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序章.始まりの前奏曲
31.母の布石
真夜中の時間、静かな夜に星を眺めながらお茶を飲みながらも真向かいに座るお兄様に私は表情を崩すことはなかった。
こうして兄に会うのはいつ以来だろうか。
私が隣国に嫁いでからは手紙を送る程度だったので直に会うのは本当に久しぶりだった。
「ヴィオレッタ…帝国に帰って来なさい」
「お兄様、同盟を潰す気ですの?」
「ならば、お前はくだらないプライドの為に息子を見殺しにするのか…何も知らなかった私も浅はかであるが、このままではこの子の将来はどうなる」
お兄様は私のこれまでのことを憂いてあえて厳しいことを言う。
でも、ここで離縁すればエドナの思う壺だし。
さらに立場が悪くなるのは私ではなくエリオルなので頷けなかった。
「手紙では私達に心配させまいと嘘をついていたのは解っていた…だが、ここまで酷い状況とは思わなかった」
「普通は気づくわよ。だからアンタはダメなのよ」
「やかましい!性別詐欺が!」
「何ですって?アンタの甥は素敵な王子様だったのに!」
「貴様!私の可愛い甥に危険な扉を開かせるな!」
話が脱線するも背後から見える杖が振り落とされる。
「エリオルが起きるだろうが」
「「はい、すいません」」
昔からこの二人はお婆様には全く叶わなかった。
私も頭が上がらないのは今も変わらないのだけど、このやり取りを見て少しだけ心を落ち着かせることができた。
「お前が自分の保身の為に息子を捨てるとはありえないだろうよ…既に手は打ってあるのだろ?」
「はい、少なくともラスカル家への恩は清算させました。後はエリオルの後ろ盾に後見人の用意です」
私はずっと考えいた。
幼少期から他の子供以上に聡明なエリオルは騎士にこそ向いてないかもしれないが、賢者としての才能があると。
あの子はとても聡明故に周りの空気を察し、できるだけ前に出ないようにしている。
幼少の頃から不遇な扱い故だと言えばそれまでだけど、忍耐力が強く、優しくも頭のいい子だった。
何より努力家だった。
「エリオルは現在、ベルクハイツ家から後見人の申し出が出ております。第一王子殿下の側仕えに迎えたいと」
「しかし第一王子は立太子するには難しい、第二王子の母親は侯爵家だろう」
「本人は王位に興味はありませんわ。あの方もご自分の立場の危うさを理解しております…ですが、第一王子であることは変わりません」
万一第二王子が王太子殿下になっても、王になれるとは限らないのだから。
ヴァルハラ王国では長子が後継ぎになるのが絶対条件となっているが、その次に血筋や後ろ盾が重要視される。
ウィルフレッド様の母君は伯爵家だったことから家格から言えば低いし、本来ならば正妃となるはずだったが政治的な思惑もあって側室にされてしまった。
その為ウィルフレッド様の立場が危ぶまれ、幾度も毒殺未遂を企てられたことがあった。
その所為で食が細くなり病弱なったことでさらに第二王子を次期王にとの声も上がっていたのだけど、ある日私の元にランスロット様から手紙が来た。
食が細かったウィルフレッド様はエリオルのお茶のおかげで病弱な体から健康な体になり、今では食事もしっかり取れるようになっていると。
このままウィルフレッド様に仕えさせたいと言われる程に、評価され。
今ではベルクハイツ家の使用人からも一目置かれ、後ろ盾になるとまでも言ってくださっている。
「エドナの妨害が及ばないようにあらゆる手を使っております。それに、真っ当な理由をつけて離縁するならば社交界でも問題にならないでしょう」
「そんな悠長な…」
「社交界を甘く見ないでくださいませ。このままエリオルが成人した時偽りの噂で吹聴され、逃げ出したと陰口を叩かれ続けるなんてあってはなりません…何よりエリオルがマルスよりも優れていることを知らしめる必要があります」
エリオルには長い間、辛い思いをさせていたけど。
でも、後少しの辛抱なの。
もう少しであの子は鳥籠から出ることができる。
「けれど、私と一緒にラスカル家を出ようと言わせてしまったことは…後悔しています」
「え?駆け落ち?やだ!素敵」
「喜ぶな!」
再びお婆様が杖を振り落とされる。
「でも、普通はできないわよ?母親を連れて家を出ようなんて!」
「あの子は私の為にずっと耐えてきたのです。伯爵家で使用人のように扱われ、蔑まれながらも…きっと私が知らない所で使用人にも暴行を加えられていたでしょう」
時折腕に痣があった。
きっとエドナの側仕え侍女達が痛めつけたのだろう。
そう思うと胸が張り裂けそうだったが、私に傷つく資格はない。
けれど、その代わりに成すべきことがあるのだから。
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