[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第一章

閑話・彼女が消えた世界4

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彼女の姿が目の前から消えると、俺は焦燥感に苛まれる。
あぁ……、抱くつもりはなかった……。
魔導師の嘲笑う笑みが頭をよぎると、俺は小さく舌打ちを鳴らした。
あいつの思い通りに動いてやる気は、さらさらなかったんだがな……。
彼女のねだる姿に……自分の欲望が抑えられなくなった。
普段の俺なら考えられねぇ……。
俺は頭を抱える中、もういない彼女の姿を、追い求めるかのように、徐に手を伸ばす。
先程の彼女の姿が何度も脳裏にちらつく中、もう一度彼女に触れたいとの思いがこみあがってきた。
はぁ……異世界の女は違うのか……こんなにも焦がれる想いを感じるのは初めてだ……。

これでも俺は公爵家の長男だ。
王族とも強いつながりを持つため、この世界に女が少ないと言えど、擦り寄ってくる女は後を絶たない。
立場上……女を抱くのは初めてではないが……もう一度抱きたいと思った事は今まで一度もなかった。
もう一度彼女に触れたい……。
そんな想いに俺は深く息をはくと、彼女の姿を振り払うように、小さく首を横へと振った。
ダメだ……、彼女自身この世界に生きる事を望んでいない……。
そんな彼女を無理矢理、この世界に留めても仕方がないだろう。

はぁ、俺にあいつの召喚魔法を、止めるすべがあればいいのだが……。
残念な事に、俺にはそんな技術は持ち合わせていない。
魔力量は一般的な魔導士よりも多いが……俺は治癒魔法以外はからきしだめだった。

召喚魔法はごく一部の魔導師にしか伝承されない特別な力。
壮大な魔力を必要とし、発動させるにはセンスが必要だ。
あいつの魔力量なら……次は一週間後ぐらいに召喚魔法を使えるだろう……。
くそっ、言っても無駄だろうが……。
俺は徐にベッドから下りると、湯あみへと足を向ける。
冷たい水を頭から一気にかぶり冷静さを取り戻すと、俺は外出用の服に着替え魔導士の元へと向かった。


そうして魔導師の部屋の前につくと、ドンドンドンと扉を強く叩く。
ゆっくりと扉が開いていくと、目の前には深い笑みを浮かべた魔導士が佇んでいた。

「ふふ、抱いたようですね」

勝ち誇ったような笑みに、俺はガリガリと頭をかく中、気まずに魔導士へ視線を向ける。

「エヴァン、もう召喚するのはやめてやれ。彼女自身この世界に留まることを望んでいない」

「っっ……そんな事は承知の上です」

魔導師はスッと目を細めると、つまらなさそうに俺に視線を向けた。

「彼女を抱いたくせに、良くそんな事を言えますね。……あなたも彼女に魅了されたんでしょ?」

「あぁ……だが、彼女は彼女の生きる場所がある。俺たちの勝手で、変えることは許されないだろう」

その言葉に魔導師は不貞腐れた様子を見せると、俺から視線を逸らせた。
俺はそんな魔導士に詰め寄るように、一歩前へ進み出ると言い聞かせるように口を開く。

「召喚魔法はもう使うな。後一人だろう……?彼女が次にこの世界に来た時……別の男に抱かれれば、もう帰れなくなるんだ」

「……何を言われようが、私は召喚を辞めるつもりはありませんよ。話は終わりです……出て行ってください」

魔導師は素っ気ない態度を見せると、俺の体を突き飛ばし、部屋から追い出していく。

「おぃっ!聞け!!!無理矢理に彼女をここに留めても、彼女には他に想い続けている相手がいるんだ!!」

自分で言葉にしたくせに、先ほど彼女の想いが頭をよぎると、胸が締め付けられるように苦しくなる。
俺は痛む胸をおさえる中、追い出そうとする魔導士を睨みつけた。

「わかってます……だからこそ私は……」

魔導師の言葉を最後まで聞く前に、俺は部屋から追い出されると、目の前の扉が勢いよく閉まった。

はぁ、やはり無理か……。
彼女は向こうの世界で想い人がいる。
そんな彼女をこの世界に留めても意味などないとわかるはずだ。
一体、あいつは何を企んでいる……?
俺は閉じた扉を呆然と眺める中、深いため息を吐くと、マントを翻し部屋の前から立ち去った。

***********

一人になった部屋で魔導士は、深く椅子へと腰かけていた。
思い悩むような表情を浮かべると、ボソボソと言葉をこぼした。

「言われなくてもわかっています……只、彼女には、まだ話すことはできない…」

そうこちると椅子へ体を預け、魔導士は机の上に置かれた、古びた本をパラパラとめくっていく。
ズラッと魔術の事が書きなぐられた本の最後のページには、美しいまん丸な月が描かれていた。

「次で最後。次呼び出すのは、満月の日だな……。あと一人は決まっている……早く魔力を回復させないと……」

魔導師はそっと瞼を閉じると、深く息を吐きそのまま眠りについた。
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