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第一章
最後の召喚:前編
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はぁ……はぁ、はぁ、……私はどうしてここにいるの……?
もうここには来るつもりはなかったのに……。
どうして……どうしてなのよ!!
私は薄暗い森の中を訳も分からず、只々ひたすらに走っていた。
見渡す限りの鬱蒼とした森の中、右も左もわからぬまま、私は後方に浮かぶ西洋風の豪華な白い城から離れるのに必死だった。
あそこには私を呼べと命令したこの国の王子や……。
私をこの世界に連れてきた、魔法使い……。
さらに王に仕える騎士、王宮専属の医者……。
彼らとの出会いに、良い物が一つもない。
もう出会いたくないわ……。
私は森の奥へ奥へと人里から離れるように駆け抜ける中、ようやく後方にでかでかと大きくそびえ立っていた城が森に隠れた。
その事に私はほっと胸をなでおろす中、薄暗い森の中には、まん丸な黄金色丸い大きな月が浮かんでいた。
そのまま森の中を彷徨い歩き、次第に夜が深まり始めると、肌寒い風が森の中を吹き抜ける。
私は寒さにブルッと体を震えさせると、ゆっくりと足を進めた。
あの医者に抱かれて……家に戻って……、体調は幾分良くなっていた。
確か正午だった気がする……。
そのまま起きて、部屋に何もなかったから買い物に行って……
それからどうしたんだっけ……。
家を出てからの記憶が抜け落ちているのか、いくら考えても思い出すことができない。
それで次に気が付いた時には……この森の中に居た……。
よくわからない現状に頭を抱える中、ふと医者から聞いた言葉が頭をよぎる。
(後一人別の誰かに抱かれたら、元の世界へは戻れなくなる)
彼が言ったことが本当なら……もう誰にも抱かれてはいけない……。
でも帰る為には、誰かに抱かれないといけない。
確か……別の誰かと言っていたから、同じ人なら大丈夫なのかな?
いやいや、誰にも抱かれたくない!
なら別の帰る方法を探し出さないと……。
土を踏みしめながら、これからどうするべきかをあれやこれや考え込んでいると、次第に視界は悪くなり、気温もどんどん下がってくる。
どれぐらい歩いただろうか……歩けど歩けど森が続く。
そんな絶望な光景に私はそっと立ち止まると、腹の虫が小さく鳴いた。
お腹すいた……、それに寒い……。
どんどん重くなる脚をなんとか引きずっていると、真っ暗な暗闇の中、真っ赤に輝く二つの何かが、突然目の前に現れた。
立ち止まりじっと目を凝らしてみてみると、そこには……こちらを威嚇するように睨みつける、獣姿があった。
月明かりに照らされた獣の姿は狼のような姿で、毛は絹の様に白く、口もとには鋭い大きな牙が光る。
私はその姿を目の当たりにし、体を硬直させる中、なぜか紅の瞳から目を逸らせることができない。
獣の姿に自然とガクガクと脚が震えていく。
私は動くことも出来ずに、その場に立ち尽くしていた。
ゆっくりと、その獣は私との距離を詰める。
獣は思っていた以上に大きく、シルクのような滑らかな毛並に、長い尻尾が静かに揺れている。
私は地面に縫い付けられたようにその場に固まっていると、その獣はクンクンと私へと鼻を寄せた。
その様子に私はビクッと体を震わせると、獣はグルルルルル……と低くうなり声を上げる。
ひぃっ……逃げる……いや……逃げ切れる気がしない。
獣だし……どうするべきかしら……。
恐怖で激しくなる鼓動を気合で落ち着かせようとするも、獣は大きな口を開き私を威嚇する。
こっ……怖い……。
私はあまりの恐怖に足の力が抜けると、その場にへたり込んだ。
獣は私の様子に紅の瞳をじっと向けると、見定めるように、私の周りを歩き始める。
「……私を食べても……美味しくない……よ……たぶん……」
そうたどたどしく口にすると、獣は動きを止め、私の前に顔をよせた。
すると獣はペロリと舌を出したかと思うと、私の頬を優しく舐める。
突然の事に私は狼狽する中、獣は私に頭を擦り付けるように甘え始める。
そんな獣の様子に、私は恐る恐る獣の体へ手を伸ばしてみると、獣は気持ちよさそうに目を細めた。
よかった……。
緊張が途切れたためか、私の腹の虫が大きな音を鳴らすと、獣は驚いたように私を見下ろす。
どっ……どうしてこのタイミングで……。
恥ずかしさのあまり、私は顔を真っ赤に俯いていると、獣は私の隣で向け伏せのポーズをとった。
そっと顔を上げると、獣は首を傾けながら、背中にのれと言うように鼻でツンツンと私をつつく。
「……のせてくれるの……?」
言葉が通じないだろうと思いながらもそう口にすると、獣は鼻先を縦に振った。
それはまるで人間が頷くような素振りに、私は恐る恐る立ち上がると、そっと彼の背跨った。
その瞬間、獣の体が大きく動き、鼻先で私を押すと、彼はすごい速さで走り始める。
はっ……早すぎ!!!
