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第四部帰省とお家事情
35.交わらない心
しおりを挟むこれ以上の話し合いなど無意味だと判断したエステルは視線を逸らす。
公の間で身内の恥を晒してしまったことの自責の念もあったが、ここまで言っても解らない人間とは思わなかったのだ。
ある意味でヘレンも自分も同じだったのかもしれない。
(ヘレン…)
絶対の正しさなんて存在しないし、絶対の間違いも存在しない。
王都を出て、自分の視野の狭さを改めて理解した。
過去の自分は本当に世間知らずで何も見ようとしなかったのだと。
「もう一度自分の行動を改めて考えなさい」
「何をですの」
ヘレンはエステルが何を言っているか解ってない。
悪いのはエステルであって自分は悪いことを何一つしていない。
常に正しいのは自分なのだから。
そう言い聞かせているヘレンに対してエステルは憐れみの表情を浮かべる。
「間違いにも気づかず、手遅れになる前に気づきなさい」
「私は何も間違っていませんわ!私は正しい事しかしていません」
「常に正しいことをしている人間はいません」
エステルの言葉に一切耳を傾けないヘレン。
隣にいるカルロも同様に、聞こうともせず責める言葉だけを放つ。
「エステル…昔の君はこんな酷い人間じゃなかっただろ。優しかったのに」
「そうですわ、昔のお姉様はもっと優しかったのに。私のことは何でも聞いてくれる優しいお姉様だったのにどうして変わってしまったんですの!」
「あんなに仲が良いい姉妹だっただろう!」
昔と今の自分、どれも同じだった。
ただ二人が望むのは従順なエステルであって意思を持つエステルは必要なかった。
「昔のエステルって、アンタ達にとってこの子は都合のいい道具じゃないのよ」
「さっきから黙って聞いてりゃ…お前等エステルをなんだと思ってんだよ!」
もう耐えられないと思ったミシェルがブチ切れる。
ユランもカルロのあんまりな言い草に黙っていることは出来ない。
「私は優しいお姉様に戻って…」
「優しいって何よ?アンタの命令をはいはい聞いているだけ?」
「こいつはお前の下僕じゃねぇんだよ!!」
「私はそんなつもり…」
この期に及んでまだ自分の言い分を正当化するヘレンに嫌気がさすユラン。
どうしてエステルがここまで自分への評価が少ないのか。
自分に対して容赦がないのか解った。
「ミシェル様、ユラン…もういいです」
「はぁ?何言ってんのよ」
「いいわけあるか!お前はこいつ等の所為で人生を狂わされてんだろ?こいつ等はお前をゴミのように扱って見下して…お前の人格を無視してんだろ!人として最低だろ!」
怒る狂う二人を止めようとしたエステルだったが止まるはずもない。
「お前が学園でどれだけ頑張ったか、こいつ等は認めない。ずっと見下してきて優越感に浸って来たんだからな?一度でも家族だなんて認識していたか怪しいぜ」
「そんな!あんまりですわ」
ヘレンは泣きそうな顔をしながら反論するが、誰もヘレンに同情する人間はいない。
いるとすればカルロぐらいだ。
「貴様!いい加減にしろ」
「いい加減にするのはお前だろ!」
ヘレンを庇いながらユランに掴みかかろうとする。
「やめないかカルロ」
ガイナスに押さえつけられていたので、叶わなかった。
フレッツ侯爵夫妻は、頼むからこれ以上余計なことを言わないで欲しいと思った。
既にヘレンとカルロに対する視線は軽蔑だけだった。
一刻も早くこの場を立ち去らなければさらなる問題に発展するのだが、その問題が生じる。
「ヘレン!」
人混みをかき分けて現れたのはジュリエッタだった。
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