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第三章
旅の始まり④
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薄暗い部屋の中、呆然と天井を見上げていると、私はこれからの事について考えていた。
明日は朝一番にここを出て、森へ行ってみましょう。
タクミが魔法を使うまで、後二日。
きっとタクミは明日……セーフィロへ紙を拾った事を報告するはずだわ。
そうして22日に……時空移転魔法を使う……。
だから明日魔女の元へ行って、翌日戻って来られれば、問題ない。
魔女の屋敷までの道のりなら、半日あれば余裕。
ネイトの様に早くは進めないが……風魔法で体を運べば休憩も必要ないし、楽勝でしょう。
後は森の中で妖魔を見つけて、屋敷へ案内させるだけね……。
そういえば……魔女は確か、私に助けられたって言っていたわね……。
私は何をして魔女を助けたのかしら……?
あれやこれやと考えが定まらない中、徐に体を起こしシーツの上へ座り込むと、深く息を吐きだした。
はぁ……考えるのはやめよう……とりあえず疲れたわ……。
私は怠惰に立ち上がると、窓際へと向かいカーテンへと手を伸ばす。
窓越しに見上げた空は深い藍色に染まり、澄みきった夜空にはキラキラと幾つもの星が輝いていた。
ふと目線を落とすと、宿屋の外にはガラの悪そうな連中が集まっていた。
酒を片手にゲスな笑いを浮かべながら道行く女に声をかける男や、道端に置いてあるゴミを漁る姿。
少し離れたところでは、怒号が飛び交い、男達が殴り合いの喧嘩を始めている。
治安が悪いと言っていたのは、本当なのね……。
まぁ、もう明日の朝まで外に出ることもないでしょうから関係ないけれど……。
そんな事を思いながらゆっくりとカーテンを引いていると、ふと破落戸の中に知った顔が目に飛び込んできた。
私は咄嗟に窓際から体を離すと、外に気が付かれないよう、静かに覗き込こんだ。
すると数人の男たちが私の部屋を指さし、何かコソコソと話をしている姿が目に映る。
あの人……。
隙間からだとはっきり断定できない為、私はそっと窓際へ立つと、さりげなく窓を大きく開け放つ。
顔を下げない様に気をつけながら、そっと目線だけを落とすと、窓の下にはあの骨董店の店主の姿がはっきりと確認できた。
先ほど見た営業スマイルとは違う……何かを企むような様子に、私はすぐに窓を閉めた。
……怪しいわね……。
そのままサッとカーテンを引くと、布の隙間から彼らに気が付かれないように、慎重に外を覗き込む。
すると骨董店の店主の周りには、数人のガタイの良い男たちが集まり始めた。
悪だくみをしている様子で、コソコソと男達と何かを話したかとおもうと、骨董品の店主は男をひきつれたまま、宿屋の入口は潜っていく。
なに……あぁ……もしかしてあの宝石を売った事で目をつけられたのかしら?
でも……こうならないように地味なネックレスを選んだのに……。
あっ、それとも……50金貨を取り戻しに来た可能性もあるわね……。
女相手なら男数人引き連れて行けば余裕だ、とでも思っているのかしら……。
私はスッと窓から体を離し瞼を閉じると、体に廻る魔力の流れを感じながら、防御魔法で自分自身を覆っていく。
大丈夫そうね……魔力は十二分にあるわ。
ローブの中に、魔力の玉が後5つ……それに小さい魔力玉の予備もある。
来るなら来なさい……返り討ちにしてやるわ。
私はすぐに扉へと向かうと、廊下の様子を覗う様に耳をそばだてた。
コツコツと人の足音が聞こえ始めると、手に魔力を集中させていく。
次第に足音が大きくなって来たかと思うと、私の扉の前でピタッと止んだ。
緊張が高まる中、私は慎重に扉から体を離した瞬間、トントンと軽いノックの音が部屋に響く。
私は深く息を吸い込むと、はいっ、と冷静さを装いながら返事をかえした。
「夕食をもって来たわ」
はぁ……何だ……受付の女の人ね……。
私はそっと扉を開けると、目の前には綺麗な笑みを浮かべた女性が、夕食を手に佇んでいた。
「すみません、ありがとうございます」
私が夕食を受け取ろうとした瞬間、女性は押しかけるように部屋の中へ体を入れる。
「えっ、あの……外で大丈夫です」
「ちょっと来なさい……」
女性はそのまま部屋の中へズカズカ入ってくると、バタンッと勢いよく扉を閉める。
状況が読めない中、私はそっと顔を向けると、彼女はなぜか難しい表情をしていた。
「あなた……一体何をしたの?この辺りを仕切っている男が、今あなたを探しに来ているわよ」
あの外から見えた屈強な男の事かしら……。
私は女将の言葉に何も答えぬまま、じっと考え込んでいると、ドンドンと扉が強く叩かれた。
「おい、ダレル。さっさと開けろ」
ドスの聞いた低い声に彼女はビクッと大きく肩を跳ねさせると、申し訳なさそうに顔を歪める。
「ごめんなさいね……ここで商売している以上……彼には逆らえないわ……」
女性はそっと扉の方は歩いて行くと、震える手でドアノブを回す。
扉の隙間から薄っすらと外の光が差し込む中、その先には顔に傷の入った厳つい男が、鋭い真っ青な瞳でこちらをじっと見据えていた。
明日は朝一番にここを出て、森へ行ってみましょう。
タクミが魔法を使うまで、後二日。
きっとタクミは明日……セーフィロへ紙を拾った事を報告するはずだわ。
そうして22日に……時空移転魔法を使う……。
だから明日魔女の元へ行って、翌日戻って来られれば、問題ない。
魔女の屋敷までの道のりなら、半日あれば余裕。
ネイトの様に早くは進めないが……風魔法で体を運べば休憩も必要ないし、楽勝でしょう。
後は森の中で妖魔を見つけて、屋敷へ案内させるだけね……。
そういえば……魔女は確か、私に助けられたって言っていたわね……。
私は何をして魔女を助けたのかしら……?