私は死に物狂いで、白く滑らかな毛にしがみ付くと、獣はまた速度を上げていった。
ひぇぇぇぇぇぇ!!!!
絶叫マシーンに乗った気持ちで強く目を閉じていると、冷たい風が私の周りを駆け抜けていく。
それぐらいそうしていただろうか……ふと獣のスピードがゆっくりになっていった。
そうして獣の動きが静止すると、私はゆっくりと目を開けた。
目の前に映ったのは月明かりに照らされ、神秘的な雰囲気を醸し出す、エメラルドグリーンに輝いた美しい湖だった。
徐に獣の背から下りると、キラキラと光る湖に足を向ける。
「綺麗……」
そうボソリと呟くと、獣はまたゆっくりと足を進める。
その様子に私も獣の後を追うと、湖の奥に大きな洞窟が見えた。
そのまま泉の奥にある洞窟の中へ進んでいくと、中は温かく、心地よい広い空間だった。
外から水音が響く中、空間には草が敷き詰められた寝床のような物のほかに、木の実ようなものが積み上げられている。
私は徐に獣へと近づいていくと、そっと獣の背中を優しく撫でる。
すると獣は木の実の山に鼻を寄せると、真っ赤なリンゴのような物を咥え、私の前へと差し出した。
「くれるの……?」
獣はグルルと唸ると、そっとリンゴを私の手平に乗せた。
私は臭を嗅ぎそっとかぶりついてみると、微かな酸味に、甘酸っぱい果汁が口の中へ広がっていく。
なにこれ……美味しい!
私はもう一口かぶりつき……気がつけば果実は無くなっていた。
徐に顔を上げ、獣へ視線を向けると、私はありがとう、と微笑みかける。
獣はそんな私の様子にまた赤い果実を運んでくると、私の周りには果実でいっぱいになってしまった。
「あの……大丈夫よ。もうお腹いっぱいなの。色々ありがとう」
その言葉に獣は動きを止めると、尻尾が力なく下がった。
その様子に私は小さく笑うと、獣は私を囲うように腰を下ろす。
私は獣の温かい肌に体を預けると、疲れていた為か……自然と瞼が重くなっていく。
毛並みを撫でながら、ウトウトをしていると、いつの間にか私は深い眠りについていた。
ふと目を覚ますと、洞窟には獣の姿は見当たらない。
私はゆっくりと体を持ち上げると、洞窟に人の足音のような音が耳に届く。
その音に私はすぐに立ち上がると、遠くに人影が写った。
逆光の為顔は見えないが……背格好を見る限り男のようだ。
私は人影から離れるように、洞窟の奥へ奥へと駆けだしていった。
嫌、嫌……来ないで……!!!
そう願うも……足音はどんどん大きくなってくる。
私は振り返ることなく逃げ続けていると、目の前に大きな川が現れた。
そこで立ち往生していると、すぐ近くまで足音が迫ってきている。
意を決して足を水につけてみると、あまりの冷たさに泣きそうになった。
つ……冷たい……、でもこのままじゃ……!
私は意を決し、大きく深呼吸すると、川の奥へと進み始める。
「ダメだ、待て!!」
後ろから聞こえる男の声を無視すると、私は胸下ほどまで水に浸かっていた。
凍えるような水温に、手足の感覚がなくなっていく。
それでも私は歩き続けた。
すると突然、後ろから男の逞しい腕に囚われると、ゾクゾクと悪寒が走る。
私はその手を外そうと、必死に水の中をもがく。
「いやっ、離して!!!もう嫌なの!!!、この世界で男に捕まると碌な事がないんだから!!!」
私が暴れれば暴れるほど、その腕は強く私を捕まえる。
このまま捕まるぐらいなら……。
私は男の腕に強く爪を立てると、一瞬男の腕の力が弱くなった。
その隙に私は男の腕から離れ、川の中へ足を踏み出すと、私の体が思った以上に川の中に沈んでいく。
うそっ!急に深く……。
冷たい水温に限界を感じていた私は、水の流れに抗う事も出来ず、そのまま意識を手放した。
もうここには来るつもりはなかったのに……。
どうして……どうしてなのよ!!
