[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第三章

閑話:過去の世界で3:後編1

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その後も街へ赴くと、度々彼と出会い、一緒に過ごすことが多くなっていった。
ある時どうしていつも屋台前に立っているのかを聞いてみると、彼はいつ来るかわからない私を訓練の合間を見ては、毎日あそこで待っていると話した。
そんな健気な彼の様子に、私は街へ行く際は、彼が暮らす宿舎へと向かうようになった。

それはまるで男女の逢瀬のようだ。
魔女には、はっきりとした性別がない為、こういった事も人間でしか味わう事は出来ない。
彼と一緒に居るのはとても楽しい。
彼といれば、私が人になってしたかった事を全て出来るから。

一緒に食事をしたり、お買い物をしたり、笑いあったり、そして体をつなげたり……。
彼とは相性が良いのか……はたまた彼女の体が敏感なだけなのかは定かではないが、とりあえず彼とのセックスは最高だった。
最初はぎこちなかった彼だが、今では私の気持ちいい場所を全て把握している。
彼は本当に私にとって、とっても都合のいい人間だった。

ある日彼の訓練場をこっそり覗いた事があるが、彼は宿舎の中では負けなしの期待の新人だと噂されていた。
それを彼に伝えてみると、彼はゆでだこのように顔を真っ赤にして照れる姿がとても可愛らしいかったわ。

そうやって彼と過ごす時間が長くなっていくにつれて、次第に離れがたくなっていく。
だが私は人ではない。
彼女が戻ればそれで終わり。
こればっかりどうする事も出来ない。
だがこれ以上傍に居ることはダメだと分かっていても、人間としての楽しい生活から、なかなか抜け出すことは出来なかった。


そうしてあっという間に4ヶ月がすぎ、屋敷へ戻り水晶玉を覗き込んでみると、彼女はまだ出てくる気配はない。
もう少しかかりそうねぇ……。
今日も遊び惚けスッキリした体を大きく伸ばしてみると、コキコキと首を鳴らして見せる。
それにしてもこの体は、感度が抜群ねぇ~。
これは魔女では味わえないわ~。
でもそろそろ人間の世界から離れておかないとね。
彼女のが戻ってくれば、私はこの姿になることは出来ないのだから。

そう思うと、ブレイクの顔が頭をよぎる。
彼には可哀そうだけれど……しょうがないわ。
彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど、きっと彼は私を好きなのだろうという事は、彼の態度から伝わってくる。
それにはっきりと答えず、ずるずるとこの関係を続けていたが、そろそろ潮時だろう。

翌朝私は人として街へ向かうと、通いなれた彼の宿舎へと足を向ける。
会ってお別れを言いたいところだけれど、それだときっとまたずるずる離れられなくなりそうだわ。
だって彼の体は、とっても魅力的なんですもの。
そう思うと私は宿舎の入口にいた、騎士の服装をした彼と同じぐらい少年に声をかけた。

「ちょっといいかしら?ブレイクに伝えて欲しいことがあるのよ」

そうニッコリ笑みを浮かべると、男は慌てた様子で宿舎へと戻ろうとする。
その男の様子に慌てて引き留めると、彼は驚いた様子でこちらへと振り向いた。

「……どういった内容でしょうか?」

「ふふっ、そんなに緊張しなくてもいいわ。ただもう会えないと伝えて欲しいの。じゃ、よろしくね」

「えっ、ちょっとそれは……」

私はサッと男の前から離れると、後方から引き留める声が聞こえる。
だが私はその声に振り返ることなく人込みへ紛れ込むと、そのまま屋敷へと戻っていった。


屋敷へ戻り私はドサッとソファの上へ座り込むと、窓から見える大きな木になった果実を魔法で引き寄せ、そのままかぶりついた。
シャリシャリとした触感の中、果実独特の苦さと、甘酸っぱさが舌を刺激していく。
やっぱり人間の作る料理の方が、数段美味しいわねぇ~。
彼に連れて行ってもったお店はどこも絶品だったわ。
懐かしむ思いで人間世界を思い出す中、ベッドへ横たわる魔女の姿に目を向けると、そこにはいくつもの小さな光が浮かび上がっていた。

白い光は、生き物の声。
赤い光は、太陽の声。
青い光は、海の声。
緑の光は、植物の声。
黄緑の光は、風の声。
黄の光は、月の声。
橙の光は、土の声。
闇の光は、月の声。

意識のない私の周りをグルグルと周回する光に深く息を吐きだすと、そっと立ち上がる。
はぁ……そろそろ魔女の本来の仕事へ戻らないといけないわねぇ。
これだけ声を無視し続けていると、そろそろ世界に怒られそうだわ。
私は名残惜しい気持ちで彼女の体から抜けると、自分の体へと戻っていった。

慣れ親しんだ魔女の体に戻ると、私は静かに魔力を練っていく。
人とは違う、敏感になった聴覚で辺りの音に耳を澄ませていくと風や植物、土……ありとあらゆる声が耳に届く。
そうして私は世界を管理する者としての仕事に戻ると、今起こっている世界の情勢へ耳を傾けていった。

さぼっていたつけは膨大で、溜まりに溜まった仕事は、すぐには処理しきれない。
私は彼女の体を管理しながら、暫く屋敷の中へ引きこもる生活が続いていた。
一日に一回彼女の体へ入り、食事と水分を補給する。
そんな生活が続く中、2ヶ月過ぎようやく仕事がひと段落付き始める。
そのことにほっと胸をなでおろす中、徐に水晶玉を覗き込むと、水面に微かな光が浮かび上がっていた。
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