あれやこれやと考えが定まらない中、徐に体を起こしシーツの上へ座り込むと、深く息を吐きだした。
はぁ……考えるのはやめよう……とりあえず疲れたわ……。
私は怠惰に立ち上がると、窓際へと向かいカーテンへと手を伸ばす。
窓越しに見上げた空は深い藍色に染まり、澄みきった夜空にはキラキラと幾つもの星が輝いていた。
ふと目線を落とすと、宿屋の外にはガラの悪そうな連中が集まっていた。
酒を片手にゲスな笑いを浮かべながら道行く女に声をかける男や、道端に置いてあるゴミを漁る姿。
少し離れたところでは、怒号が飛び交い、男達が殴り合いの喧嘩を始めている。
治安が悪いと言っていたのは、本当なのね……。
まぁ、もう明日の朝まで外に出ることもないでしょうから関係ないけれど……。
そんな事を思いながらゆっくりとカーテンを引いていると、ふと破落戸の中に知った顔が目に飛び込んできた。
私は咄嗟に窓際から体を離すと、外に気が付かれないよう、静かに覗き込こんだ。
すると数人の男たちが私の部屋を指さし、何かコソコソと話をしている姿が目に映る。
あの人……。
隙間からだとはっきり断定できない為、私はそっと窓際へ立つと、さりげなく窓を大きく開け放つ。
顔を下げない様に気をつけながら、そっと目線だけを落とすと、窓の下にはあの骨董店の店主の姿がはっきりと確認できた。
先ほど見た営業スマイルとは違う……何かを企むような様子に、私はすぐに窓を閉めた。
……怪しいわね……。
そのままサッとカーテンを引くと、布の隙間から彼らに気が付かれないように、慎重に外を覗き込む。
すると骨董店の店主の周りには、数人のガタイの良い男たちが集まり始めた。
悪だくみをしている様子で、コソコソと男達と何かを話したかとおもうと、骨董品の店主は男をひきつれたまま、宿屋の入口は潜っていく。
なに……あぁ……もしかしてあの宝石を売った事で目をつけられたのかしら?
でも……こうならないように地味なネックレスを選んだのに……。
あっ、それとも……50金貨を取り戻しに来た可能性もあるわね……。
女相手なら男数人引き連れて行けば余裕だ、とでも思っているのかしら……。
私はスッと窓から体を離し瞼を閉じると、体に廻る魔力の流れを感じながら、防御魔法で自分自身を覆っていく。
大丈夫そうね……魔力は十二分にあるわ。
ローブの中に、魔力の玉が後5つ……それに小さい魔力玉の予備もある。
来るなら来なさい……返り討ちにしてやるわ。
私はすぐに扉へと向かうと、廊下の様子を覗う様に耳をそばだてた。
コツコツと人の足音が聞こえ始めると、手に魔力を集中させていく。
次第に足音が大きくなって来たかと思うと、私の扉の前でピタッと止んだ。
緊張が高まる中、私は慎重に扉から体を離した瞬間、トントンと軽いノックの音が部屋に響く。
私は深く息を吸い込むと、はいっ、と冷静さを装いながら返事をかえした。
「夕食をもって来たわ」
はぁ……何だ……受付の女の人ね……。
私はそっと扉を開けると、目の前には綺麗な笑みを浮かべた女性が、夕食を手に佇んでいた。
「すみません、ありがとうございます」
私が夕食を受け取ろうとした瞬間、女性は押しかけるように部屋の中へ体を入れる。
「えっ、あの……外で大丈夫です」
「ちょっと来なさい……」
女性はそのまま部屋の中へズカズカ入ってくると、バタンッと勢いよく扉を閉める。
状況が読めない中、私はそっと顔を向けると、彼女はなぜか難しい表情をしていた。
「あなた……一体何をしたの?この辺りを仕切っている男が、今あなたを探しに来ているわよ」
あの外から見えた屈強な男の事かしら……。
私は女将の言葉に何も答えぬまま、じっと考え込んでいると、ドンドンと扉が強く叩かれた。
「おい、ダレル。さっさと開けろ」
ドスの聞いた低い声に彼女はビクッと大きく肩を跳ねさせると、申し訳なさそうに顔を歪める。
「ごめんなさいね……ここで商売している以上……彼には逆らえないわ……」
女性はそっと扉の方は歩いて行くと、震える手でドアノブを回す。
扉の隙間から薄っすらと外の光が差し込む中、その先には顔に傷の入った厳つい男が、鋭い真っ青な瞳でこちらをじっと見据えていた。
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