私は薄暗い森の中を訳も分からず、只々ひたすらに走っていた。
見渡す限りの鬱蒼とした森の中、右も左もわからぬまま、私は後方に浮かぶ西洋風の豪華な白い城から離れるのに必死だった。
あそこには私を呼べと命令したこの国の王子や……。
私をこの世界に連れてきた、魔法使い……。
さらに王に仕える騎士、王宮専属の医者……。
彼らとの出会いに、良い物が一つもない。
もう出会いたくないわ……。
私は森の奥へ奥へと人里から離れるように駆け抜ける中、ようやく後方にでかでかと大きくそびえ立っていた城が森に隠れた。
その事に私はほっと胸をなでおろす中、薄暗い森の中には、まん丸な黄金色丸い大きな月が浮かんでいた。
そのまま森の中を彷徨い歩き、次第に夜が深まり始めると、肌寒い風が森の中を吹き抜ける。
私は寒さにブルッと体を震えさせると、ゆっくりと足を進めた。
あの医者に抱かれて……家に戻って……、体調は幾分良くなっていた。
確か正午だった気がする……。
そのまま起きて、部屋に何もなかったから買い物に行って……
それからどうしたんだっけ……。
家を出てからの記憶が抜け落ちているのか、いくら考えても思い出すことができない。
それで次に気が付いた時には……この森の中に居た……。
よくわからない現状に頭を抱える中、ふと医者から聞いた言葉が頭をよぎる。
(後一人別の誰かに抱かれたら、元の世界へは戻れなくなる)
彼が言ったことが本当なら……もう誰にも抱かれてはいけない……。
でも帰る為には、誰かに抱かれないといけない。
確か……別の誰かと言っていたから、同じ人なら大丈夫なのかな?
いやいや、誰にも抱かれたくない!
なら別の帰る方法を探し出さないと……。
土を踏みしめながら、これからどうするべきかをあれやこれや考え込んでいると、次第に視界は悪くなり、気温もどんどん下がってくる。
どれぐらい歩いただろうか……歩けど歩けど森が続く。
そんな絶望な光景に私はそっと立ち止まると、腹の虫が小さく鳴いた。
お腹すいた……、それに寒い……。
どんどん重くなる脚をなんとか引きずっていると、真っ暗な暗闇の中、真っ赤に輝く二つの何かが、突然目の前に現れた。
立ち止まりじっと目を凝らしてみてみると、そこには……こちらを威嚇するように睨みつける、獣姿があった。
月明かりに照らされた獣の姿は狼のような姿で、毛は絹の様に白く、口もとには鋭い大きな牙が光る。
私はその姿を目の当たりにし、体を硬直させる中、なぜか紅の瞳から目を逸らせることができない。
獣の姿に自然とガクガクと脚が震えていく。
私は動くことも出来ずに、その場に立ち尽くしていた。
ゆっくりと、その獣は私との距離を詰める。
獣は思っていた以上に大きく、シルクのような滑らかな毛並に、長い尻尾が静かに揺れている。
私は地面に縫い付けられたようにその場に固まっていると、その獣はクンクンと私へと鼻を寄せた。
その様子に私はビクッと体を震わせると、獣はグルルルルル……と低くうなり声を上げる。
ひぃっ……逃げる……いや……逃げ切れる気がしない。
獣だし……どうするべきかしら……。
恐怖で激しくなる鼓動を気合で落ち着かせようとするも、獣は大きな口を開き私を威嚇する。
こっ……怖い……。
私はあまりの恐怖に足の力が抜けると、その場にへたり込んだ。
獣は私の様子に紅の瞳をじっと向けると、見定めるように、私の周りを歩き始める。
「……私を食べても……美味しくない……よ……たぶん……」
そうたどたどしく口にすると、獣は動きを止め、私の前に顔をよせた。
すると獣はペロリと舌を出したかと思うと、私の頬を優しく舐める。
突然の事に私は狼狽する中、獣は私に頭を擦り付けるように甘え始める。
そんな獣の様子に、私は恐る恐る獣の体へ手を伸ばしてみると、獣は気持ちよさそうに目を細めた。
よかった……。
緊張が途切れたためか、私の腹の虫が大きな音を鳴らすと、獣は驚いたように私を見下ろす。
どっ……どうしてこのタイミングで……。
恥ずかしさのあまり、私は顔を真っ赤に俯いていると、獣は私の隣で向け伏せのポーズをとった。
そっと顔を上げると、獣は首を傾けながら、背中にのれと言うように鼻でツンツンと私をつつく。
「……のせてくれるの……?」
言葉が通じないだろうと思いながらもそう口にすると、獣は鼻先を縦に振った。
それはまるで人間が頷くような素振りに、私は恐る恐る立ち上がると、そっと彼の背跨った。
その瞬間、獣の体が大きく動き、鼻先で私を押すと、彼はすごい速さで走り始める。
はっ……早すぎ!!!
