
そして俺はエヴァンを弟子として城へ招いたんだ。
エヴァンは俺の見込み通り魔法の才能に溢れていた。
飲み込みも早くてあっという間に俺の助手になるほどになった。
魔法の研究を一緒にするのが楽しくて、ぽっかり空いた穴のことはいつしか忘れ、完成できないパズルはそのまま消えて行ったんだ。
俺の自慢の弟子。
そんな弟子が初めて恋をした彼女。
女性には珍しい肩より少し伸びた漆黒の髪に、何色にも染まらない黒い瞳。
視線が絡み彼女の瞳に映る自分の頭から離れない。
瞼を閉じれば鮮明にこちらを見る彼女の姿が映し出された。
こんなことは初めてだ。
今まで何度か女性と関係もあったが、どれも長続きはしなかった。
いつも魔法を優先する俺に嫌気をさして離れていってしまうから。
壁を壊した魔法のことよりも、頭に浮かぶのは彼女の存在。
俺は小さく息を吐きだすと、こちらをみつめる漆黒の瞳を眺めながら夢の世界へと落ちていった。
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ふと目覚めると、俺は部屋に立っていた。
見渡すその風景に見覚えはないはずなのに、なぜか感じるなつかしさ。
違和感に首を傾げていると、鏡に映った自分の姿に目を見開き固まった。
映っていたは短髪のブロンドの髪に、ターコイズの瞳、紛れもなく自分の姿だが今よりも低い身長に幼い顔立ち、現実よりも10年ほど若くなっている。
これは夢……?
首を傾げながら再度辺りを見渡すと、そこは十畳ほどの小さな一室。
ここはどこだ?
見たことのない道具に見たことのない景色。
けれどここを知っているような。
どうしてそう思うのかわからない。
俺は扉を見つけると、ドアノブを回してみる。
ガチャッと金属音が響くが開く気配はない。
ガチャガチャと何度も回してみるが、どうにもならないようだ。
俺は諦めると、部屋の中を散策を始めた。
部屋の中央には長方形の低いテーブルに布団がはみ出ている。
その奥には人が二人ほど眠れそうなベッドが一つ。
ベッドの上には女性ものらしき服が脱ぎ散らかっていた。
ここは女性の部屋なのかな?
恐る恐る手に取ってみると、見たこともないような上等な生地で作られていた。
何だろうこれ、すごいな。
魔法で作ったのかな?
肌触りを確認しながら魔力を感じてみると、全く魔力の気配はない。
魔力で作られたものじゃないのか……不思議だ。
まぁ夢の中なのだから深く考えても意味はないか。
俺は服を拾い丁寧に折りたたむと、枕の横へそっと置いた。
テーブルの向かい側には見たこともない縦長の大きな長方形の箱が一つ。
恐る恐る開けてみると、涼しい風が頬を撫でた。
パッと明かりがつき中を覗き込んでみると、冷えたその箱に食料が詰め込まれていた。
扉に立てかけられていたボトルに触れてみると、その冷たさに驚く。
これは貯蔵庫か、いやぁすごいな。
これも全く魔力を感じない、どうやって冷たくしているのだろう。
棚に並べられていると果物らしきものを手に取ると恐る恐る観察してみる。
オレンジ色の球体。
カリカリとひっかいてみると皮が捲れた。
柑橘を帯びた香りが鼻孔を擽ると、胸がじわっと温かくなる。
俺はこれを知っている。
これはネーブルという果物だ。
俺はこれが好きだった。
見たこともないはずなのに……どうしてそう思うのだろうか?
ガタンッと大きな音が後方かた響く。
反射的に振り返ると、閉まっていたはずの扉が開いていた。
その先に浮かび上がる人影。
鼓動が急にドクドクと高鳴る。
この動機の正体はわからない、けれど嫌な感じでない。
目を凝らしその人影を眺めていると、急に視界が暗転した。
ハッと目覚めると、目の前に映ったのはよく知る自室の天井。
のっそり体を起こすと、先ほどの夢が鮮明に思い出される。
あれは何だったのか、音や感覚があまりにリアルだった。
俺は先ほどネーブルを握りしめていた手を見つめると、爪先に何かが引っかかっている。
爪で弾き取り出してみると、オレンジ色の破片。
そっと鼻を近づけてみると、柑橘系の匂いが広がった。
これは……どういうことだ……。
あの世界は現実……いや、ありえない。
知らないはずの部屋、知らない場所、あの扉の先に居たのは……?
浮かび上がったシルエットを思い出すと、なぜか胸が熱くなったのだった。
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大変長らくお待たせしました!
最終章スタートです(*ノωノ)
最後までお付き合い頂けるよう頑張りますm(__)m
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