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第二部.薔薇の花嫁
23.前世と現世
しおりを挟む優しくで残酷な記憶。
朧げな記憶にはっきりと脳内に刻まれていく。
(そうだ…私は…)
気怠さを感じながら前世の記憶を思い出す。
最期に見た愛しい人の表情は涙を流しながら泣き叫んでいた。
真っ赤に染まる手も気にせず抱きしめられていた。
(私は、貴方を最後に泣かせてしまった)
優しくて繊細な心を持った人だった。
守ってあげたい。
そう思っていたのに、最後は傷つけてしまった。
****
気怠さを感じながらも耳とに響く声で目を覚ます。
「フローレンス!」
「うっ…」
「良かった、目が覚めたか」
安堵するアリシエを見つめるフローレンスは涙を流した。
「どうしたんだ‥苦しいのか!」
「…め…な‥さい」
「どうした?何故謝るのだ?謝るのは俺だ。君がまだ病み上がりだということを忘れていた。すなない」
何処までも優しいアリシエにさらに胸が痛む。
(私はどれだけ酷いことを…)
全ての記憶を取り戻し、フローレンスは気づいてしまった。
アリシエが前世で愛し合った夫であること。
そして、アリシエは前世の記憶を持っていることを。
クラエス領地に来てから、懐かしいお茶やお菓子はすべて前世で爽歌だった頃に愛して止まないものばかりだった。
シプロキサンに似ているが異なる茶器。
「ごめんなさい…ごめんなさい」
「どうして謝るんだ?顔を上げてくれ…一体どうしたんだ」
謝り続けるフローレンスに様子がおかしい気づく。
「アシャー…」
「なっ!」
アリシエは耳を疑った。
この愛称で呼ぶものは母親とお付き侍女のジャスミンだけだった。
後は――。
「約束を破ってごめんなさい…貴方」
「サヤカ!まさか記憶が」
「思い出しました。私の名前は九条爽歌…いいえ、サヤカ・シネンシア」
胸が抉られるような思いだった。
どうして今まで思い出すことが出来なかったのか。
アリシエはそれとなくサインを出していたが、既視感はあったのに。
「ごめんなさい…ごめ…」
謝り続けるフローレンスだったが、謝罪は無理矢理止められた。
「んっ…」
「サヤカ」
キスをされ、息をする暇もなかった。
啄む様なキスに息苦しさを感じながらも抵抗はしなかった。
「愛しているフローレンス…いや、サヤカ」
「アシャー」
「こんなに幸せなことはない。君が思い出してくれるなんて…」
泣きそうな表情をしながらも、どこか嬉しそうな表情だった。
「どうして…私は」
「俺も最初から記憶があったんじゃない。だが、幼少期から何度も夢を見た。君の夢だ」
「えっ?」
キョトンとした表情をしながら驚く。
アリシエ自身も最初から前世の記憶を持っていたわけではないと聞かさる。
「君と出会った薔薇園の後だ。怪我をして熱に浮かされてから曖昧な記憶を取り戻した…だが、俺は記憶を思い出す前に君に惚れてしまった」
「えっ…」
「前世は関係ない。フローレンスに惚れたんだ。だから今の俺の気持ちを誤解しないで欲しい」
きっかけは前世の夢だったかもしれない。
けれど、フローレンスに惹かれたのはあくまでアリシエだった。
そして今も。
「俺は前世関係なく君を愛している。でも、思い出して欲しいとも思っていた」
「どうして…貴方は何時も優しいの。優しすぎるわ!」
「当たり前だろう?愛する人に優しくしたいのは当然だ」
八つ当たりに近しい感情をぶつけてしまっているのに、アリシエは受け止めていた。
「俺は君が大切だから優しくしたいんだ。本当に何度言っても理解してくれ」
「さりげなく馬鹿にしているわね」
「事実だ」
返す言葉もない。
前世の頃から無鉄砲だった記憶がある。
「向こう見ずで、無鉄砲であるが、誰よりも真っすぐな君が好きだった」
「アシャー…」
「今変わらないがな?」
苦笑するアリシエに何も言えなくなる。
「もう一度言う、俺は…」
「私は貴方を幸せにできないわ」
「えっ…」
再度プロポーズするや否や言われた言葉にアリシエは固まった。
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