私は死に物狂いで、白く滑らかな毛にしがみ付くと、獣はまた速度を上げていった。
ひぇぇぇぇぇぇ!!!!
絶叫マシーンに乗った気持ちで強く目を閉じていると、冷たい風が私の周りを駆け抜けていく。
それぐらいそうしていただろうか……ふと獣のスピードがゆっくりになっていった。
そうして獣の動きが静止すると、私はゆっくりと目を開けた。
目の前に映ったのは月明かりに照らされ、神秘的な雰囲気を醸し出す、エメラルドグリーンに輝いた美しい湖だった。
徐に獣の背から下りると、キラキラと光る湖に足を向ける。
「綺麗……」
そうボソリと呟くと、獣はまたゆっくりと足を進める。
その様子に私も獣の後を追うと、湖の奥に大きな洞窟が見えた。
そのまま泉の奥にある洞窟の中へ進んでいくと、中は温かく、心地よい広い空間だった。
外から水音が響く中、空間には草が敷き詰められた寝床のような物のほかに、木の実ようなものが積み上げられている。
私は徐に獣へと近づいていくと、そっと獣の背中を優しく撫でる。
すると獣は木の実の山に鼻を寄せると、真っ赤なリンゴのような物を咥え、私の前へと差し出した。
「くれるの……?」
獣はグルルと唸ると、そっとリンゴを私の手平に乗せた。
私は臭を嗅ぎそっとかぶりついてみると、微かな酸味に、甘酸っぱい果汁が口の中へ広がっていく。
なにこれ……美味しい!
私はもう一口かぶりつき……気がつけば果実は無くなっていた。
徐に顔を上げ、獣へ視線を向けると、私はありがとう、と微笑みかける。
獣はそんな私の様子にまた赤い果実を運んでくると、私の周りには果実でいっぱいになってしまった。
「あの……大丈夫よ。もうお腹いっぱいなの。色々ありがとう」
その言葉に獣は動きを止めると、尻尾が力なく下がった。
その様子に私は小さく笑うと、獣は私を囲うように腰を下ろす。
私は獣の温かい肌に体を預けると、疲れていた為か……自然と瞼が重くなっていく。
毛並みを撫でながら、ウトウトをしていると、いつの間にか私は深い眠りについていた。
ふと目を覚ますと、洞窟には獣の姿は見当たらない。
私はゆっくりと体を持ち上げると、洞窟に人の足音のような音が耳に届く。
その音に私はすぐに立ち上がると、遠くに人影が写った。
逆光の為顔は見えないが……背格好を見る限り男のようだ。
私は人影から離れるように、洞窟の奥へ奥へと駆けだしていった。
嫌、嫌……来ないで……!!!
そう願うも……足音はどんどん大きくなってくる。
私は振り返ることなく逃げ続けていると、目の前に大きな川が現れた。
そこで立ち往生していると、すぐ近くまで足音が迫ってきている。
意を決して足を水につけてみると、あまりの冷たさに泣きそうになった。
つ……冷たい……、でもこのままじゃ……!
私は意を決し、大きく深呼吸すると、川の奥へと進み始める。
「ダメだ、待て!!」
後ろから聞こえる男の声を無視すると、私は胸下ほどまで水に浸かっていた。
凍えるような水温に、手足の感覚がなくなっていく。
それでも私は歩き続けた。
すると突然、後ろから男の逞しい腕に囚われると、ゾクゾクと悪寒が走る。
私はその手を外そうと、必死に水の中をもがく。
「いやっ、離して!!!もう嫌なの!!!、この世界で男に捕まると碌な事がないんだから!!!」
私が暴れれば暴れるほど、その腕は強く私を捕まえる。
このまま捕まるぐらいなら……。
私は男の腕に強く爪を立てると、一瞬男の腕の力が弱くなった。
その隙に私は男の腕から離れ、川の中へ足を踏み出すと、私の体が思った以上に川の中に沈んでいく。
うそっ!急に深く……。
冷たい水温に限界を感じていた私は、水の流れに抗う事も出来ず、そのまま意識を手放した。
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